不死の山①
「ふぁあああ……」
「随分と眠そうだな、戦闘フィールド内で寝落ちから強制ログアウトとかやめろよ?」
「うむ……さすがに今日は疲れたというか……あふ」
「というか、ずっとログインしっぱなしなお前が大丈夫か?」
――現在時刻、リアル側ではすでに丑三つ時を回った頃。
あくびを噛み殺しながら、しかし急斜面をひょいひょいと歩くクリムに、そんな指摘を入れてきたのは……明日の朝食の支度をすると言ってログアウトしたフレイヤに変わり、同行者として加わったフレイだった。
「とはいえ、これが最後の材料だし、ここで眠ってしまうのも座りが悪くてなあ」
「はあ……まぁいい、早く終わらせて寝るんだぞ?」
「うん、ありがとうフレイ」
なんだかんだで小言を言いながらも付き合ってくれるフレイに感謝しつつ、クリムはもう一人の同行者へと声を掛ける。
「お主もすまぬな、シャオ。夜分遅くに付き合わせて」
「いえ。なんだか面白そうなものを集めているみたいですからね、構いませんよ」
そう、特に気にした風もなくすぐ後ろをついてくるのは……この山まで案内してくれた、蒼の魔王、シャオ。
「だが。もうメイちゃんは寝てしまったんだろう?」
「はは……あの子は健康優良児ですから。僕は夜更かし上等不健康上等ですけれど」
「「あー……」」
「……言いたいことがあれば、言っても構いませんよ?」
シャオの自虐じみた冗談に思わず納得しかけるクリムとフレイ。
しかしそれが面白くなかったらしく、にこやかに、しかし目だけは笑っていないシャオに……クリムとフレイはまるでもげそうな勢いで、揃って首を横に振るのだった。
◇
――今回、クリムたちがやって来たのは……ブルーライン共和国領、最東端にある群島『クレハ』に存在する最高峰の活火山、『
「しかし……あれじゃな、山を登るだけでいいなら楽なものじゃな!」
「一体あなた方は北で何をしてきたんですかね……」
今回の目的は、この山の頂上にある火口から立ち登るという煙を回収するというのが、ジェードから渡されたミッションだ。
その煙も、ただの煙ではない。はるか昔、暗黒時代よりも以前、なんでも女神が与えた不死の霊薬を火口に投げ込んだ余波だと、もっぱらこのクレハに伝わる伝承では語られている。
「ま、露骨に富士山のエピソードだよな、これ」
「だなぁ……」
言うまでもなく、これはかぐや姫から貰った不死の霊薬を翁、あるいは帝が山頂の火口に捨てたというエピソードからの設定だろう。
身も蓋もなくそんなことを言うフレイに、クリムも苦笑しつつも同意する。
だが、決して根も葉もない噂というわけでもない。実際に、その煙を浴びて元気になったご老体の昔話も幾つかある。
だが、それならばもっと登山客がいても不思議ではないところではあるが……残念ながら、そんな簡単な話でもない。
何でもその昔に火口に不死の霊薬を捨てられたというこの山は――今もなお激しい活動を続けている活火山であり、常に灰が降り積り草木は燃え尽きて生育もできず、近隣には住民が住むことができぬという死の山となっている。
そんな、岩くれがゴロゴロ転がり、あちこちからは真っ黒に固まった溶岩流が内部の赤い光をちらつかせて火を吹く殺風景な風景の山であるが、しかしクリムの足取りは、眠気はさておき、軽い。
「あまり油断するなよ?」
「ふはは、何かトラブルが起きたとしても、急に真竜種に追われるような事より酷いことにはならんじゃろ!」
眠気によるハイテンションのせいか、そう半ばヤケクソじみた調子でフレイの心配を笑い飛ばすクリムだったが、しかし。
「……僕、なんだか今、フラグが立った音が聞こえた気がするんですが」
「奇遇だな、シャオ。僕もだ」
そう、不吉な予感を感じた少年二人、ぶるっと背筋を震わせたのだった――……
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