作戦会議①

 紅は、今日も今日とて帰宅が遅く夕飯は不要だと言う両親に呆れつつ、一人で夕食を済ませ……


「そうですか、先輩の方もそんなに集まったんですね」

『うん、私と満月さんの募集に来た人数を合わせれば、参加定員いっぱいは無理でも必要な人数はなんとか賄えるんじゃないかな?』


 ……今は、桜と通信越しに、レギオンレイドについて相談していた。




 帰宅直後は予想外に殺到していた参加申請に混乱していた紅だったが……それもひと段落した今は、同じく参加者を募っていた桜と共に、現在の参加希望者数についてすり合わせを行なっていた。


「しかし……やはり、ここの動きは気になりますね」

『うーん、こう露骨に参加者が少ないとねぇ』


 そう言って、二人は参加ギルドの拠点としている街の一覧を照会しながら語る。


 これだけの参加希望者が集まったにもかかわらず――始まりの街ヴィンダム周辺を拠点とするギルドの参加は個人、ギルド問わずほとんど居ない。


「今はジェードたちが内偵してくれているんだけど、やっぱり少し気にしておいた方が良いかもしれないなぁ」


 この一戦が終わっても、まだまだ気になる事は山積みだ。


 時々、気楽なただの一般プレイヤーに戻りたくなる時もあるな……と溜息を吐く紅だったが、自分が決めた道であるのだし、今は泣き言を言うよりも優先してやるべきことがある。


「なんにせよ、現時点でこれだけ集まったのは僥倖だね」


 それでも参加定員500人に対して、現在の参加希望者は380人ほど。これから上下は有るだろうが、多くても定員のおよそ8〜9割が限界だろう。


『うん、まあ流石に場所が解放されたばかりの辺境地域だからねー。来られる人が限られているのと、動機付けが弱かったぶん人数は抑えめだけど、上出来上出来』

「あとは、配置を工夫してやりくりするしか無いですね……」


 そう言って、紅は一つのマップデータを開く。

 これは、防衛戦のために女王から預かった、大切な『白の森ヴァイスヴァルト』のマップ。




 ――防衛対象であるハルニアの木、その中でも最も重要な、フローリアの街に結界を張るのに必要となる、ぐるりと街を巡るように生えている古木の位置が大きな赤い点で書き込まれている。


 この古木、合計八本が、フローリアの守護の要である大結界を構成している。どれかが破壊されるとフローリアの街が剥き出しとなり、そこで敵に侵入されたら大惨事だ。


 そのため、古木の周辺各エリアに生育しているハルニアの木が、そのエリアの古木に対して小結界を構成している。


 それら全てが破壊された場合は古木の小結界が解除されるため、とりあえずプレイヤーはその周辺の木々を守ることが最大の目標となる。




『私はこういう戦術はさっぱりだから、ごめんね満月さん、任せっぱなしになっちゃうね』

「いいえ、桜先輩は気にしないでください。それに自分はこういうの考えるのは嫌いじゃないですから」


 申し訳なさそうに言う桜に気にしないように伝えながら、紅は防衛上大事そうなポイントにマークをつけていく。


 そのまましばらく、ああでもない、こうでもないと二人で語り合っていると。


『お姉ちゃん、お風呂沸いたよー?』

「む、もうそんな時間?」


 不意に、家の管理をしてくれているルージュからそんな連絡が入る。時計を見ると確かに、すでに夜20時を回っていた。


『あ、ごめんねもうそんな時間なんだ。それじゃ、私もお風呂すませてくるね、続きはまた後で。クリムちゃんのお城にお邪魔していいかなぁ?』

「ええ、勿論。それじゃ21時くらいに向こうでって事で。ルージュ、アドニスお姉ちゃんのところに行って、お客さんを迎える準備を頼んできてもらえる?」

『はーい!』


 元気に返事をして、DUOにダイブしていくルージュの姿を見送って……紅は、お風呂の準備の前にNLDのメッセージツールを開くと、使い慣れた一つのアドレスを呼び出す。


「さて……各ギルド間で本格的に作戦会議をする前に、基本方針を詰めておきたいな。昴に連絡しておくかな」


 ――今日の夜、ご飯やお風呂が終わったら都合が良さそうならセイファート城で作戦会議な。


 そう簡潔なメッセージを昴へ送ると、紅も入浴を済ませるために箪笥からいそいそと着替えを引っ張り出して、一階浴室へと向かうのだった。








【後書き】

 人数的にはルルイエの時の半分から三分の一くらい。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る