合流:北の氷河
――無事ダアト=クリファードも見つけて合流し、探索を再開して、少し進んだ時だった。
「きゃー、クリムちゃーん!!」
「わぷっ!?」
突然現れた何者かに不意打ち気味に抱きつかれ、二つの柔らかい何かに顔を突っ込む羽目となったクリムが、苦しげな呻き声をあげる。
――な、なんでいつも我はこの手の攻撃を避けられんのじゃ!?
あっさり捕まった事にパニックを起こしながら、現在抱きついている女性の腕をタップするが、しかし彼女は気付いていない様子でクリムの頭頂部に頬擦りしている。
やがて、窒息のアイコンが点灯しHPバーが不吉な赤いエフェクトと共に振動を始めた、つまりスリップダメージが発生し始めた時。
「やめろ、その子が死ぬぞ」
「あ、ごめんなさいね、久々だったものでつい」
大柄なドラゴニュートの男性に引き剥がされた女性が、申し訳無さそうに謝ってくる。しかしその表情は「満足しました!」とばかりにツヤツヤであり、果たして本当に反省しているかどうか。
クリムを庇って女性を威嚇しているフレイヤの背に隠れて警戒しながら、クリムは現れた人物たちに声を掛ける。
「こうして話をするのは本当に久しぶりじゃな……息災のようで何よりじゃ、エルネスタ、それにリューガーも」
「それに、ソールレオンら三人もな」
クリムに続き、フレイも背後にいたソールレオン、ラインハルト、そしてシュヴァルらいつもの三人組に声を掛ける。
そこにいたのは、クリムたちもよく知っている者たち……ギルド『北の氷河』のレギュラーメンバーたちだった。
「……旅行?」
クリムの隣を歩くソールレオンが、クリムの振った話題に意外そうな顔で尋ね返す。
「うん、まだ本決まりじゃないからそういう話があるってだけじゃがな」
ルアシェイアの皆には、クリムたちも両親の了解や宿泊施設側との調整を済ませて本決まりになってから決を取る予定だったが、他のギルドであるソールレオンらに語る機会はさほど多くない。
故に、ややフライング気味とは思いつつ誘ってみたクリムの発言に、しかし。
「それは、魅力的な誘いだが。すまないが……私、いや、私たち三人は皆、先約があるな」
「そうなのか?」
「はい、両親や親戚がこちらに来るので、年末年始はそちらの方にずっと居る事になりますね」
ソールレオンの言葉を継いでそう教えてくれたラインハルトの言葉に、ああ、それは仕方ないなと納得する。
「ま、コイツらには一年ぶりの家族との再会だ、勘弁してやってくれ」
「はは、別に気にしとらんさ。ではまたの機会にな」
それで、この話は終わり。クリムはサクッと話題を変える。
「しかしまあ……全く他のギルドに出会わんな」
「そうなのかい?」
「うむ、このエリアに入って、お主らが初遭遇じゃ」
ソールレオンの問い掛けに、クリムが頷く。
確かにクリムたちルアシェイアは後発でのんびりと来たが、この他のプレイヤーとの出会いの無さは異常だ。
「まあ、各ギルドに専用のガイドを充てがわれるくらいだからな、よっぽど広いエリアなんだろう」
「あー、やっぱりアレ、そうなのか」
シュヴァルの言葉に、フレイが納得した様子で集団の先頭に目を遣る。
そこでは、どうやら友人同士だったらしい、フィーアとソールレオンたちが連れていた妖精が、お喋りに花を咲かせていた。
――つまるところ、彼女たちは救済措置的な存在なのだ。
とにかく、マップが滅茶苦茶に広い。更には風のエレベーターの選択によりルートがガラッと変化するため、他プレイヤーとほとんどニアミスすらしないのだ。
そんな場所で、尋ねればそこへ案内してくれるガイドのありがたみは、ここまでの道中で充分に理解していた。ただ道標もなく放り出されたら、途方に暮れること請け合いだ。
「聞けば、崖下にも下手をしたらイベントが仕込まれているのでしょう?」
「うん、その先で偶然アイテムを見つけたんだ、ほら、この盾なんだけど」
「ふむ……なるほど、良い盾だな」
興味津々といった様子で尋ねるエルネスタに請われ、フレイヤが快く披露した『蘇生の盾:ヒルドル』を、リューガーが手放しで褒めている。
特殊な能力を抜きでも現在発見されている中でトップクラスの性能があるのはクリムも確認済みであり、同職であれば少しくらい嫉妬を見せても良さそうなものだが……彼は本当によく人間が出来ていると、クリムも思わず感心するのだった。
何にせよ……そんな普通ならば目指さないであろう険しい場所に極上のレアアイテムがある可能性は、既に実例を以って示されている。
「……公開したら、愉快な事になりそうだよなあ」
「……間違いありません、高所落下ガチ勢の聖地になりますね」
そんなフレイとラインハルトの、少し物騒な会話。
少なからず居る、とにかくどれだけ高い所から落下できるかに文字通り命を賭けている集団の存在を思い出し……あちこちで投身自殺が行われている爽やかな高原の図を脳裏に浮かべたクリムたち一向は、揃ってげんなりとした顔をするのだった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます