合流
――分断されていた仲間たちが、皆無事に姿を見せたことに安堵するのも程々に。
それぞれの通信装置前に現れた仲間たちに情報共有し終えて、クリム、フレイ、そしてソールレオンが皆を代表し、それぞれの持ち場に着く。
「では……行くぞ」
『いつでもいいぞ、クリム』
『ああ、そちらのタイミングに合わせよう』
お互い確認し合ってレバーに手をかけ、タイミングを測って一気に下ろす。
三人で三ヶ所のレバーを同時に操作したところ……水力発電施設へと続く道を閉ざしていた重厚なゲートが、軋んだ音を上げて、とてもゆっくりとした速度で開き始めた。
何層にも厳重に封じられているゲートが完全に開き切るまでは暇になり、通信装置越しに雑談タイムとなったのだ……が。
「うぅ、まだ服がびちょびちょで気持ち悪いです」
「あー、雛菊ちゃん、ごめんねー」
「僕らの中で、軽装で身体能力高いのって雛菊ちゃんだけだったから……」
「……すまん」
頭からタオルを被り、まだポタポタと全身から滴を滴らせている雛菊に、同じ班だったフレイヤたちが平謝りしていた。
全身をプルプル震わせて髪と尻尾をから水気を飛ばそうとしているその様子は大層愛らしいのだが、少し気の毒でもある。たとえ仮想世界のことだとしてもだ。
一方で……
『ユリア、無事で良かった……エルネスタ、まさかとは思うが』
「はいはい、ユリアちゃんに濁流を泳がせるような真似はしてないわよ、団長」
『む……ならばいい』
『だから言ったじゃねぇか、エルネスタやクリムの嬢ちゃんに限って変な真似はしねえって……ハックショイッ!』
呆れたように呟きながら、盛大にくしゃみをしたのは、すぐ背後で覗き込んでいたシュヴァルだ。
『ごめんなさい、シュヴァルさん。大変な役目を押し付けてしまって』
『ま、気にすんな、適材適所ってやつだ』
恐縮するカスミに、鼻を啜りながらも気にするなと笑う、ずぶ濡れのシュヴァル。
やはり各々の班で、誰かが泳がなければならなかった場面はあったようだ。能力や装備面で貧乏籤を引いた者たちはなかなかに大変だったらしい。
「私たちの方は、そのあたりカトゥオヌスさんが大活躍してくださいました!」
「お魚さん、格好良かったよ!」
「む、照れるギョ」
そんな他班と裏腹に、楽しそうに通信装置に話しかけるユリアとスピネルだったが……その報告を聞き進めるにつれて、険しい顔をしていく人物が一人。
『よし、あの魚、三枚に下ろすか』
『何を言ってるんですか、団長』
ユリアがカトゥオヌスに懐いているのが気に食わないらしく、何やら嫉妬に燃えているソールレオンの頭をペシンと叩いてツッコミを入れるラインハルト。
そんな様子に皆から苦笑が上がるが――しかし、次の瞬間に、クリムが険しい表情になる。
「さて……お出迎えの者たちがお出ましみたいじゃな」
ようやくゲートが開き切った途端、急速に接近してくる背筋が泡立つような感触。
悪寒に導かれるまま咄嗟に皆の前に出て、虚空へ向けて大鎌を振るうクリム。
何もないと思われた空間にはしかし硬質な手答えが確かにあり、まるでインクが水面に滲み出るかのように姿を現したのは……以前にも見た、両手が鋏になっているロボット。
姿を消したまま飛び掛かってきた最中に真っ二つに斬り裂かれ、クリムの左右に落下したロボットは、ばちばちとショートする音を上げた後、粉々に爆散する。
また……他の二班も同様に襲撃があったようで、通信装置からも激しい戦闘音が聞こえてきていた。
『なるほど、これがクリムから報告があった、キリングマシンとやらか!』
「うむ、道中これからが本番みたいじゃが、各班、ゆめゆめ油断するでないぞ?」
ゲートの奥より新たに迷彩を解いて現れた3機のロボットを前に、クリムは他の班へ向けて注意を促す。
『ああ、油断するなよクリム?』
『僕らがいないからって、つまらないヘマするんじゃないぞクリム?』
「なんで我にばかり言うのじゃー!?」
しかし何故か集中的に心配され、クリムは解せないといった様子でソールレオンとフレイに向けて抗議するのだった。
◇
ロボットたちの襲撃を退けて、踏み込んだ水力発電施設の中に広がっていたのは――複雑に入り組んだ立体的な通路。
狭い場所に潜んでいるロボットが厄介なのは勿論のこと、他にもスイッチを操作すると他の班が通るルートの足場が移動したりゲートが開いたり、時には戻って別のスイッチを操作しなければいけなかったりと、迷宮の如き意地の悪い回廊を抜けて……およそ二時間ほど。
だいぶ時間こそ掛かったものの、危なげなく踏破して――施設最上層の外周、屋上へと続く長い階段前の広場にて、ようやく分断されていた三班が合流することに成功したのだった。
「はー……やれやれじゃな」
「こういうパーティー分断するダンジョンって昔からあるけど苦手……」
「この場所作った奴、絶対に性格悪いだろ……」
顔を突き合わせ、お互いの労を労い合うクリム、そしてフレイヤとフレイ。その側では……。
「ああ、ユリア、無事で良かった!」
「お兄様……!」
ひしっと抱き合い感動的な再会を果たしているソールレオンとユリア。
「まったく……大袈裟な」
「まあまあ、仲良き事はいいことですよ……たぶん」
そんな二人の様子に、シュヴァルとラインハルトがやれやれと言った様子で肩をすくめていた。
「あとはこの長い階段さえ登れば……」
「このダンジョンもクリアです?」
「見た目からすごくそれっぽいもんね」
一方で、眼前に続く広く長い階段を眺めて思案していたのはリコリス、そして雛菊とカスミ。
彼女たちの言葉に皆、わいわい騒ぐのをやめて、気を取り直して階段へと向き直る。
現実ならば「うげ……」となりそうな長い長い階段だったが、幸いにもここはゲーム内。ならば肉体的な疲労もあまりなく、皆、快調に階段を登り始める。
つまりひたすら歩くだけであり、会話できる暇ができたので……クリムは、気になっていたことを先頭を歩いている大柄なドラゴニュートに尋ねてみることにした。
「……俺について聞かせてほしい?」
怪訝そうに首を傾げ尋ね返してくるリューガーに、うむ、とクリムが頷く。
「先程、エルネスタからも身の上話を聞いてな、あくまで個人的な興味本位ゆえ、べつに話したくなければそれでよいのだが」
「……いや、構わない。いい加減、俺たちも長い付き合いだしな」
フッと笑って快諾するリューガーに、意外そうな顔をしたのは、すぐ後ろを歩いていたエルネスタだ。
「あら、言ってしまうのですか?」
「別にいいだろう、隠している訳でもないしな」
「でも、今まで誰にも言ってなかったのに?」
「聞かれなかったからな」
悪戯っぽく笑って覗き込むエルネスタに、どこか照れた様子で顔を背けたリューガー。彼はエルネスタを指差して、ぼそりと呟く。
「……姉だ」
「はーい、お姉ちゃんですよー。義理ですけども」
実に彼らしく簡潔に、あっけらかんと告げられた言葉に、エルネスタが苦笑しながら肯定する。一同、一瞬何を言われたのか理解できずにフリーズした後……。
「「「――えぇええええええ!?」」」
……北の氷河メンバーを含むほぼ全員から上がった驚愕の声が、広い空洞に木霊したのだった。
【後書き】
文章にすると分かりにくい上にだらだら単調になる道中は全カットよー(´・ω・`)
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