『Worldgate Online』
「改めて……ゲーム部にようこそ、後輩のみんな!」
そう、元気に皆を歓迎してくれる桜だったが……
「……先輩だったんですね。教えてくれてもよかったのに」
「……学校に来てなかったから、後輩だなんて知らなかったんだよ」
ジトっとした目で睨む紅と、居心地悪そうにそっぽを向く青年。その様子に、桜が困ったように頬を掻く。
「あはは……彼はプロゲーマーとして学校を休みがちだから、会った事がなかったのはそのせいもあるけど……」
――プロゲーマー。
その話を聞いて、皆が驚いた表情をしたのを見て……今度は桜が、青年の方をジトっとした目で見上げる。
「朱雀君、ゲーム内でもリアルでも、満月さんと面識あったわよね。言ってなかったの?」
「……言えるわけねーっしょ。この魔王様にはずっと負け続けだっつーのに、何をどうしてプロってイキれるンすか」
「あ、あはは……」
桜の質問に対して、バツが悪そうに、吐き捨てるように返事を返す朱雀。そんな彼に仕返しとばかりにジト目で睨まれて、とりあえず紅は愛想笑いをして誤魔化しておくことにした。
すると彼は、ちょっと照れたようにプイっと明後日の方向を向く。どうやら彼は、こちらでも女の子慣れはしていないらしい。
皆揃って深々とため息を吐き……雰囲気を変えようと、聖と昴がことさら明るい声で話しかける。
「それにしても……びっくりしました。先輩方も同じ学校だったなんて」
「紅に、玲央。それと『竜血の勇者』である彼も一緒とは、すごい偶然ですね」
実に、トッププレイヤーのかなりの割合がここにいることになる。ここまで来ると、もしかして嵐蒼龍のシャオまでどこかに紛れているんじゃないだろうなと疑心暗鬼になる紅だったが。
「……偶然じゃねーよ、多分」
「……え?」
ボソリと呟いたその先輩の声に、紅は首を傾げ聞き返す。
「そういや名乗ってなかったな。俺は緋上朱雀」
「緋上って……もしかして」
「ああ。お前んちの会社に居るだろ?」
彼の言う通り、紅にはその苗字に聞き覚えがあった。
その人物はずっとリモートで指示を出しているために直接の面識は無いが……確か、ゲーム全般のデザイン班のトップが、そんな名前だったはずだ。
「それで、偶然でないとは?」
「うーん……それはね、この学校が伝説のVRMMO『Worldgate Online』の関係者に縁が深い学校だからかな」
「それって……」
「確か、世界最初のフルダイブ型VRMMORPGですよね……ある時、まだ人気があったうちに急にサービス終了になったっていう」
サービス終了から二十年が経過した今も尚、さまざまな憶測が飛び交っているそのゲーム。中にはオカルティックな話題もあり、すっかり何が本当で何が嘘か分からなくなってしまったという。
また、この学園の理事長、アウレオ・ユーバー氏が陣頭指揮を取り開発したゲームとしても有名である。
もっとも彼は、以降、ゲーム業界には関わらずに学者や技術者としての活動に専念する事になるのだが……なるほど、それだけでも縁が深いというには充分だろう。
「私と、そこの朱雀君も両親が関係者なのよー。小さな頃は、お母さんたちから寝物語に色々な話を聞いたものだったわ」
「ま、どうやら知らなかったみたいだが、お前さんもだけどな、魔王様?」
「……またか、母さんめ」
朱雀の言葉に、紅が忌々しげに呟く。
たしかに、天理や宙はその辺りの事情を紅に教えてはくれなかった。しかも今回は父も同罪である、帰ったら追及しなければと心に誓うのだった。
意外な繋がりがあったことに、若干混乱しつつもどうにか納得する紅だったが……
「ま、俺らの素性なんか序の口だぞ」
「君たちもそうよね、
「……ブフッ!?」
「……ゴホッ、ゴホッ!?」
急に話を振られた玲央とラインハルトが、丁度口をつけていた紅茶を噴き出して、咽せる。
「た、大公? 伯爵?」
「大公ってあれよね、公爵の中でもすっごい偉い王様の親戚の……」
あまりに馴染みの薄いそんな爵位の話に、皆がざわつく。そんな周囲の様子をよそに、爆弾を投下した張本人である桜は人差し指を指揮棒のように立てて、いたって落ち着いた様子で説明を続ける。
「ちなみに、公爵って『デューク』と『プリンス』の二パターンあるからややこしいわけだけど、彼は紛れもなくプリンスの方ね」
「ちょ、ちょっと神楽坂先輩!?」
「あら、少なくとも満月さんは関係者なのだから、秘密にしたままっていうのも少し不義理じゃないかしら?」
「ぐ、くっ……」
そのまま人差し指を鼻先に突きつけられ、優しく嗜めるような口調で曰う先輩の言葉に、玲央が反論できずに口籠もった。
「それじゃ、君たちは……」
「本当に、王子様だったの?」
流石に驚きを隠せない様子の昴と聖が、玲央に尋ねる。すると彼は諦めたように溜息を吐くと、渋々と首肯した。
「……ええ、先輩の言う通りですよ。ただ一つ付け加えると、当時の皇太子殿下が十数年前に正式に国王として即位した時に父が大公位を返還して、今は普通の公爵家ですけどね」
諦めたように、渋々と認める玲央。
いやそれでも凄いんじゃ……と思いながらも黙り込む皆に、彼は困った様子で頭を抱えながら、話を続ける。
「というわけで、玖珂玲央は日本での名前。本名はソールレオン・ユーバーといいます。ただし、どこの国かは断固として言いませんよ」
「それと、事情があって正直この国では全く意味のない身分なんで、これまで通り普通に接して貰いたいです」
若干拗ね気味に目を逸らしたまま認めた玲央の言葉を、ラインハルトが苦笑しながらそう補足する。
いずれにせよ……中ば冗談混じりだった噂の真実に、紅たち事情を知らなかった一同は、はぁ……と曖昧な反応を返すことしかできないのだった。
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