第342話:新たな力
1.
スキルブック使用の候補者として候補に挙がるのはやはりまずはルル。
そして親父や柳枝さん、その他WSRの上位に非スキル
親父や柳枝さんはともかくとして、その他WSR上位メンバーにほいとスキルブックを渡すだけの信頼関係は築けていないのでまず除外。
そして俺の個人的な感情として、母さんの件もあって親父をこれ以上異世界でのごたごたに巻き込みたくないので除外。
柳枝さんは実力、信頼度も申し分なく、どのような能力でもある程度応用を利かせてくれるだろうという確信もあるが……
それで言えばルルも同じなんだよな。
戦闘時に関してはルルもかなり頭が回る方だし、実力や信頼度もまあ問題ない。
となれば、より実力が高い方をブーストする方が今は良いだろう。
ということで。
「この際別に構わニャいけど、どんな結果になっても文句は言うニャよ」
もう何度目かになるスキルブックが燃えてなくなる瞬間を目撃し、ルルが「ニャるほど……」と呟いた。
「……どんなスキルだったんだ?」
「悠真、ちょっとこっち来るニャ」
「?」
呼ばれたので近づくと、パシッと腕を掴まれた。
そして――
「お……おおおお!?」
力が吸われる。
魔力――だけではない。
言うなれば、気力のようなものか。
5秒ほどそのまま腕を握られていて、ルルがぱっと腕を離した。
100メートル走を全力疾走した後みたいな疲労感がどっと俺を襲う。
「<
「……てことは今のは俺から体力……生命力を奪ったってことか?」
「そんなとこニャ。で……」
「ひゃあ!?」
ルルは何故か近場にいた綾乃のおっぱいを鷲掴みにするとそのまま揉みしだき始める。
うらやま……じゃなくてけしからん。
一体何をしだすんだ急に。
綾乃が艶やかな声と共にびくびくと体を震わせること、30秒程。
「はぁ……はぁ……はぁ……」
すっかり息の乱れた綾乃が床にへたり込んでいる。
「だ、大丈夫か?」
「だ、大丈夫です……」
手を貸して綾乃を起き上がらせる。
「一応聞いておくけど、胸を揉む必要はあったのか?」
「無いニャ。なんなら最初の5秒くらいで用は済んでたニャ」
「じゃあなんでずっと揉みしだいてたんだ」
「思ったより気持ちよかったからニャ」
「……なら仕方ないな」
それは責められない。
顔を赤くした綾乃にぽこぽこと二の腕の辺りを殴られるが、い、痛い。痛いんですけど。
「……痛い?」
「へ?」
綾乃がキョトンとした顔で手を止める。
いや、痛いはずはないのだ。
魔力差どうこう以前に、そもそも痛いように綾乃が殴るはずもないのだから。
「奪った生命力は他の誰かに分け与えることができるのニャ。相手の力が大きければ大きいほど扱える力が大きくなるみたいだから、多分今の綾乃は普段の倍くらい強いと思うニャ」
「3倍って……」
いや、しかし言われてみれば魔力量も増えている。
「一時的なものだから、そのうち消えるけどニャ。継続的に力を奪い続けるならまだしも、この一瞬くらいなら1分ももたないはずニャ」
「なんでそんなことがわかるんだ?」
「勘ニャ」
…………。
こういうことに関してはルルの勘は当てになる。
それでもしばらくは……
「要検証」
知佳の鶴の一声により、少し時間を使って検証することになったのだった。
2.
半日ほど経って。
ルルの
まず一番大事な生命力の定義。
最初は魔力だけかと思ったが、他にも気力だったり体力だったりも全て含めて生命力、という意味らしい。
最初に5秒ほど吸われた時に俺を疲労感が襲ったのはその為だろう。
もちろんその中には魔力も含まれている。
そしてルルが最初に言っていた通り、生命力が大きな相手からは大きく奪える。
例えば俺から奪うのと綾乃から奪うのとではかなり効率が違うようで、要するにキュムロスダンジョンの最下層
俺に5秒触れて奪える生命力は、綾乃の生命力を一時的に普段の倍程度にする程のものらしい。
逆に綾乃に1分間触れて生命力を奪ったとしても、それを俺に分け与えたところで俺にはほぼ変化がない、というわけである。
それから、触れている時間はほんの一瞬でも大丈夫だそうだ。
これは俺とルルとで組み手をして確かめた。
互いに均衡する程度に俺が魔力を調整して、パシパシと何分か打ち合っている間に俺の方が疲労で動きが鈍くなり、ルルは俺から奪った生命力でどんどん元気になっていったのだ。
つまり長期戦になればなるほど有利になるということになる。
しかも割合で生命力を奪えるので、ルルの元々の素早さや戦闘勘と組み合わせればシンプルにかなり強力なスキルだ。
殴り合えるような相手なら、ルルが今一番強いかもしれない。
というくらいにはかなり強い。
もちろん生命力の中には魔力も含まれているので、ルルも一応使える魔法なんかを織り交ぜながら戦っても良いわけだ。
逆に、未菜さんやローラ、あるいはルル自身が疲れて動けなくなった時なんかは俺の体力を分け与えて調整することも可能だということになる。
もちろん時間制限はあるが、一時的に再び動けるようになるだけでも役割としてはかなり大きい。
「どうせなら知佳の<影法師>みたいなのが良かったニャ。綾乃の<
「<
「あたしの魔力で呼び出せる精霊なんてたかが知れてるニャ。お前と一緒にしないでほしいニャ」
しかし本人はそう言うが、ルルには搦手よりもこう言ったシンプルな能力の方が合っていそうな気もする。
仮に天鳥さんの
いや、戦闘勘については信用しているよ?
でも……ねえ?
「このタイミングで相手が強くてもなんとかなる可能性のあるスキルを手に入れたのは大きいな。魔王だったりベリアルという男だったり、色々と面倒な相手が多いのだろう?」
未菜さんがそう言う。
実際その通りだ。
今までは速攻で決めるのならいくらでも手段があった。
四姉妹やシエルたちの大魔法で沈めるのも良し、ローラの大威力攻撃で吹き飛ばすのも良し、未菜さんの気配遮断で暗殺するも良し。
しかし相手はまだ見ぬ強さの魔王……そしてセイランに並ぶのを目的としているらしいベリアルだ。
初見殺しが通じなかった場合の対処法は薄かった。
そこへルルのスキルだ。
もちろん、直接触れないといけないという制約があるので完璧とは言い難いだろう。
それでも、有ると無いとでは全然違う。
それに戦闘が長引けば長引くほど、相手は弱くなってルルが強くなるのだ。
魔法やなにかでちょっかいを出しつつわざと戦闘を長引かせればそれだけ勝率が高くなる。
考えれば考えるほど強いな、<
そこでウェンディが発言する。
「現在3つある四天王の大魔石のうち1つは、ルルでも良いかもしれませんね」
「有り」
知佳も即座に頷く。
この手のスキルの強化内容と言えば、恐らくは奪う量が増えたり……あるいは還元方法が増えたり、とかその辺だろう。
どう足掻いても戦闘においては役に立つ。
「もう1つは綾乃だろうな」
これに関しても全員が異論無し。
綾乃の
とは言え、本人の魔力量の都合上で限界もある。
それをスキル強化によって少しでも緩和できれば……と言った塩梅だな。
「なら、最後の1つはおぬしじゃ。悠真」
「……俺? なんでまた」
正直、この中じゃ俺が一番候補に挙がらないと思っていたが。
「おぬしが倒れればどう足掻いても倒せんからのう。じゃからわしらが本来は守らねばならんが、相手もそれをわかっていて分断を狙ってくる可能性が高い。そうなれば、更なる
……言われてみれば、俺がピンチになるのって大抵分断されてる時なんだよな。
スノウたちが近くにいれば大抵のことはなんとかなる。
となれば、今までのように転移召喚さえできないような分断のされ方をしてもなんとかできる、新たな力を求めるのが筋ってわけか。
「事前にできる準備はそれで良いとして……」
後は<滅びの塔>をどう破壊するか、だな。
どうせベリアルの妨害が入るんだろうが、まずはその前にダークエルフたちをなんとかして説得……あるいは突破する必要がある。
どうしたもんかな。
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