サブナク軍、強襲!

 魔王サブナクの軍勢が押し寄せる。


 コボルトを主体とした200兵。


 魔王サブナクは最初から総力戦を仕掛けてくるようだ。


「もしもこちらに軍勢の余裕があれば軍団を三つに分けて、前回のようにサブナクの本拠を奇襲したいね」


 戦略家としては魅力的な作戦であるが、実行できない。


 軍団に余裕がないからだ。


 こちらの総勢は100に満たない。


 部隊を三つに分けてしまえば、奇襲している間にこちらの本拠を落とされかねない。


 机上の空論には退場願うべきだろう。


「しかし、敵の総数は思ったよりも少ないですね」


「ああ、たぶん、イスマリア伯爵との戦闘で数を減らしたのだろう。補充しようにも素材は誰かさんに盗まれてしまったしな」


 他人事のように言う。


「これならば秘策を使わずに勝てるかもしれませんね」


「そうだといいのだが。まあ、戦況を見守ろう」


 と玉座から《遠視》の魔法で戦況を確認する。


 サブナク軍は正面から正攻法で挑んでくる。堀を乗り越え、城に潜入しようとする。


 こちらも正攻法で迎え撃つ。


 堀の奥に陣取り、堀に降りた敵に弓を射かけ、投石を加える。上ってこようとするものには槍を突き刺す。


 これだけで大分、敵の兵士を減らすことができたが、こちらは軍をふたつに分けているので、50の兵士で200の兵士を相手せねばならない。


 サブナクの兵士たちは意外に勇猛で苦戦する。


 中にはスケルトン兵やオーク兵の防御陣を突破するものもいた。


 それを見てイヴは表情を歪めるが、彼女を安心させるために優しい言葉を掛ける。


「安心しろ、奥の手が控えている」


 先日、召喚した魔物には多くのレイスが含まれる。


 レイスとは幽鬼族のモンスター。実体を持たない幽霊の一種。魔法武器や魔法でしか傷つかない存在。


 彼らを後方に配置し、遊撃部隊とした。


 もしも敵が防御陣を突破したら、彼らを向かわせて応じるつもりだった。


 その作戦はぴたりと当たる。


 堀を越え、困難をはね除けてやってきた敵軍は勇敢で勇猛であったが、所詮はコボルト。


 魔法などは使えず、魔法武器も装備していないため、レイスに対抗するすべがない。


 彼らの槍はレイスを突き刺すことはできてもダメージを与えることはできなかった。


 そしてレイスは、呪殺魔法や火球の魔法によってコボルトを倒せる。


 一方的にコボルトを蹂躙できるのだ。


 あっという間に駆逐されるコボルトたち。


 堀を越え、必死の思いでやってきたというのに可哀想なことであるが、恨むならば無能な指揮官を恨んでほしかった。


「魔法しか効かない魔物も多い。それの対策をすべきだったな」


 死んでいく彼らにそんな言葉を手向けるが、それは余裕が過ぎたかもしれない。


 見ればいつの間にか左翼の防御陣が突破されていた。


 なにごとか、と見れば、獅子の頭を持った大男が、大剣を振り回しながら突き進んでくる。


 彼は迎撃にきたレイスも一撃で倒していた。


 大剣に魔法が付与されているようだ。


 さすがは魔王。さすがは大将と言うべきか。


 彼は自ら陣頭に立ち、戦局を左右しようとしている。


「個人的武勇はFクラスではない、という報告は本当のようだ。さすがはイヴの報告。正確だ」


 軽く笑い声も加えるが、イヴはたしなめてくる。


「笑い話ではありません。このままではサブナクはここまでなだれ込んできますよ」


「そうなったら俺の負けかな。コアを破壊されたら負けなのだろう?」


「御意」


「じゃあ、そうされないように自ら迎撃するか」


「まさか御主人様が陣頭に!?」


「初陣でも陣頭に立っただろう?」


「あれは戦力が過小だったからです。ですが、今は違います。兵力を結集すればサブナクを討ち取れるでしょう」


「だがあの勢いだと手痛い被害を被る。魔物とはいえ、俺の部下。なるべく被害は少ないほうがいい」


「スケルトン兵に自我はありません」


「イヴは俺がサブナクよりも劣ると思っているのか」


「……御主人様はいけずです。そのような論法でわたくしの言葉を封じるとは」


 思いのほか真剣な表情で心配されてしまったので、謝る。


「……すまない。しかし、ここで兵力を温存しておきたいのは事実。ただ、勝つだけならばいくらでも方法はあるが、なるべく少ない犠牲で勝ちたい」


 魔物でも被害は少ないほうがいいというのは本音だ。それにここで大きな被害を受ければイスマリア伯爵や他の魔王の侵攻を許してしまうかもしれない。


 サブナクさえ倒せればいいというわけにはいかないのだ。


 それに自分がサブナクに劣らないというのも本音のひとつではあった。


 俺の強い意志を感じ取ってくれたのだろうか。彼女は最後には受け入れてくれた。


「分かりました。レイス部隊の指揮はわたくしが引き継ぎます。御主人様は前線におもむき、魔王サブナクの首を取ってきてください」


「御意」


 と彼女の口調を戯けながら真似すると、俺は外套をひるがえし、前線に向かった。


 イヴはその姿を最後まで心配そうに見送ってくれた。

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