彼女たちの戦い①
――クリムたちが相手をする悪魔ベルゼブブが、いよいよ本腰を上げた頃。
「向こうは大変みたいですから、早く片付けます……いくです、紫電の型『無尽の太刀』!!」
そう技名を叫びながら、比較的炎の勢いが弱い火炎旋風の中心へと逆に頭から飛び込んだ雛菊の、鞘に収めたままだった太刀が抜刀された。
……この『無尽の太刀』という技、一撃の威力こそやや高いものの、神速の居合いを一撃見舞うだけという、応変『紫電の型』の
ただ一点……技の出終わりに一瞬だけ、クリムたちが言う『
もっとも、システムのアシストを受けて瞬き一つ分のモーションで終わるこの技をコネクトすること自体が非常に難度が高く、そもそも現実的ではないのだが……しかし。
――キキキキキキキキンッ!
連続で連なった抜刀音、実に八回。
一息に繰り出された剣閃は、もはや光の乱舞にしか見えなくなっていた。
「……まぁまぁですね!」
むふー、と自慢げに成果を確認しながら、オーブからの反撃に対し回避行動に移る雛菊。
彼女から一点集中で執拗な斬撃を浴びせられたオーブには、ピシッと小さな亀裂が入っていた。
――雛菊は、暇な時間があるたびにひたすらこの技をコネクトさせる練習を繰り返してきた。
結果……通常は2回も繋げることができれば御の字というこの技を、彼女は平均5回、最高記録で12回もの回数を連続で繋げることが可能となっていた。
その
――だが、壊せるのはこれで分かった。
ならば後は斬るだけだと、雛菊はその幼い顔に狂気にも似た笑みを浮かべたのだった。
◇
そんな雛菊がオーブの一機を圧倒している一方で、リコリスは背中に『サポートデバイス【フローター】』を背負って自分が担当するオーブを追いかけていた。
「――
逃げようとしていたオーブが、リコリスの放った領域に取り込まれて空中でその動きを急減速させる。
――機術『ラングザマー』。
対象周辺の空気を硬質化させて、対象を縫いとめる術だ。重量のある対象にはさほど効果はないが、浮遊している小さなオーブには効果覿面だった。
その圏内に取り込まれたオーブに追いついたリコリスが、ゴリッと銃口をオーブへと押し付けて、叫ぶ。
「――『バンカー・バレット』!!」
――ガァン!!
硬質な物体を杭打ちしたような音が、戦場に鳴り響いた。
至近距離へと強力無比な衝撃を加えるのが、この『バンカー・バレット』。
普段であれば吹き飛ばされ威力が相殺されるであろうその一撃は、しかし『ラングザマー』との合わせ技によって衝撃の逃げ場を無くしたオーブへと十全に伝わり――
――ピシッ
ほんの小さな破砕音が、だが確かに鳴り響く。
――いける!
そうリコリス思った瞬間、しかしオーブが赤い光を発し、リコリスは危機を察しフローターを展開して上空へと逃れた。
その直後――オーブを中心に吹き荒れた火炎旋風によって、周囲に展開していた障壁『
「リコリスちゃん、大丈夫!?」
「大丈夫です、こちらは私に任せてください!」
そう、心配そうに呼びかけてくるフレイヤに答え、すぐに自分の口から出た言葉にフッと笑いが漏れる。
思えば、以前は弱々しい少女だった自分。そんな自分はいつのまにか居なくなっていた。
はたして、このように一人でも頑張れるようになったのは、いつからだったのだろう。
「早く片付けて……私が皆を、クリムお姉さん達の手助けに行きますっ!」
そんな威勢の良い声を上げて、彼女は一条の線を引いて戦場の空を駆けるのだった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます