オオカミ竜・ジャック ～心優しき猛獣の生き様～

インパラ竜

今日は、インパラ竜（インパラ）を狙う。

インパラ竜（インパラ）は、その名が示す通り＜インパラ＞を思わせる外見をした、ジャック達が暮らす草原においては最もありふれた草食獣だった。実に半数以上がインパラ竜（インパラ）とその近似種によって占められていると見られている。

数を増やすことで肉食獣に襲われても種を維持するという、ごく一般的な生存戦略を取っている動物でもある。

とは言え、肉食獣から逃れるためもあり発達した脚力による蹴りは、当たり所が悪ければオオカミ竜（オオカミ）でさえ一撃で死に至ることさえある強力な武器で、決して油断できない相手だった。

なので当然、慎重に事に当たる。またインパラ竜（インパラ）は群れを成す種でもあり、その点でも猪竜（シシ）とは別の注意も必要だった。群れなので、当然、周囲を警戒する目や耳も多い、そして一頭が気付けばすぐに声を上げて仲間にも敵の襲来を告げる。個々の戦闘力こそ低いが、その分、集団としての連携や結束は決してオオカミ竜（オオカミ）に劣るものではなく、そして足も速い。全力で逃げられればオオカミ竜（オオカミ）では追いつけなかった。

だからこそ余計に慎重に狙う。

草の陰に隠れ、じりじりと近付いていく。幼い子供達は狩りの邪魔になるので離れたところで待っているが、ジャックは年齢の割に成長が早く聡いので、成体（おとな）達の狩りの様子を後方で見守っていた。今の時点では狩りそのものには参加しないものの、そう遠くないうちに実際に狩りに参加することにもなるだろう。

ジャックは成体（おとな）達の邪魔をしないように自分はとにかく身を隠しているのが今の役目であると承知している。

だが、その時、草を食んでいたインパラ竜（インパラ）の一頭がハッと頭を上げて、高い位置から周囲に視線を送り、

「ケーッッ！！」

甲高い声を上げた。仲間に危険を知らせる＜警報＞だった。警報を発すると同時に自らも逃げに転じる。瞬間、他のインパラ竜（インパラ）も同じ方向へと走り出した。この間、コンマ数秒。まるで訓練された軍人のように素早い反応だった。

けれどそれは、オオカミ竜（オオカミ）の方も同じ。気付かれた瞬間に弾かれるようにして走り出し、最も手近にいたインパラ竜（インパラ）に食らい付く。そのインパラ竜（インパラ）は老いていて、その分だけ反応が遅れたようだ。こうして生き延びる力のないものが獲物として捕らえられ、そして群れそのものは生き延びる。

＜最後の役目＞

と言ったところだろうか。かと言って、簡単には諦めない。後脚に食らい付かれたインパラ竜（インパラ）はそのオオカミ竜（オオカミ）を振り払おうと蹴り飛ばそうと、体を跳ねさせながら脚を鋭く蹴り出し、抵抗したのだった。