戦後処理
――ベリアルの乱入というトラブルこそあったがそれはそれとして、楽しい楽しい戦利品配分も、特に揉めることもなく終えて。
「では、とりあえず砦の修繕はこちらでやってしまうぞ。領主を誰に据えるかは後日改めて話し合いとなるが……」
「ま、ほとんど決まったようなもんだけどな」
「そうだなぁ。元々の予定通りで異議なし!」
「今回、すごく頑張っていたからね、こちらも構わないよ」
「いた!? いてっ!? や、ヤメロォ!?」
各ギルド代表が、皆でエルミルの背を次々と叩きながら同意の声を上げる。そんな手荒い洗礼に情け無い悲鳴を上げるエルミルに、皆笑っていた。
そんな光景を同じく笑いながら見守りつつ、エリア管理メニューから街の修繕コマンドを入力するクリム。建造用のゴーレムも、動員可能なものは全て投入する。
「これでよし、それではもう何もなければ、以下自由解散と――」
「ねぇお館様ちょっと待ってぇぇええええッ!?」
皆に解散を告げようとしたクリムに、一人、大声で異議を唱える者がいた。
「いや、ツッコミどころ満載ですよね私!? 耳ですよ、尻尾ですよ、もふもふやぞ!?」
それは……大きな狐尻尾を九本も生やし、細部も色々と変化したままのセツナだった。
半ば涙目でクリムに食ってかかる彼女に、クリムは気まずげに頭を掻きながら答える。
「いや……触れてほしくないかもと思ってな?」
「触れ゛て゛く゛ださ゛い゛よ゛ぉー!!?」
ガチ泣きされた。
流石に申し訳なくなって、クリムは彼女を慰めつつ「ほら、言いたい事全部話してみろ?」と促す。
「――よくぞ聞いてくれました!」
「いや、お主のゴリ押し……」
「聞いてくれました!!」
一瞬で涙を引っ込め、断固としてクリム側から聞いたことにする気である彼女に、全て諦めて話を続けさせる。
「私、隠鬼の真の種族特徴、それが『転身』です。あらかじめ設定してある、生まれつき取り込んだ別の妖魔の力を借りて色々パワーアップします!」
「では、お主が鬼のくせに今狐耳と尻尾があるのは」
「はい、私が九尾狐の力を宿す隠鬼だからです! ちなみにこの姿は『
そう、自慢げに紹介するセツナ。
……正直、羨ましい。男の子の好きなもの詰め合わせみたいな能力だ。
だがきっとそう言うとまた煩くなりそうだしなぁと口には出さないようにしていたクリムだったが……しかしそうしたら、次に彼女にターゲットされたのは、年も近く仲も良い、しかも狐繋がりがある雛菊だった。
「ごめんねぇ雛菊ちゃん?」
「ん? 何がですか?」
「お狐キャラが被ったことです! しかも私は漫画とかで最強扱いされてる九尾狐モチーフですからね!」
申し訳ないと言いつつ胸を張りドヤァ……という顔をしているセツナに、しかし雛菊はというと、半眼になって、呆れたように彼女を見つめていた。そして……
「――浅はかですね」
「おぅっ!?」
雛菊に、はー、とため息混じりに一刀両断され、セツナが呻き声をあげる。
「九尾の狐は確かに最高位と有名ですが、それはあくまで妖、『野狐』としての格の話なのですよ?」
「え、えぇと……?」
「一方で私、銀狐は『善狐』の代表格。将来的には『仙狐』になることが約束されたエリートです。序列が上から天狐、空狐、仙狐、野狐ですから、私の方が(力の優劣はさておき)上に位置するです」
こっそりと都合の悪い部分を小声にしながら、訥々と語る雛菊。この辺りはさすが神職の娘というべきか。
「え、えーと、つまり?」
「お狐様の業界においては、いかに九尾であろうとも野狐など小物なのです。所詮、外様大名のトップくらいの立ち位置なのです!」
「な、なんだってー!?」
いやそれ凄くね? と皆が思ったのだが、それはそれ。
ふんす、と胸を張って言い切る雛菊に、がっくりとオーバーアクションで項垂れるセツナ。
その様子を見て、ふん、と踵を返す雛菊に、クリムはこっそり耳打ちする。
「あの、雛菊ちゃん、その話って諸説無かったっけ? 九尾を天狐のひとつ下に位置した話とか、善狐も力が増すにつれ尾が増える話もあったと思うけど……」
「知りませんです。尻尾の数でマウントを取る人は少し反省するが良いです」
――あー、すごい根に持ってるなぁ。
珍しく絶対零度のツンケンした態度を見せる雛菊に、どうやら本気で臍を曲げているらしいとクリムは苦笑する。
思えば、先ほどからやたらクリムに体を寄せてくるのも、多分慰めてほしいのだろう。可愛らしい主張に、クリムは満更でもなく思いながら、その頭を撫でてやる。
「ぐぬぬ……」
「ふふん、です」
「二人は何を張り合ってるのじゃろうなぁ……」
今度は自慢げにドヤ顔をしている雛菊とそれを悔しげに睨むセツナに、クリムはただ苦笑するのだった。
――そうして、ひとしきり彼女たちが戯れあい満足した頃。
「さて、今度こそ解散するぞ。今日は配信もしておらんから切り抜き編集作業も視聴者への挨拶もないしお気楽なものじゃな」
「「「え」」」
ふと気楽な調子で曰ったクリムの一言に、フレイ、フレイヤ、リコリスらをはじめとした『ルアシェイア』一同の、信じられない話を聞いたような声が重なる。
「あのー、クリムお姉ちゃん? 今日は、パパが仕事があって来れない代わりに私が撮影するって……言ったよね?」
「え゛」
コメント:ほらーやっぱり気付いてなかった
コメント:リコリスちゃんが説明中、ガチガチに緊張して上の空だったからなあ
コメント:まおーさまの◯ミさん戦法かっこよかったよ!
コメント:魔王様カッコ良かったよ……(トゥンク
申し訳なさそうにリコリスが可視化して見せてくれた、配信コメントのウィンドウ。そこには、続々と流れているコメント群。
それは明らかに、ここまでの流れを見ていたものたちの声だった。
「あの、今日の我の言動って……」
「…………ごめんなさいなの。てっきり視聴者さんへのサービスかと思って、バッチリ全部映像に収めたの」
おそるおそる、と言った様子で挙手して尋ねるクリムへと、申し訳なさそうにリコリスが恐ろしいことを言う。
茹で蛸のように真っ赤になっているクリムをよそに、話題がやがて視聴者による『今日のまおーさまの格好良かった場所談義』に移ったあたりで……
「――ン゛ン゛ン゛ン゛ン゛ン゛ン゛ッッ!!?」
……我慢の限界を迎えたクリムは、奇声を上げフレイヤの胸に飛び込んで以降、この日はログアウトするまで二度と顔を上げなかったそうな。
◇
――ガーランド三世の私室。
まるで物取り現場のように部屋の物全てがひっくり返されたその部屋の中心で、一人の青い髪をしたワービーストの錬金術師……ジェードが、小瓶に入った紫色の粉末を興味津々といった様子で眺めていた。
――これは、皆が屋上へと駆けつける中、どうしても気になることがあったために一人皆から離れて砦内を探索していたジェードが、この部屋の寝台下にあった隠し小棚の中から見つけたものだ。
それを鑑定していた彼女は、内容を見るなり、うげ、と声を上げる。
「名前は『奇跡の粉末薬』、と。もうこの時点で怪し過ぎるし……うわー最悪、プレイヤー制作可能じゃん」
しかも、あまり希少な素材が必要なわけではない。今セイファート城の錬金部屋で保有している物資でも、何ダースかは作成可能だろう。
「効果は……HP回復と、自然回復力向上、それと攻撃力バフかぁ。そりゃ、このくらいの素材で手軽に作れてこの効果なら使うよねぇ……さて」
不意に真剣な表情になり、改めてその粉末薬を鑑定し直すジェード。ただし、今回はもう一つ、スキルを追加する。
――鑑定の上位スキル『賢者の瞳』。
アイテムの隠れた効果を見通すそのスキルで、再び調べたその粉末薬は……
「……うーわ、やっぱりロクな物じゃないじゃん」
頭を抱え、心底嫌そうな顔をする。
彼女の手にした『奇跡の粉末薬』は、再び調べ直した結果、その名称を変化させていた。
――『ゾンビパウダー』、と。
【後書き】
妖としての狐は力を増すごとに尾が増えるが、神霊としての狐は人の姿に近寄っていって逆に尾が減るとか(諸説あります。
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