砦攻め①
「クリムちゃん、大丈夫?」
アルベリヒの助言によって『城砦都市ガーランド』の北門開閉装置が起動し、大手門が軋みを上げて開くまでの間……フレイヤが気遣わしげにクリムへと声を掛けてくる。その隣ではフレイも同様に、心配そうな視線を向けている……が。
「……正直に言えば、嫌じゃ。じゃが倒す事があの者らを救う事になるというならば、我は我慢する」
これから待ち受けるアンデッドの巣窟を前に、若干青い顔色ながらも、今のクリムは落ち着いて頷いた。
「そっか……うん、頑張って私もサポートするね!」
「無理しすぎて、前みたいに暴走するなよ」
「おいフレイ、お前が言うな、お前が」
そんな他愛ない会話をしているうちに……ついに城砦の大手門が、その入り口を完全に開いた。
「これは……骨が折れそうじゃな」
アルベリヒの指示により門を抜けた先は……そこからすでに市街の狭い路地になっていた。それを見たクリムが、露骨に嫌そうな顔をする。
おそらく帝国側に抜けられぬための最後の砦という意味もあるのであろう、三重構造の大手門を抜けた先には……砦本体を囲むようにして、統一された規格により、何らかの意図をもって為政者側が建造したのであろう市街地が広がっている。
難攻不落と呼ばれたこの砦の目的……それは当然ながら、帝国内へと敵を通さぬ事。
それは……道が狭く迷路のように入り組んでおり、ところどころ攻める側が不利になるようなキルゾーンを無数に用意されているであろう事は間違い無かった。
……というのを確認するためにチラッとアルベリヒへ視線を送ると、彼は苦々しい表情で頷いた。
『本来であれば、砦の兵たちが迅速に移動するための地下空洞があったのですが……』
「数代に渡って潜伏して細工をしていたような輩が百年放置された遺跡じゃからな、潰されているか、そうでなければ最悪のトラップになっておるじゃろうな」
つまりクリムたちは今からこの、砦からは丸見えとなっているであろう市街を進まねばならないのだ。
まだ射程の関係かそういう動きは無いが……もしクリムが防衛側であれば、間違いなく砦から矢を降らせる。
そんな進んだ先での予想にげんなりしていると……正面の曲がり角の向こうから、一騎の仰々しいプレートメイルに身を包んだ騎士を先頭に据えた、ゾンビの群れが現れる。
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【死霊騎士『デスナイト』】
元は『城砦都市ガーランド』の精鋭である騎士が死霊となった不死者の騎士。
死して尚、城砦を護ることを第一に考え行動し、最前線の精鋭として鍛え上げられた剣技の冴えも健在。
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先頭の騎士の情報を見るに、この死霊騎士が、不死王ガーランドが生前に信を置いていた精鋭の騎士の成れの果てらしい。
「ちぃ、やはり砦の中の奴らはさすがじゃな!?」
咄嗟にクリムが生成した影の太刀を、不穏な闇を纏う盾で受け止める死霊騎士デスナイト。
――手応えがおかしい。まるでダメージを吸収されたかのように。
違和感に突き動かされるようにして、クリムが咄嗟に背後にいる仲間の外側へと逸らすよう、刀を両手で構えて受け流しの体勢に構えた直後――盾が纏う闇と同色の力場を纏ったデスナイトの大剣がクリムへと振り下ろされ、火花を散らして背後の壁を斬り裂く。
「……カウンターとはまた厄介な!」
どうやらあの盾に防がれた攻撃は、次のデスナイトの攻撃の威力に上乗せされるらしい。
実に厄介な特性に舌打ちしつつ、周囲の状況をざっと確認する。
見れば……左右の建物の屋根から、ボタボタと落下しながら後ろに続く仲間たちへ襲い掛かっているゾンビたちの姿。
「皆、かような狭い場所で全員固まって行動しては、まともに身動きが取れず相手の思うツボじゃ! 各ギルド単位に別れ、適宜連携しながら対処しろ! 大振りの攻撃は避け、前衛は突きを主体に敵を近寄らせぬことを意識して行動しろ!」
最前線でデスナイトと激しく切り結びながら、クリムが周囲に指示を出す。
しかしクリムたちプレイヤーの側とて、あの
当然周囲の者たちも、ここまで各々のギルドを支えてきた歴戦の精鋭揃い。指示されるまでもなく、今更ゾンビ程度何するものぞとばかりに皆適時散開して、すでにこの状況へ対応していた。
そんな周囲のプレイヤーの様子に満足したクリムは、次に自分の仲間たちへ声を掛ける。
「雛菊とセツナは、建物上から降りてくる敵を頼む! 委員長は殿を守って!」
「了解です!」
「まっかされましたあ!」
ひらりと周囲の建物の屋根上へと舞い上がる、雛菊とセツナ。直後激しい剣戟の音が頭上から響いてきたのを見るに、どうやら今まさに頭上から奇襲しようとしていた敵に相対したらしい。
一方で委員長も、背後から落下してきたゾンビの足を払い、返す薙刀でその首を刎ねる。危なげないその流れるような連撃、すっかりルアシェイアの最前線を支える存在となったカスミのその成長ぶりに、満足げに頬を緩めるクリムだった。
「リコリスは、周囲の安全を確保しながら周囲のギルドを援護して、でも敵の射手に気をつけて『
「了解なの、『シルヴァ=バレット』リロード……シュートッ!」
雛菊たちが安全を確保した屋根上へとワイヤーで飛び上がっていたリコリスは、そう返事をするや否や、弾丸を装填しながらしゃがみ込んで狙撃態勢を取る。
そこへ丁度、後ろのギルド目掛け別の建造物から落下してきたゾンビ。しかしリコリスの『ブランクイーゼル』から放たれた、対魔特効弾である銀の閃光に貫かれて、空中で塵に還っていった。
「フレイヤ、フレイ、援護よろしく! まずはこの狭い路地を突破する!!」
「任せて!」
「任せろ!」
同時に返答を返した双子が、やはり同時に放った退魔の矢と炎の矢が、デスナイトの横を抜けてこようとしたゾンビたちを数体まとめて貫き、灰に還す。
そんな後ろの幼馴染たちの援護射撃を頼もしく思いながら、クリムは足にグッと力を込める。
次の瞬間――足元が爆ぜるほどの踏み出しと共に、正面を塞ぐデスナイトをその防御ごと貫いて、クリムの刀は路地にひしめく後続のアンデッドたちをまとめて一閃するのだった――……
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