対魔竜ファーヴニル作戦会議②
――デスゲイルズたちのことをシズクやルビィたちに任せ、クリムが庭園へと戻ると……そこにはいつの間にか、ソールレオンとシャオ、そしてカトレアを伴いやってきたセオドライトらの主要ユニオンの代表たちが中庭の茶会場へと集まり、先に席に着いていた。
この日はせっかく
「む、何じゃお主ら、早かったな」
「ええ、できるだけ早く報告したい事もありましたからね」
ホストであるクリムが席につくなり、真っ先にシャオが挙手し、語り始める。
「まずは僕からの報告ですが、僕ら共和国の主力部隊は、本日の探索で生命院テュールの『管制棟
そう、シャオは二つの建造物のスクリーンショットを写したウインドウを周囲に見えるように開き、解説する。
それが終わると、次に挙手したのはソールレオンだ。
「それと、私たち北方帝国の主力部隊もシャオたちに追いつき『管制棟β』にて合流した。明日の夜にでも二つのユニオン合同で管制棟の攻略に挑む予定だ」
「僕らが管制棟を攻略し終われば、生命院テュールの転送網も再起動できますからね。まだ攻略が進んでいないギルドとも合流が楽になります」
一方で、シャオたちから送られてきた『管制棟β』の情報を眺め、唸っているのはクリムだ。
「ふむ……このお主らから送られてきた座標に管制棟があるならば、我ら『ルアシェイア』も明日のうちに合流できそうじゃが」
実際、出遅れていた連王国も聖王国も、思っていたよりも間近なところまで来ていたことに驚いていたところだ。明日の昼に急いで進めば、夜までに合流は可能だろう、が。
「気にしなくていいぞ。裏で色々根回ししている君らルアシェイアも、イァルハ関連でゴタついてる聖王国も、なんだかんだ忙しそうだからな」
「それに、あなた方が不参加なぶん先行ボーナスを僕らだけで占有できますからね」
「それはそれで、何か悔しいのぅ」
「ですね……」
いけしゃあしゃあと紅茶を楽しみながら放ったソールレオンとシャオの言葉に、クリムとセオドライトは揃って呆れたように苦笑する。
「ただ、すでに到着している連王国所属ギルドの『銀の翼』『黒狼隊』『リリィ・ガーデン』『S.S.S団』、それと『黄昏の猟兵』の戦力はお借りして構いませんね?」
「ああ、それはもちろん構わぬ。彼らには、よろしく頼むと言っておこう」
これで、お互いの状況の共有は以上となるのだが……本題となるのはここからだ。
「それで、あなたの方から報告は?」
「何やら、最近は『
「ああ、それでいま、ルビィとペリドットが下に来ているんじゃがな」
クリムは、最近各国で進められている、デスゲイルズに協力してもらっての空輸事業について現在の進展をざっと報告する。
「……と、そんな感じじゃな。あと実はもう二人、連絡が入っている『刈り取る者』がおってな。今日のこの時間に我らが会議をしているから、そこで会えぬかと約束をしていたのじゃが……どうやら、来たようじゃな」
そう、クリムが空を見上げた先では――四つの飛行物体がこちらへと高速で接近してきており、やがてクリムたちのいる庭園へと降りてきた。
◇
降りてきたのは、深紅のストレートヘアをした威厳のある少女……『刈り取る者』隊長であるガーネットと、融機人の美人剣士サフィア。
「お待たせしました、お邪魔しますね」
「私も先程こちらに向かっている最中にちょうどガーネットさんを見つけまして、同行してきた次第です」
「よく来てくれた、ガーネットに、サフィアよ。それと……」
ガーネットから一歩引いたところに立つ、白系統のカラーリングが目立つ二人の見知らぬ人物。
おそらく姉妹機なのであろう、よく似た姿をした融機人の二人に、クリムたちの視線が集中する。
その視線を受け、二人の新たな人物のうちの一人……ゆるい三つ編みを腰のあたりまで伸ばし、身体のあちこちには甲冑状の追加装甲を纏った騎士風の姿をした方が、口を開く。
「ディアマント。皆からはディア副長とかよばれてる。貴方達はご自由にどうぞ」
「少々無口な人ですが、優秀な私らの
今度は、ガーネットの視線を受けて、もう一人の白い人物……シスター服を模したような衣装を纏うハーフアップの少女が、手を前で合わせて深く今を下げる。
「パールと申します。隊の皆の修復を担当する医療班で、戦闘はあまり得意ではありませんので後方での支援役となりますが、よろしくお願いします」
「彼女らは……まあ、あなた方も薄々お察しの通り直系の姉妹機です。無口と引っ込み思案で少々コミュニケーションに難がありますが、仲良くしてあげてください」
肩をすくめながらのガーネットの言葉に、二人は苦笑しつつ「恐縮です」と頭を下げて、一歩下がってしまう。
それでもガーネットのやや後方で左右に分かれて控えているのを見るに、どうやら隊長であるガーネットの側近ポジションらしい。
そんな初対面の二人が自己紹介を終え、次に挙手したのはサフィアだ。
「それと、今回こちらには来ていませんが、私の方からは生命院テュールを探索中だった仲間の『アメジスト』と、ラピス……こほん、私の妹機である『ラピス・ラズリ』を発見、合流しました。アメジストは各種妨害による後方支援、ラピスは光学兵装による火力支援が得意ですから、戦力としては申し分ないですよ」
そう、この場にいない仲間たちのことを教えてくれるサフィア。
新たに四人、また『刈り取る者』が揃ったという報告に。
「お主らも、だいぶ揃ったのう。たしか十二人と補欠のカトレアで、合計十三人じゃったよな?」
「ええ、おかげさまで。今のところ皆が無事なようで何よりです」
「あと……まだ見つかっていないのは四人ですね、早く見つけてあげたいところなのですが」
「そちらに関しては、こちらでもまだ皆に協力を頼んでおこう。あるいは、この先の島にいるのかもしれぬしな」
そうクリムが告げて、『刈り取る者』らの報告も終わり……かと思った時。
「あ、私からも一つ」
不意に、新たな声が上がった。
そちらを見ると、今まさに格納庫からこちらに上がってきたらしいペリドットの姿があった。
「む、ペリドット、もう終わったのか?」
「はい。今はルビィちゃんが、最後のチェック作業をしてくれています」
そう言って、ペリドットは通り掛かったメイド姿のドッペルゲンガーに茶を頼むと、クリムたちのいる席に着く。
「それで、現時点までに分かっていることの中で、重要度が高そうなもの……魔竜ファーヴニルに使われている、ドヴェルグの作り上げたオリハルコンの骨格についてです」
そう切り出したペリドットの言葉を聞いて、皆に微かな緊張が走る。
「もう何かわかったのか?」
「ええ、まあ、まだまだ断片的ではありますが……ひとまず判明している、ファーヴニルの骨格を破壊する方法は二つ」
そう言って、彼女は指を二本立てて、周囲を見渡す。
「まず一つ目が、ドヴェルグたちの骨格に込めた怨念を上回る、彼らを否定する思念をぶつけて相殺する事。ただしこちらは、条件として『向こうの側』に近い波長のものが必要となるため、今では困難でしょう」
「恨み辛み積み重ねた一族の、数百年分の怨念を上回る思念とは……さらに当時の関係者も居ない今では、確かに困難じゃな」
長い年月を掛けて、地下で恨み辛みを蓄えてきたドヴェルグの怨嗟が込められたオリハルコンの骨格だ、果たして、そこにどれだけの思念が詰め込まれているかなど、クリムたちには想像もつかない。
となると、こちらの案は現実的とは言い難い。
「そして、もう一つが……『原初の無』属性を帯びた武器や魔法による攻撃です」
「原初の……無属性?」
「はい。宇宙創生以前の力と言われている『原初の無』、あるいは別名『虚無』属性は、この宇宙を形作る理の外側にある力です。たとえ膨大な怨念を蓄積したオリハルコンの骨格といえど、傷付けることは可能でしょう……が」
「問題は、極々希少な属性ということですね」
説明の後半になるにつれて言葉を濁すペリドットに代わり、ガーネットが問題点を指摘する。
「一応、私の切り札にその属性を持った物がありますが、グラズヘイムではせいぜい三十秒くらいしか起動できませんよ?」
控えめに挙手したサフィアの言葉に、皆、黙りこくる。彼女の実力を疑ってはいないが、三十秒だけというその『切り札』頼みというのはあまりにもリスキーだ。
「あと、私が知っている物としては……スザクさんと言いましたか、あの竜の剣士をはじめとした数名の方々が持っていた、邪竜ファーヴニル分体由来の材料で作られた武具と、前日雛菊さんが入手された『
「ふむ……あれか、最大開放すると刃の部分に謎力場の刃を形成するタイプの武器だね」
「はい、まさにあれこそが『原初の無』属性です……もっともそれらの『原初の無』属性の含有率はあまり高くないため、あくまでも傷をつけられる程度のことではありますが」
ソールレオンの言葉に、頷きながらもこちらについての問題点を挙げるペリドット。どうやら継続したダメージソースにはなるものの、決定打とはならないようだ。
一方で……。
「原初の……」
「無……」
セオドライトとカトレアが呟くと同時に、クリムの方へと向けられる、二対の視線。
それに引き寄せられるようにして、この場にいる皆の視線までもがクリムへと集中する。
「えっと……これならば、どうじゃ?」
皆の注目が集まる中、クリムは少しばかりおっかなびっくりに『虚無の剣』を発動し、手元に漆黒の短剣を作り出す。すると、その武器を見た『刈り取る者』からは。
「「「うわ……」」」
一斉にハモった、『刈り取る者』たちのドン引きの声と表情。
「凄まじいですね、よく手にして平気で居られるものです……」
「純粋な『原初の闇』を固定化した武器、ちょっと頭おかしい」
「はあ……これを手にして突然体の一部が崩れたりとか、精神に異常がでたりとか、健康面で副作用とか出たりしていないんですか、あなた?」
「先程挙げた武器で、属性率を数値化すると5%くらいなんですけどね……」
「サフィア姉様の切り札、『原初の闇』属性、あれで何パーセント?」
「えぇと、50%と少しくらいでしょうか……あちらの短剣はほぼ100%に近いみたいですが」
――と、まあ、ドン引きな表情で散々好き放題言っている『刈り取る者』たちの台詞に、クリムは若干の精神的ダメージを負わされつつ。
ペリドットが言うには、クリムの『虚無の剣』は対オリハルコン骨格としては申し分ない性能であると、太鼓判を押してくれた。
「なら、骨格を破壊するには、最も安定した火力ソースを持つクリムさんを要として『原初の無』持ちのメンバーを集める事になりそうですね」
「とはいえ、まだまだ情報が足りていない現状での話だ。残る作戦の詰めは、『虹の橋』の施設情報が判明してからだな」
そう、シャオとソールレオンが結論付ける。
あとは……と皆が周囲のメンバーに目配せし合ってみるが、今日はこれ以上の意見は出ないようだ。
「では、『虹の橋』に巣食う魔竜ファーヴニルの討伐予定日は、今月末……7月31日の朝からとする。それまで皆で、可能な限り情報収集と決戦準備に徹するということでよいか?」
クリムの言葉に、この場に集った皆が頷く。
八月に入れば、クリムやその現実世界での友人たちの大半は、現実世界側で海上都市『アマテラス』への観光旅行に出立する。
奇しくも魔竜ファーヴニル討伐決行は、その前日。
本格的に夏休みとなる前、最後の大仕事が始まることが、この日、確定したのだった。
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