終戦

『――あと一分、もう少しだよ、みんな頑張って!! 明日を目指し 戦え友よ、今がそ、の、時、だぁ、だよ!!』

「選曲が古い、あんた本当にJKか!?」


 昔の熱血全盛だった頃っぽい歌詞を口ずさむ彼女に、思わずといった様子でツッコミを入れるスザクはさておき……後方からエールを送る霧須サクラの声が、戦場に響き渡るのだった。





【Final Absolute Defense】

【15080/100000[1:00]】



「クリムさん!」


 残り一分。

 数値的には良いペースに見えたとしても、これまで攻撃してきた仲間たちはすでに息切れし始め、あるいは戦闘不能となり、目に見えて一斉攻撃の勢いは低下している。


 このままでは間に合わないと判断したシャオの指示に、クリムも今しがた呼び出した『ラグナロクウェポン』を手に、フレイヤから尽きたMPを僅かなりとも供給してもらいながら、上空へと声を掛ける。


「わかっとる、リコリス、お主は大丈夫か!?」

「だ……いじょうぶ、なの!」


 上空、『ゼラフ・フリューゲル』展開中なために身動き出来ず、これまで防御スキル全開でベルゼブブの掲げた黒い球体から放たれる閃光を耐え抜いてきたリコリス。

 しかしどうにか健在でいてくれた彼女に問いかけると、彼女は全身被弾によりボロボロになりながらも、はっきりと頷く。


「よし……フレイ、お前も合わせろ!」

「ああ、任せてくれ!」


 クリムは遠隔攻撃に強い二人の仲間に呼びかけると、黄昏色の大剣を手にしたまま、叫ぶ。


「――EXイクシードドライヴ……『刹那幽冥剣』ッ!!」


 クリムの周囲に浮かび上がるのは、十二本の紅剣。

 それが円陣を組んで、バチバチと雷光を放ちながらさながら削岩機のように回転を始める。


「――『レギオンレイヴッ』!!」


 叫びながら、未だ火砲渦巻く最前線へと飛び出した。高速回転する『剣』たちが、ベルゼブブのアブソリュートディフェンスに接触し、激しく火花を散らしながら削り始める。


「EXドライヴ! 『ガトリングキャスト』!!」

「同じく、『ミラー・イデア』!!」


 フレイが、シャオが、高速で攻撃魔法を連射し始める。瞬く間に数十と放たれた冷気系上位魔法は、一瞬で戦場を氷雪で白く染め上げた。


「装填完了、「『アイン・ソフ・アウル=バレット』っ!!」


 また……上空のリコリスからも、これまでの仕返しとばかりに巨大な熱線が、真上から叩きつけるように放たれた。


 目まぐるしく減少していく、ベルゼブブの展開するアブソリュートディフェンスのカウンター。

 一方でクリムたちも、いつエイリーの掲げた黒い球体からあの閃光が直撃コースで飛んでくるかというヒヤヒヤとした心境のまま……一点に集中したエネルギーが収束し、プラズマ火球となって炸裂した。


 以前、クトゥルフ戦にて偶発的に観測されたその現象。

 プレイヤーからは結局『マナバースト』と仮称されたそのプラズマ火球は、ガリガリとベルゼブブが展開する障壁を削り……


 ――キィィ……ン


 硬質な音が鳴り響き、亀裂が走った。



【0/100000[0:16]】



 クリムたちプレイヤーは、間に合った。

 ついに障壁に無数の亀裂が入り、次の瞬間には何万という光の欠片を撒き散らし、砕け散った。


『あ……』


 障壁が砕け、手の内にあった黒い球体が不発となって霧散したことで、呆然とした声を上げるベルゼブブ。


 その隙を逃せば、またも勝機は離れていく。もはや次はないかもしれない。


 故に……クリムは、高らかに宣言した。


「『ノーブルレッド』……ッ!!」


 全ての保有する血を燃やし尽くし、己が身に宿る全ての潜在能力を解放する。

 バサリと背中に悪魔の翼が展開する感触覚めやらぬうちに、全力で足に力を込め、驚きに未だ固まっている少女へと踏み込む。


『まだ……っ!』

「いいや、遊びの時間は終わりじゃ、エイリーッ!!」


 それでも咄嗟に防御障壁を出現させ防ごうとした少女はさすがだったが、しかしクリムの手にした黄昏色の大剣は、それをまるで紙のように切り裂く。


「おぉおおおおおおおッッ!!」

『そん、な、妾が力負けする……!?』


 ならばと咄嗟に繰り出したベルゼブブの青黒い大剣と、牙をむき出しにして咆哮を上げながら振り下ろされたクリムのラグナロクウェポンがぶつかり合い、激しく火花を散らし……僅かに拮抗したのち、力負けしたベルゼブブの小柄な体が吹き飛ばされた。


 そこには、ドレイクの真の姿に変身したソールレオンが。龍人化したスザクが。金色の九尾を生えさせたセツナが。


 雛菊が、カスミが、その他大勢の生き残ったプレイヤーたちが殺到し、クリムの一撃により体勢を崩したベルゼブブへと迫っていた。


 それを呆然と見つめながら……悪魔の少女が、どこか満足げな表情でぽつりと口を開いたのだった。



 ――ああ、楽しかったわ。







【大規模レイドバトル『白の森防衛戦』が、サーバー内で初めて踏破されました】


【各地のテレポーター・プラザからアクセスできる『コンテンツ』から、大規模レイドバトル『追憶:魔姫進軍 白の森防衛戦』にアクセスできるようになりました】


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