第397話:ダンジョン

 スノウによく似た女神は微笑みながら、言う。


永見ながみ 知佳ちかさん。彼女との二度に渡る出会いがなければ今の貴方は無いのです」

「だろうな」


 知佳。

 確かにあいつが俺に与えた影響の大きさは計り知れない。

 

 もし大学入学時に知佳と出会っていなければ。

 精力的に就活をすることもなかっただろうし、そうなればダンジョンに落ちることもなくスノウたちと出会うこともなく親父とガルゴさんは殺され、あるいはシエルも殺されていてあの世界は滅びていた。


 過去へ行ってアスカロンの世界を救うことも当然ないし、知佳の他にも綾乃や未菜さんたちと言った今交流のある面子とも一切関わりがないだろう。

 

「悠真さん。貴方へ一つ、お聞きしたいことがあります」

「神様が俺に?」

「貴方はもし、世界を救うか貴方の愛する者を救うかの二択を迫られた時、どちらを選びますか?」

「当然、後者だ。俺は俺の為にしか動かない」


 即答してから、あ、そういえばこの人この世界の神様だった、と思い出した。

 世界を救うというモチベーションがないわけではない。

 ただ、二択になるのなら。


 俺は世界だって敵に回す。

 たとえ神であろうと。


「あっ、もちろん私は貴方と敵対することなんてないですよ!? 私自身には戦う力はほとんどありませんし……」


 ……そうなのか?

 神って言うくらいだし、てっきりアスカロンも真っ青な強さなのかと思っていたが。

 

 しかし言われてみれば確かに強い魔力を感じるわけではない。

 神の力と俺の力とで次元が違うというか、世界が違うから感じないのかと思っていたが……


 どうやらそういうことでもないようだ。


 まあどのみちここで俺が急に襲いかかってもどうにもできないということには変わりはないのだろうけども。

 俺がそんなことをぼんやりと考えていると、女神は顔を赤くして小さな声で。


「……ええと、私は見た目はこうですが、貴方がたとは体を構成している次元が違いますので異性というよりは……」

「そういう襲うじゃないわ!!」

「ふふ、わかってますよ」


 思わず突っ込むと彼女は笑っていた。

 どうやらからかわれただけのようだ。

 そもそも心の内を読めるというのだからそりゃそうか。


 少し落ち着いて。

 閑話休題。


「……色々聞きたいことがある」

「ええ、答えましょう」


 真剣な表情を女神が浮かべる。

 こうして見ると、ますますスノウに似ている。


 もちろん見分けはつく。

 だが、それこそ双子だと言われても信じる程度には似ているのだ。


「セイランは一体何者なんだ」

「……彼女は別の世界の神より恩恵を受けた、神の化身のようなものです。元々は貴方と同じように膨大な魔力を持って生まれたただけの……普通の少女だったのです」

「……神に選ばれただのなんだのとは、言ってたな。それが本当だったってわけか」

「そういうことになります」

「……てことは元々はセイランも世界を救おうとしてたのか? ジョアンや……今の俺のように」


 彼女の言っていることを信じるならば(今更神が嘘をつくとも思えないが)立場としては俺と同じなはずだ。

 それが闇落ちしてああなったのか?

 だとしたら他の世界にまで迷惑をかけるとんでもない規模の闇落ちだが。


「いいえ、違います。彼女は最初から世界を滅ぼすことを目的としていました。そしてそれをあの世界の神も許容していた」

「……神が世界を滅ぼそうとしたってのか? なんのために」


 すると女神は首を横に振った。


「わかりません。セイランが最初に滅ぼしたのは、彼女が生まれた世界。神が真意を口にする前に全てが停止しましたから」

「……世界が滅ぶとその世界の神も死ぬのか?」

「厳密には死にはしません。世界の滅びとは、神が機能を停止してしまうことを言います。管理する世界そのものとその世界の神はリンクしているのです」

「……よくわからんな」


 後で知佳に丸投げしよう。

 というのは半分冗談にしても。


「つまり、神を生き返らせる……というかもう一回動くようにすればその世界も復活するのか? 滅んだ世界が」

「そうなります。あるいは新たな神が生まれて役目を引き継げばその世界は再び動き出します」

「……ならそうすりゃいいだろ?」

「そうできない、というのが正しいのです」

「何故」

「ダンジョンです」


 ここで来るか。

 ダンジョンの存在が。


「ダンジョンとは本来、その世界がより発展する為に作られたものです。どの世界でも人間は高度な進化を遂げ、貴方もよくご存知の通りエネルギー問題が発生していました。他にも食料、人口、温暖化――数多の問題があらゆる世界を蝕んでいたのです」

「……それを解決するのがダンジョンだったってわけか」

「そうなります」


 なるほど。

 ダンジョンが妙に俺たちにとって都合が良い理由がこれではっきりした。


 そもそもそのために作られたものだったのだ。

 ダンジョンというものは。

 

「しかし今は違います。セイランの手によってダンジョンの在り方は大きく変わった」



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ぶつぎりですみません。

ここ最近とてつもなく忙しい…

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