話の途中だが◯◯だ!

「テレポーター・プラザか、あるいはセイファート城近くにある転送装置の対となる装置を探そう。大至急」



 ――ここは、旧帝国の作った史跡、暗黒時代に亡くなった人々を埋葬した慰霊碑。


 付近から切り出された白い石材によって彫刻された、このランドマーク。

 今も尚犠牲者たちが眠るそこの、墓守だという樹精霊にクリムたちが崖下から回収した少女騎士の遺体を預けて……さて、次はどこを目指そうかと相談を始めた直後、クリムは真っ先ににそう主張した。



 そして、至極真面目な表情で皆に提案するクリムに、皆も神妙な顔で頷く。


「賛成だ、このままいつうっかり妖精たちのいたずらで死ぬか分からんなら、保険は用意しておくべきだ」

「さっきみたいなトラップで落下死だと、遺体回収して蘇生もできないですからね」


 フレイとリコリスが、そう言って賛同する。


『あの……あまり人間さん達にあたし達を警戒されると、ちょっと泣きたいっていうかー……』

「ん?」

『……スミマセンデシタ』


 何やら抗議してくるフィーアだったが、フレイヤが満面の笑顔で首を傾げて『何が弁明でも?』と言外に告げられ、顔を真っ青にして土下座している。


 ……ちなみに、先程の下手人である妖精たちは、現在はぐるぐる巻きにされて木に吊るされていた。


 もっとも、あまり強く縛ってはいないため、逆に楽しそうにしているからお仕置きとしての効果は微妙だし、そのうち抜け出せるだろう。


 できればもっとキツく当たるべきなのだろうが、なまじ見た目が可憐な少年少女なせいで、お仕置きの手がついつい手心を加えてしまうのだ。



 ――なるほど、早くも攻略班のSNSにて『愉快害虫』とか『萌えるゴミ』とか散々言われている訳である。



 たぶん言っても無駄なんだろうなと、皆 (フィーアも含む)、諦めた様子で溜息を吐くのだった。






 ……と、そんな妖精さん達の事など『もうどうにでもなーれ』と諦めて、前向きな話へと戻るクリムたち。


『初代皇帝さんがどこからこの場所に来ていたか?』

「うむ、あの我らの出会った場所以外で、どこか無いかの?」


 皆を代表してのクリムの質問に、フィーアはちょっと考え込む。


『うーん……北の方、山脈の際に遺跡があるから、試しにそこに行ってみる?』

「うむ、よろしく頼む」


 そう、ひとまずの目的地が決定し、慰霊碑からぞろぞろと移動を始める。


「それにしても……何というか、平和な場所なの」

「本当に、歩いているだけでも気持ちいいです」

「ああ、観光スポットとしては俺が知る中でも五本指に入るな」


 はしゃいだ様子のリコリスと雛菊を引率して歩いていたリュウノスケからも、そんな太鼓判が押される。


 ちらほら散見されるエネミーは植物、あるいは昆虫系のエネミーがメインで、数もまばらだ。

 たまに草原に、鑑定するとヤバそうな返答が返ってくる巨大な動物などが居るものの、こちらは基本的にはノンアクティブであり、のんびり草を食んでいる。


 敵自体は強いことは強いが、この辺境最奥まで来たプレイヤーにとっては、どうとでもなるだろう。


 一番の危険は友好的なはずの妖精たちの悪戯というのが、なんというか……


「ねえクリムちゃん、そんな警戒しなくても、もともと平和なエリアとして作ったんじゃないかな?」

「そうじゃなあ、これだけの絶景を作ったのならば、のんびりと見て回って欲しかったのかも……」



 ……あの運営が?



 そんな、ある意味運営に対しての信頼に満ち溢れた疑問を感じつつも、実際この地はひたすら平和なのだ。


「ところで、先程の騎士の遺体は魔物に襲われたのだとおもうのじゃが、この地にはそんな魔物は何か居るのかの?」

『あ、うん。それは多分……』



 ……そんな風に、クリムの質問にフィーアが答えてくれようとしていた時だった――急に、空が暗くなったのは。



「……なあフレイ。我、嫌な予感しかせんのじゃが」

「……奇遇だな、僕もだ」

「いっせーの、せ、で上空を見上げるという事で良いか?」

「ああ、了解した。いっせーの……」


「「せっ!!」」


 先頭に居たクリムとフレイの二人と、さらにはその後ろに居た皆も、同時に空を見上げ……そして、固まった。


 そこには――無数の、巨大な翼を持った小型の竜……飛竜ワイバーンたちが、群れをなしてクリムたちを囲むように旋回していたのだった。


『ごめんみんなー、話の途中だけどワイバーンの群れよ、今の時期は繁殖期で餌を探して山から降りてきてるから、すっごい殺気立ってるから気をつけて!!』

「「「言うのが遅いッ!!」」」


 今更ながらのフィーアの指摘が入った時には、ワイバーンたちは次々と急降下してきていた。


「サラ、リュウノスケはルージュとフィーアを頼む、下がっておれ!」

「悪いまおーさま、俺はハルとダアトの面倒で手一杯だ!」

「うむ、スザクはそれで構わん……来るぞ!」


 それを見たクリムたちは、どうにか非戦闘員を後方へと避難させ、バタバタと慌てて戦闘準備に入るのだった――……

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