第264話:岩石竜

1.



 <龍の巣>真意層、1層目。

 出てくるドラゴンや竜人ドラゴニュートは若干強くなっているものの、そこまで劇的な変化は感じられない。


 ドロップ品も今の所見ていないが、これは真意層特有のモンスターをまだ見ていないからだろう。

 お城ダンジョンにいた転移石をドロップするモンスターのように、レア的立ち位置なのかもしれない。


 だとしたら転移石やエリクシードと同レベルの革命的なものが手に入ったりするのだろうか。


 竜人を雷撃で処理していると、スノウが感心したように呟く。


「だいぶ雷魔法も板についてきたわね」

「そうか?」

「イメージを定着させるのは速いわよね、あんたって。大人になってから魔法を覚えると中々そうはいかないんだけど」

「……そうなのか?」


 俺の周りには例外的な超人ばかりが集まっている。


 頭脳面で言えば知佳や天鳥さん、ウェンディ、綾乃。

 魔法的な素養で言えば四姉妹に加えてシエルがいる。

 技術的な面では未菜さんにローラ、柳枝さんやレイさん、最近では志穂里も俺にはできないアクロバティックな動きができる。


 俺はその人達から少しずつ色々教わっていけるわけだが、お陰で自分が平均的に見てどれくらい出来るのか、というのはわかりにくいのだ。


 はっきり言えるのは魔力制御のセンスは割といいらしいということと、魔力量自体は他の誰にも負けないくらいのものがある、ということくらい。


 スノウが言っていたイメージの定着、というのはやはり俺が漫画をよく読む人間だからだろうか。

 最近は忙しくて少年ジャンプくらいしか毎週は読めてないが。


 魔法や魔法的な攻撃手段はやっぱり少年漫画、青年漫画の華だからな。


「スノウ、悠真をあまり褒めると駄目になるから」

「確かに、もうなんか気持ち悪い顔してるわ」

「お前ら俺のこと嫌いなの!?」


 知佳とスノウが結託して俺をいじめてくる。

 俺が何をしたというのだろうか。


 …………。


 ……心当たりがありすぎた。

 甘んじて受け入れるべきなのかもしれない。


 

「――?」


 一瞬だが揺れを感じた。

 ような、気がした。


 直後。

 大きく足元の地面が隆起してぐねぐねとうねり始める。


「こい!」


 知佳をお姫様抱っこして後ろに飛び退ると、まるで示し合わせたかのようなタイミングで足元へ宙に浮かぶ氷が生成された。


「……こんなのもできるのか」

「風魔法との複合よ。消費魔力はそれなりに大きいから自分で負担するんなら一人じゃ絶対やらないわよ、こんなの」


 そういや複合魔法なんてのもあるんだよな。

 規模が小さいものならともかく、そうでないのなら難易度はやはり高い。

 宙に浮かぶ足場なんて考えるだけでもぞっとする難しさだろう。


「で――」


 どんどん地面が盛り上がっていって、は姿を現した。

 

 体が岩石でできている自立型のモンスター。

 自動人形ゴーレム、ではない。


 なにせではないのだから。


 ここは龍の巣。

 ならば当然、出てくるのもドラゴンである。


「――――――!!」


 でっかい岩石同士を擦り合わせた音を幾つも重ねて更に増幅させました、みたいな不安になる感じの鳴き声をあげる


 大きな胴体に大きな翼、長い首とまさに今まで戦ってきたドラゴンのゴーレム版、みたいな感じだ。


「な、なんなんだあいつは?」

「あたしだって知らないわよ。見た目通り名付けるなら、岩石竜ロックドラゴンってとこかしらね」


 感じる魔力は、出会ったゴーレムより若干多いくらい。

 真意層の番人ガーディアン……というわけではないのだろう。


 そうだとしたら逆に弱すぎるからだ。

 しかし、素湧きの雑魚にしては強すぎる。


 こんなの何の準備もなしで出会ったら普通は一瞬で終わりだろう。

 ぽんぽん、と胸元を叩かれる。


「悠真、もういいから降ろして」

「おお、悪い」

「良きに計らえ」


 何キャラだよ。


「とりあえず先手必勝だな」


 雷……が効く感じの見た目じゃないので、俺は素直に体の周りに幾つかの魔弾を浮かべて発射した。

 

 ドドドド、と重い衝突音が響いて砂塵が巻き上がる。

 お姫様抱っこからは開放したのに何故か離れようとはしない知佳が俺の顎のすぐ下で詠唱する。


「風よ」


 ぶわっ、と風が吹いて砂塵が一瞬で吹き散らされた。

 やったか!? のフラグを建てる間もなく、大きな岩石が幾つも重なってできたような翼で魔弾が防がれていた。


 もちろんノーダメージということはないのだが。


 ゴリュ、ゴリュ、と岩同士が擦れ合う音と共にその傷の部分が蠢いて新たな岩で補填される。

 

「あいつ、足元から岩を補給してるわね。しかもそれがダンジョンの床だから――」

「実質無限再生か」


 どんな永久機関だよ。

 さっきの魔弾も別に加減したわけではない。


 回復能力を抜きにしても、そもそも相当耐久力はあるな。

 スノウが一気に凍らせてしまうのが一番手っ取り早いだろう。


「ちょうどいいわ、悠真。よ」

「……リベンジ?」

「ちょっと見た目は違うけど、同じく岩石でできてるんだから似たようなものでしょ」

「まさかのゴーレムのこと言ってんのか!? 見た目の違いはちょっとどころじゃないだろ!?」

「あたしは手を出さないわ。でも知佳に協力してもらうのはOK」

「なるほど」

「おわっ!?」


 俺の代わりに何故か知佳が頷き、俺の胸元を掴んでぐいっと引っ張った。

 既に魔力による身体強化はできるラインに乗っているので、見た目とは裏腹の強い力で引っ張られた俺が思わずつんのめるとそのままキスをされた。


「んっ」

「!?」


 しかも舌まで入れてきやがった。

 

 やり返してやろうと思ったらすいっと離れていく。


「お前こんな時に何すんだよ!?」

「応じようとしてたくせに」

「うっ」

「とりあえずこれで念話のリンクは繋がったから」


 知佳が俺に向かって手を振る。

 バイバイ、の仕草だ。

 

 まさか――と思った時には、俺の足元の氷だけが器用に消されていた。


「お前ら後で覚えとけよ!!」


 着地すると、上から見る分には分かりづらかった巨体が目の前にいた。

 高さだけでもざっと7、8メートルくらいはあるように見える。


 ぶっちゃけ、勝つだけなら簡単だ。

 スノウがいるので、大技を使っても知佳が巻き込まれるということはないだろう。


 しかしそれならわざわざ俺一人で戦わせないはず。



「魔法を使わずにそれに勝ちなさーい。今のあんたなら余裕よー」

「生身でこれは無理だろ!」

「大丈夫よー……多分」


 あいつ絶対後で泣かす!!


 岩石竜の翼が大きく蠢いた。

 そしてそのままこちらへ向かってくる。

 かなりの速度だ。

 

 受けるのは危険と判断し、躱す。


 何度も痛感していることだが、魔力の強化による攻撃力はともかく、防御力というのはそこまで過信できない。


 そもそもこいつとほぼ同じくらいの強さだと思われるゴーレム型のボスにワンパンされかけているわけだし、別の奴には腹を貫かれたりもしているし自分の魔法の威力に負けて怪我をすることだってある。


 アスカロン式の防御術も今の俺にはまだ完璧に扱えるものではないしな。


 ズガッ、と勢いよく地面に突き刺さった翼。

 こいつが厄介そうだし、もぎ取ってやろうかな――なんて思ったタイミングで。


(下からくる)


 知佳からの念話が入った。

 なんのこっちゃ、と思ったがとりあえずその場から飛び退くと、地面からにょきにょきと勢いよく棘が生えてくる。


 シエルの物質魔法によく似ている。

 こいつ、地面の岩石で自分を補完するだけでなく、それを利用して攻撃までできるのか。


 だが、出会い頭ではなくこのタイミングでしてきたということは――


(今のは翼が地面に接している時限定の技なはず)


 知佳が同じタイミングで答えを導き出した。

 あのでかい翼が本体ってことだな。


 この見た目で口から光線を吐いてくるようなこともないだろうし、真正面から真下辺りが安全圏と見た。


 ダッシュで下へ潜り込み――


「アスカロン式アッパー!!」


 飛び上がってのアッパーを真下から食らわせてやる。

 ちなみにアッパーそのものがアスカロン式なのではなく、拳を保護する為にあいつの技を使っただけである。


 魔法ではなく技術なのでこれくらいならスノウも許容範囲だろう。


 ちょっと甘かったので拳が痛いが。

 ただの岩石なら俺の拳の方が硬いはずなので、こいつもこいつで体を魔力で保護しているのだろう。


 ノリでやったけどパンチは駄目だな。


「――お?」


 空中でしゅるりと影が俺の足に巻き付く。

 そしてそのまま、思った以上のパワーでぐいんっと引っ張られた。


 俺が岩石竜の下から抜けたタイミングで――ズシン、と。

 押しつぶすようにして体を伏せていた。


 恐らく潰されても死にはしていなかっただろうが、ちょっとやばかったのは間違いない。

 

「知佳! そのまま上に放り投げてく――」


 言い終わる前にぽいっと投げ捨てられたので、岩石竜の背中に着地した俺はまず右側の翼を思い切りもぎ取ってやった。

 

 小さな岩を幾つも容器に入れて回したような、ガロロロロ――という悲鳴(?)をあげる岩石竜。

 思った通り、ここがウィークポイントなようだ。


 背中への攻撃手段は持ち合わせていないようで、もう一方の翼ももぎ取った後は上から何回か叩いて終了。


 光の粒となった岩石竜は、魔石と一抱え程もあるでっかい鈍色に輝く鉱石を残していったのだった。

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