第八章
第353話:同一スキル
ソファにちょんと座る、ミドルハーフアップな金髪のエルフちゃん。
シエルやアスカロンと比べると耳はそこまで長くはないが、そのアスカロンの娘だと言っているのでエルフであることには間違いないのだろう。
気の強そうな子だ。
年齢は15、6あたりに見える。
ティナと同年代くらいかな。
まあ、エルフともなれば見た目と年齢が一致しないのが当たり前なので目測でしか言えないのだが。
「私はステラと言います。よろしくお願いします」
「ど、どうも……皆城悠真です」
ピシリというか、ピシャリというか、そんな感じのきっちりした声で挨拶をされる。
「はい、もちろん知っています。父から聞いておりますので」
「アスカロンの娘さんねえ……」
あの野郎、そういうのを寄越すんなら最初からそう言っておけよ。
というか……
「魔力回復で動けないって言ってたけど、どういう状況なんだ? アスカロンは」
ちなみに俺の魔力は既に回復している。
まだ回路が壊れているので魔法は使えません、というだけだ。
「言葉の通りです。先の戦いで消費魔力が大きすぎた為、現在はろくに動くこともできません。完全回復までは100日ほどかかるでしょう」
「100日ィ!?」
そんなかかるのかよ。
歳か。
歳なのか?
どう少なく見積もっても5000歳……いや、過去の時点でシエルと同年代かそれ以上なので、下手すりゃ8000歳くらいになるのか……?
どんな長寿だよ。
バケモンかあいつは。
「動けるようになるのにも、あと数日は必要かと」
「……後でいいもん渡すから、アスカロンに食わせてやってみてくれ」
「? はい、わかりました」
多少疑問には思ったようだが、特に警戒心もなく頷くステラ。
父――アスカロンの友人ということで油断しているのだろうか。
毒だったりしたらどうするつもりだ……と言ってもあいつなら毒くらい食う前に看破しそうではあるが。
ちなみに渡すのはポーションフルーツとエリクシードだ。
間違っても毒ではない。
「で、俺を鍛えてくれるそうだけど……とりあえずまずは、アスカロンの娘ってことを何か証明できるものはあるか?」
「はい。これを見せれば分かる、と」
そう言ってステラは両手を薄めな胸のあたりで上に向けた。
まるでその上に何かが乗っているようなポーズだが……
「サモン」
「――え」
ステラがそう呟くのと同時に、アスカロンの剣がそこに現れる。
俺がベリアルとの決戦前に返したあの剣だ。
間違いなくそれそのものである、というのは俺の本能が言っている。
「これでわかって頂けましたか?」
「……確かに納得だけど、今、
「はい、現在この剣の所有権は私にありますので。ユーマさんへ渡すように、と言われているのですぐに私のものではなくなりますが」
しょ、所有権?
なにそれ。
いや、字面通りに受け取ればそれで合っているのだとは思うが……
それと先程の
「ちょちょ、ちょっと待ってくれ。えっと……ステラは召喚術のスキルを持っているのか?」
「はい、その通りです。なので父の代わりに鍛えに来れたのですから」
「……マジかよ」
同じスキルって存在するのか。
いや、アスカロンの娘であるというステラは言ってしまえばつまるところ異世界人。
世界が異なれば、召喚術という比較的オーソドックスなスキルが被ることは別に有り得ないことではないのか。
にしてもそれがアスカロンの娘って。
どんな巡り合せだよ。
なるほど、確かにこれは見れば分かるわ。
間違いなくこの子はアスカロンの娘なのだろう。
「………………待てよ」
この子が俺と同じ召喚術のスキルを持っているということは、この子も俺と同じようなことをしているということになるのか?
スノウが言っていたことを鵜呑みにするならば、召喚術はある程度術者にとって都合の良い形に調整されるとのこと。
俺で言えば、男性精霊を召喚してしまうようなことはないわけだが……
ステラの場合はどうなっているのだろう。
……いっそ聞いてみるか。
なるべくさりげない感じで。
「……ステラの精霊はどんな感じなんだ?」
「どんな感じ、とは?」
不思議そうに首を傾げられる。
ちょっと抽象的すぎたか。
「使える魔法とか……性別とか」
「その時使いたい属性の精霊を呼び出しますし、精霊に性別など存在しませんが」
「うん……?」
なんか俺の知ってる召喚術と違うのか?
これ。
だってどう見てもスノウたちは女の子だろう。
性別がない、とは口が裂けても言えない。
というかそれは俺の体が一番知っている。
「それはあれか? 中性的な見た目をしてるとかそういう話なのか?」
「何を言っているんです。外見的にはただの光の玉なんですから、見た目の話をしてるわけないじゃないですか」
やっぱ俺の知らない召喚術の話をしてるわ、この子。
精霊というワードは一致しているようだが……
それにさっき、アスカロンの剣を召喚してたしな。
そんな事俺にはできない。
つまり似て非なるスキルなのだ。
アスカロンも当てが外れたな。
「あー、ステラ。俺と君のスキルだとどうやら種類が違うみたいなんだよな。だから何かを教えてもらうってことは難しいと思う」
「しかし精霊の力を借りて戦っていた、と父から聞いていますが」
「うちの精霊はばっちり人型だよ」
「えっ」
「え?」
「人型の精霊なんているんですか……?」
おいアスカロン。
ちゃんと説明しとけよお前。
こっちに丸投げするんじゃねえ。
「ええと……もう少ししたら帰ってくると思うからその時に直接見てもらおうかな」
「……帰ってくる? なにかやらせているのですか?」
「いや、やらせてるというか勝手に買い物行ってるというか……」
「勝手に……買い物……? 精霊が……? 召喚主から離れて……?」
頭がショートしてしまいそうなくらい考え込んでしまったので、とりあえず今のうちにお茶でも淹れるか。
昨日だか一昨日だかに買ってきたなんとかっていう有名店のモンブラン、俺の分は残っていたはずだ。
放っておくとルルあたりに食べられてしまうので早めに食べないとな、なんて思っていたがここで消費してしまおう。
コーヒーとモンブランを持って帰ってくると、露骨に興味を惹かれたような顔で目をキラキラさせながらそれらを見ている。
ふと悪戯心が湧いて、自分のところにそれを置く振りをしたら背景に浮いていた(浮いてない)キラキラが消え失せて一気にしゅんとしてしまった。
なので素直にステラの前に置いてやる。
明らかにそわそわしながらちらちらとモンブランを見る彼女に、「召し上がれ」と言うとフォークを手にとって一口分すくい、頬張った。
「――!」
よほど美味しかったのか目をまんまるにして二口目も食べる。
見た目相応の歳なのかな。
なんかそんな気がしてきた。
「で、さっきの話に戻るけど。どうやら俺の知ってる精霊と、ステラの知ってる精霊は別モンらしいんだよな」
「……」
頬張ったモンブランを飲み込んでから、ステラは話す。
「恐らくですが、私とユーマさんの精霊ではランクが違うのだと思います。強い精霊であればある程、自我のようなものを持つようになるのですが……最上級に強い精霊ならば、自我を持ちつつ人のような姿をしていてもおかしくはない」
これでうちの精霊は元人間なんだよね、という話までしたらもっとパニックになるだろうな。
また今度落ち着いている時に教えてあげよう。
「つまり?」
「私と、ユーマさんのスキルはやはり同一です。つまり私にできることはユーマさんにもできるはずなのです」
なるほど。
本当にそうであれば、俺も先程ステラがやってみせたように、剣を召喚とかもできるようになるのかな。
そうなると……
色々と戦略の幅は広がるぞ。
なんてことを考えていると、寝起きだからかなんなのか、何故か上半身真っ裸でパンツ一丁のルルがリビングに姿を現した。
「んニャ?」
見慣れない姿がリビングに在るのを確認したルルが不思議そうに間抜けな声を出す。
「だれニャ?」
「ち、ち、ち、痴女……!」
委員長っぽいステラが困惑している中、ルルは何を納得したのかぽん、と手を打った。
「ああ、また垂らしこんだのかニャ。誰もいない間に連れ込むニャんて、なかなか堂に入ってるじゃニャいか」
「違うわ馬鹿」
「た、垂らし……また……!?」
ステラの顔が真っ赤になってしまった。
あーあ。
とりあえず服着てこい、痴女猫。
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