ギルド結成

 雛菊とリュウノスケを勧誘してから、三日後の朝。


 話し合いの結果、皆の予定が一致したこの日……クリムたちは、リュウノスケとの待ち合わせ場所である『始まりの街ヴィンダム』の南区、行政区画にあるギルド会館へと来ていた。


「よ、久しぶり……ってほどでもないか」

「っとお待たせ、先に来てたんだ」


 ギルド登録受付の前で待っていたリュウノスケがクリムへと手を振っているのが見えて、そちらへと駆け寄る。


「いやはや、お前さんらは見つけやすくて助かるな、特にクリム」

「あはは、こんな色だもんね……」


 クリムが、自分の長い髪をひと掬い指で弄びながら、苦笑する。

 この数日の間、プレイヤー人口の多い始まりの街周辺をあちこち回ったというのに、結局ほかに同じような白色の頭をしている者は居なかったのだ。


「それで……そちらが娘さん?」


 そう、リュウノスケの背中に隠れている少女に視線を送り、尋ねる。


「すまんな、オレが在宅勤務だからすっかりお父さんっ子に育ったんだが、おかげでちょいと人見知りになっちまってな。ほら、挨拶しな」


 そうリュウノスケに促され、顔だけ出てきたのは……


「あ、ノーム族の子かな?」


 少し屈んで目線を合わせながら、語りかける。


 年齢は、クリムより少し下、おそらく小学生の高学年から中学生くらいと、雛菊とほぼ同じくらいだろう。


 腰下までとクリムに負けず劣らず長い、やや無機物感のある空色の髪と、曇りひとつない最新・最高品質の人工皮膚のような白い肌。

 内部にカメラの絞りのような機構を備え、細かな光の線が時折走る独特の虹彩が入った瞳は、人造生命体であるノーム族の特徴そのもの。


 だが、それに加えて耳元のヘッドセット型のパーツや、頭に髪飾りのように付着している、内部に虹色のレコードのような物が回転している機械状のパーツ、ガントレットのように見える金属のマニピュレーターなど、よりメカメカしく、戦闘的な意匠が追加されている。


「ああ、その中でも『融機種ノーマ・マキナ』とかいうレア種族らしくてな。君らのとこなら悪目立ちもしないだろうってことで、よろしく頼む」

「はは……何故か、そういう種族で揃ってしまいましたもんね……」


 クリムの『ノーブルレッド』を筆頭に、二人の『ハイエルフ』と『銀狐族』、それに彼女『融機種』。リュウノスケ以外全員が希少種族だという事実に、感動さえ覚えていた。



「おかげで、皆で街を歩くと大変なのよねー」


 ここまで来る間の大量の視線を思い出し、苦笑し合うクリムとフレイヤ。一方で……


「お前たちはまだ好意的な視線の分マシだろう。僕なんか殺意混じりの視線を感じるんだぞ」


 そう深々と溜息を吐くのは、このメンバーで今まで唯一の男性キャラクターであり、嫉妬を一身に集め続けたフレイだ。これに関しては、もうドンマイとしか言えないクリムなのだった。


「っと、それはさておき。ギルドマスター予定のクリムです。そんな訳だから、今後よろしくね?」

「あ、あの……」


 握手を求め、クリムが手を差し出す。

 すると彼女はリュウノスケの背後から出てきて、おそるおそるといった様子で、動かすとキュイ、と微かなモーター音がする機械部分が剥き出しとなっている手で握る。


 その様子は、ものすごく警戒心が強いがこちらには興味があり、チラチラと様子を窺っている猫のような雰囲気があった。


「リコリス、です。よろしくお願いします……クリム


 そう言って、儚げな様子でふっとはにかむ彼女……リコリス。


 ――うん、かわいい!


 庇護欲がオーバーロードしそうになり、思わず真顔になって、そう思うクリムなのだった。

 そして……リュウノスケがあれだけ親馬鹿だった理由も、心底理解したのだった。






 自己紹介も終わり、同年代ということで早速リコリスに話しかけている雛菊と、そんな彼女に戸惑いつつも満更でもなさそうに受け答えしているリコリス。


 その様子に、ひとまず任せて大丈夫そうだと安堵しながら、早速ギルド設立申請をテキパキと入力していく。


 ……だが、その最後。


『それでは、ギルド名の登録をお願いします』


 そんなメッセージと共に、皆の前に一件の入力欄が出現する。


「……あ」


 だが……誰も動かない。

 クリムが「うっかりしていた」と言わんばかりの呆けた声を上げたきり、行動に移る者は居なかった。


「……おいクリム、まさかお前」

「……はい。ギルドの名前、考えてませんでした」


 ジト目を向けてくるフレイから、そっと目を逸らして顔を背けるクリム。だがすぐには名前が思いつかず、慌て始める。


「ど、どうしよう皆!?」

「どうしようって、僕はてっきりお前が決めてるもんとばかり!」

「わ、私も! 何も考えてなかったよー!?」

「右に同じくです! こういう時ってどう決めるものなんでしょう!?」

「……はぁ。オレはここで出しゃばるつもりは無いからな、若い連中で考えな」


 肝心なことを忘れていて慌てる一行と、呆れたように苦笑しているリュウノスケに、オロオロと視線を彷徨わせているリコリス。


「あー、お前吸血鬼みたいな物なんだから、それにちなんだ物でも入れておいたらどうだ、例えば月関連とか」

「うん、でも安直にならないかな……」

「あ、あの……」


 おずおずと挙げられた手。それは、今まで発言しようか迷っていたリコリスのもの。

 それに、皆静まり返って彼女へと注目する。


「なら、『ルアシェイア』……ポルトガル語で『満月』……どうでしょう?」


 ドキリとした。彼女は知らないはずなのに、満月……紅の苗字と全く一致したのだから。だが、クリムにもよく分からないけれど、何か惹かれるものがある。


「分かった、それ採用で。皆もそれで構わないかな?」


 クリムの問いに、全員が頷いたのを見届けて、皆の代表としてクリムが欄へと入力する。


『では、ギルド名【ルアシェイア】で登録します』


 システム管理AIがそう告げると同時に、視界の端に流れる『ギルド【ルアシェイア】が結成されました』というメッセージと、新たに追加されたギルド管理画面。




 まだまだ空白の多い、できたばかりのその画面だが……そこに並んだ六つの名前が嬉しくて、皆、顔を合わせて笑い合うのだった――……

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