第17話 化け鼠と保護猫
妖怪と接触する術者になるためには、やはり妖怪の事を知らねばならない。術者の家に生まれ術者になる事が決まった彼も、その運命のくびきからは逃れられなかった。
したがって彼は、妖怪たちと共に働いたり他の働く妖怪たちの様子を見るという仕事と日課が課せられたのだ。術者というのは何も殺し屋稼業で成り立っているのではないし、妖怪もそんなに邪悪な生き物ばかりではない。妖怪は人間と敵対するだけではなく、相互理解・相互扶助も結構その業界では珍しくない。
要するに、最大の敵は先入観と偏見なのだ。
彼がやって来たのは保護猫の施設だった。野良猫を捕まえ、繁殖しないように手術を施し、然るべき貰い手に引き渡す。猫好きから見れば楽園のごときこの施設にも当然のように妖怪はいた。
施設のオーナーが猫又であるのは良いとして、驚いた事に彼女の右腕たるチーフマネージャーは何と年数経た化け鼠だったのだ。彼は術者としての能力は未熟だったが、霊感というか妖怪を見抜く能力には長けており、チーフの本性も見抜いてしまったのである。
「あなたのような方が猫の保護活動に参加なさっているとは驚きです」
猫又オーナーがいない時に、彼はそっとチーフに話しかけた。チーフはブチ模様の和猫を優しく抱っこしている。この猫はどうにか人に心を開いたという事で、近々希望者に引き取られるはずだった。
「確かに僕らにとっては猫は天敵だってみんな知ってるから、不思議に思うのは無理もない事だよね」
化け鼠という種族のイメージとは裏腹に、彼の言葉は穏やかだった。
「とはいえ、野良猫を保護して然るべき飼い主を見つける……言ってみれば、野良猫を減らす活動は僕らにもメリットがあるんだよ」
チーフはそう言うと猫をそっと床に降ろした。ブチ猫はそのままチーフから離れ、空いている猫ベッドに入り込んでしまった。
「野良猫が減れば、犠牲になる眷属たちも減るからね……まぁ、僕も僕で利己的な活動に手を染めているって事さ」
チーフの笑みが寂しげだったのは、不純な動機で保護猫活動に参加している事への罪悪感なのだろうか。
ともあれ、妖怪も存外人間に近い所があるのだと、彼は強く感じたのだった。
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