機竜デスゲイルズ③
『なるほど、なるほど。姉御はオレをテイムしたいんスね?』
「う、うん。ボクの仲間になってくれないかな?」
『そっすねー。解放してくれた恩もあるし、可愛い子の頼みだし、ぜんぜんアリな話なんだけど……』
思っていたより遥かに乗り気な様子の機竜に、皆が少々肩透かしを感じている中で、彼はシズクに顔を寄せて、まるで人生ではじめての告白を受けた男子中学生のようなソワソワとした様子で尋ねる。
『……ちなみに姉御から見て、オレってどう見えるッスか?』
「え? あ、えっと……」
シズクは突然の質問に戸惑ったようではあったが、しかし元々航空機が好きらしい彼女は、すぐに興奮気味に頬を紅潮させて質問に答える。
「外見での話だと、いかにも速く飛べますって感じのボディ形状と深いブルーの装甲が、ボク的にはめちゃくちゃカッコいいと思います!」
――性格はちょっとアレだけど。
そんな言葉は賢明にも飲み込んだのがクリムからは見えたが、シズクの言葉に元デスゲイルズの機竜は、満更でも無さそうに頷いている。
それに……確かに、彼の姿は格好いい。とくに最初の飛行形態など、クリムを始め少年の心を持つ者ならばほぼ惚れるだろう造形美なのだ。
『分かったッス。姉御たちには恩もあるし、何より可愛い子にカッコいいと言われたら断れないッスからね』
「じゃあ……」
『今から、オレはシズクの姉御の仲間ッス。あ、恋人とかでも全然バッチコイなんでヨロシク!』
「あ、あはは、それはまあ前向きに考えておくね……」
その後、皆で新しく仲間になった機竜の名前をどうしようかと、頭を突き合わせて話し合う。
その結果、彼の名前はフレイが提示した『リウム』という名前で決定した。
尤も、クリムが後でこっそりフレイに名前の由来を聞いたところ……
「だって彼、ヘリウムガスより軽そうだったからな」
という実に酷い理由が出てきて、この話は自分の胸の内だけに収めておこうと心に決めるクリムだった。
……と、そんな話はさておき。
「ふむ……では、最初に姿を見せた時の『超音速形態』には、もう変形できないのじゃな?」
申し訳なさそうに自身の身に起きているバグについて説明してくるリウムの話に、皆で真剣な表情で耳を傾ける。皆を代表してのクリムの問いに、彼は、はっきりと頷いた。
『肯定っス、クリムの大姉御。ハッキングで強制制御装置こそ解除してもらったッスけど、その時に変形プログラムも一緒に壊れたみたいなんですよ』
「まあ、止むに止まれぬ事情があったから、仕方ないと諦めてもらうしかないな」
『そっすねー、お陰で自由になれたから、オレも感謝こそすれど文句はないです』
データを壊した負い目か、隣にいるリコリスにしがみつき、ちょっと申し訳なさそうにリウムの方を見つめているスピネルに、「大丈夫だ」と軽く声を掛けてやりながら話を進めるクリムとリウム。
「それにメタ的に言えば、我らみたいないちプレイヤーに与える力としては、明らかにオーバースペックじゃしなあ」
クリムはちょっとだけガッカリしつつも、納得する。超音速で突進してくるテイムモンスターなど、ゲームバランス崩壊の危機でしかないからだ。
「それに、そんなスピードで飛ばれたら、ボク達が乗っていても振り落とされてしまいますもんね」
シズクのフォローに、皆も同意して頷く。だから、この件はこれで終わりだ。
「というわけで、変形できないからと気兼ねする必要はないからね、リウム!」
『よくわからねっスけど、なんか納得してくれてあんがとな、シズクの姉御』
あとの話し合いは円満に終わり、正式にテイムが完了する。
また、シズクの方も本人たっての希望により、クリムたち『ルアシェイア』への入団希望を表明する。
先ほど共闘した際の彼女の実力にも、とくに不満はなかったため、クリムはその加入を二つ返事で受理した。
――こうしてまた一人、セイファート城におかしな同居人が増えることが決定したのだった。
◇
話も終わり、戦闘中は退避していた皆を集め、さっそくリウムに乗せてもらい運ばれる形でクリムたちはセイファート城へと帰還した。
「はぁ、速かった……」
「まあ、お陰で色々と作戦を組む幅が広がりそうだね」
空の旅に酔ったらしきフレイヤを支えながら、フレイは新たな仲間をどう生かしていくかを考えているようだ。
その他の皆も食堂へ返却する食器類などの荷物をそれぞれ担ぎ、各々移動を始める中で。
「それじゃあシズクちゃん、私たちの拠点を案内するね?」
「あ、はいカスミ先輩、よろしくお願いします!」
新しく加入した仲間から先輩と呼ばれて嬉しかったのか、カスミが意気揚々とシズクを先導して、セイファート城の方へ施設案内に行ってしまう。
皆もそれにぞろぞろとついて行く中で、しんがりを歩くクリムは同じく最後尾をついてくるリウムへと話しかける。
「はは、すまんな慌ただしくて。委員長はどうやらお前の主人に先輩って呼ばれて張り切っておるみたいじゃのう。セツナは後輩と呼ぶにはしたたか過ぎじゃったからなぁ」
初めての後輩らしい後輩に、浮かれた様子のカスミ。その姿に苦笑しながら、クリムものんびりといつもの茶会会場に向かおうとした、その時。
『なあ、クリムの大姉御』
「む、どうしたリウム、お主ももう仲間じゃろ、遠慮などせずに入るといい」
『仲間……そっか、仲間っスか』
不思議そうに、仲間、という言葉を反芻するリウム。
『……本当はオレ、シズクの姉御があんな無邪気に格好いいって言ってくれて、少し嬉しかったッス』
「……ふむ?」
カスミに手を引かれ、もうだいぶ先まで歩いていってしまっているシズクには聞こえない声量で、ボソッと呟いたリウム。その言葉に、クリムは一歩踏み出した足を止める。
『オレ、自分が元はどんな姿だったのか知らねーんですよ。物心ついた時には改造済みで、あとは会ったことある奴のほとんどからは兵器とか備品扱いでほとんど格納庫で眠ってたッスから』
「それは……大変だったな」
『どうなんすかね、あまり大変だったって意識はないんスけど。だから……なんかそんなオレでも好意は持ってもらえるんだなって嬉しかったんスよね。あ、もちろんシズクの姉御には内緒っスよ』
「……そうか。良かったな」
『うっス』
心なしか浮かれている様子で周囲をキョロキョロと見回している竜の姿に、クリムは苦笑しながら、しかし先程の会話で気になった点を尋ねてみる。
「ところでいま、『会ったことのある奴のほとんどから』と言ったか?」
『そっすねー。基本的には嫌な奴ばっかだったんスけど、中にはオレらのことをいつも気にかけて、話しかけてくれた変わり者の女も居たんスよ』
まあ、もう寿命で死んでるだろうけど……そう寂しげに語るリウム。おそらくその人物は、件のグラズヘイム関係者だろう。クリムもその人物について俄然興味が湧いてくる。
「……ふむ、ぜひ、その者のことを聞かせてもらいたいところじゃな」
『あ、聞きたい? 全然話して聞かせるッスよ!』
嬉しそうに語るリウムのその様子を見て、どうやらその女性のことが本当に好きだったのだと感じたクリムが、ふっと口元を緩めて笑う。
「まあ、ゆっくり茶でも飲みながら話を聞かせてもらうとするかの。今日はもう庭でダラダラと駄弁っているだけじゃろうからな」
そう言って、クリムは皆が先に向かっているであろういつもの中庭へと、リウムを先導していくのだった。
◇
……だがこの日はもう、立て続けに起こる出来事に追われて、リウムの話をのんびりと聞くことはついに叶わなかった。
一つはこの日の夜、他のプレイヤーたちの手によって、残る封印装置二つの中の一つ、『天使たちの落夭地』テレポーターのある遺跡北西の封印が解放されたこと。
そしてもう一つは――五つ目の封印解除ログが流れた直後、ネーブルの西方、ルアシェイア連王同盟国首都ガーランドから、夜空を赤く染めるほどに巨大な火の手が上がったこと。
そうして穏やかだったはずの一日は、急転直下を迎えることとなったのだった――……
【後書き】
デスゲイルズの名前は、コメントの中でいくつか候補が挙がっていた中から選ばせていただきました、ありがとうございます。色々と悩みましたが『リウム』で採用させていただきました。選ばれなかった方は申し訳ありません。
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