第106話:モテ期
1.
「誰が一番タイプなのかなー?」
ニヤニヤと笑いながらギャルっぽい方こと賀嶋さんは聞いてくる。
こういう質問にはまともに取り合わないのが正解だろう。
どう答えたって角が立つからな。
「さあ……それは決めかねるな」
「えーつまんなーい。なーい」
「無難だね~」
ぶーたれる女子高生二人。
初対面の男の恋愛事情を知っても別に楽しいことは何もないと思うのだが。
その後も30分ほどあれこれ答えづらい質問や好奇心からくる質問などをのらりくらりと躱し続け、ようやく三人共がスイーツを食べ終えた。
流石にこれは俺ももう逃げていいだろう。
会計を済ませ、先に店へ伝えておいた頼まれたケーキ類たちを受け取って外へ出る。
まだ外はちょっとジメジメした暑さだな。
もうしばらくすれば急に冷え込んでくるんだろう。
「そういえば、ティナたちは何かするつもりでここらへんをうろついてたんじゃないのか?」
「ちょっと買い物をした後、カラオケに行こうと思ってたのよ」
先に外へ出て待っていたティナが答える。
カラオケか。
今度知佳や綾乃を誘ってみようか。
ああ見えて知佳は歌が結構上手い。
というか、音程を全く外さないのでやたらと上手く聞こえる。
ボカロみたいな感じ。
綾乃は……どうだろうな。
ああいう意外と上手いのかもしれない。
そもそも何を歌うのかも気になるが。
「そのことなんだけね~実は用事思い出しちゃったんだよね~」
マイペースっぽい方こと山霧さんが急にそんなことを言い出す。
「そーそ、ウチらマジで大事な用事を思い出したの! だからごめんティナっち、今度埋め合わせは絶対するから、今日は帰るね!」
「え、二人とも?」
ティナが困惑している。
俺もびっくりしている。二人同時に大事な用事を思い出すってどんな確率だよ。
「うんうん~二人ともだ~いじな用事なんだよね~」
「そうそう! そういうわけだから、じゃね! 頑張れ、ティナっち!」
パチン、と最後にウインクをして、二人の女子高生は去っていった。
いやあ……若いってパワフルだなあ……
嵐のように来て嵐のように去っていったぞ。
「…………」
置いていかれたティナは所在なさげにこちらをちらちら見てくる。
まあ、用事をドタキャンされて暇だっていうんなら……
「うち来るか? スノウも喜ぶと思うぞ」
「う、うん!」
ぱぁっと表情を輝かせて、思いの外テンション高めにティナは頷くのだった。
スノウに会えるのが嬉しいんだろうな。
姉妹みたいに仲良かったし。
2.
「久しぶりね、ティナ!」
「うん、久しぶり!」
大きいツインテ(スノウ)と小さいツインテ(ティナ)が嬉しそうに抱き合っている。
写真に撮って売り出したら間違いなく高値で売れるな。
「あら~かわいい! 悠真ちゃん、この子かわいい! 食べちゃっていいかな!?」
「食べちゃっていいわけないだろ」
可愛いもの好きなシトリーにティナが早速捕まっている。
電車の中でシトリーのことは事前に伝えてあったが、そう言えばこうなる可能性は伝えておくのを忘れていた。
ティナは目を白黒させてシトリーの胸に溺れている。
大丈夫、窒息する前にちゃんと離してくれるから。
頑張れ。
ちなみにスノウたちにも事前にティナを連れて帰ってくることは伝えてある。
知佳経由で。
「ティナを連れて帰る」と文面で伝えたら「ロリコン」とだけ帰ってきたのだが。
現在、俺をロリコンとそしるそのロリっ子はウェンディと共に俺が持ち帰ってきたケーキを配膳している最中だ。
「で、なんでティナを連れて帰ってきたの?」
シトリーに抱きつかれているティナを見ながらスノウに聞かれる。
「元々は友達とカラオケに行くつもりだったらしいんだけど、なんか急用を思い出したとかで帰っちゃったんだよ。元々予定があったんなら今は暇だろうし、スノウとも会いたいだろうから誘ったんだよ」
「ふぅん、誰だかは知らないけどその友達とやらも気が利くじゃない」
「……遊びに来ておいて急用で帰るのは気が利くのか?」
俺だったらそんなドタキャンにはキレるぞ。
ティナは気にしていないようだったが。
「あんたはどうせわからないだろうからどうでもいいわよ。あたしから言うようなことでもないし」
呆れたように言うスノウ。
俺が何かを答える前に、「シトリー姉さん、そろそろいい加減にしないとティナがおっぱい恐怖症になるわよ」とか言いながら引き剥がしに向かっていった。
おっぱい恐怖症とかあるのかな。
俺はむしろ大好きなのだが。
ティナの掌に小さな氷の像ができあがる。
モチーフは最近巷で謎に流行っているらしい、妙にふてぶてしいねこのキャラクターだ。
「ちゃんと魔法の練習、続けてるんだな」
「うん、やっぱりスノウたちに比べるとまだまだだけどね」
「言うまでもないとは思うけど、周りの人に魔法が使えるってことは言うなよ?」
「わかってる。探索者しか使っちゃいけないことになるのよね」
当然この辺りの話は知ってるか。
「……ごめんね、ユウマ」
「うん? 何がだ?」
「魔法のこと、こうなっちゃったのって元はと言えばわたしのせいだから」
「?」
この子は何を言っているのだろうと思ったが、そういえばパットンとかいう肥えたアメリカの政治家に魔法のことを教えたのが事の発端、と言えなくもないのか。
「いや、ティナは関係ないよ。どのみち魔法はいずれ共有されるべき技術だったし」
「そうなの?」
「遅かれ早かれだったんだよ、本来。だからそれの早かれの方に上振れただけであってティナが悪いわけじゃない。むしろ切れる手札の中じゃ一番軽いものだったしさ」
「本当?」
「ああ、もちろん。なあスノウ」
「そうね」
特に示し合わせたわけでもないが、話を脇で聞いていたスノウは即座に頷いた。
俺が何故嘘をついているのかはわかっているのだろう。
「最終的な手段としてはアメリカ中を凍らせるつもりだったわ」
「流石にそこまでは……冗談だよな?」
「さあ?」
どぼけやがった。
やれるかやれないかで言ったらやれる側の奴がそんなことを言うと洒落に聞こえない。
そして本当にやりそうな雰囲気もあるしな。
「そうだったんだ……」
ほっとしたようにティナは下を向いた。
まあ、これに関しては嘘だが。
魔法のことが通じなければ力ずくで脅すか、他の手段を考えるかしかなかった。
どのみちパットンは大統領いわく処分されているらしいので、それも遅かれ早かれだったと言ってしまえばそれまでだが。
ティナにはそうとでも言っておかないと、これから魔法で何か問題が起きるたびに気に病んでしまったりするようなことがあるかもしれないからな。
他人の為に自分を犠牲にして危険なダンジョンへついてくることを決意したような優しい子だ。
力を持っている俺がそうするのとはわけが違う。
「ユウマの方はどんな感じなの?」
「色々あったけど、まあぼちぼちってとこだな。必殺技ができたんだぜ」
「必殺技!?」
「まあ、危険すぎて使えないんだけどさ」
「つまりすごく強い忍術なのね……!」
「もうそれでいいや」
久しぶりに聞いたな、そのNINJA勘違い。
勘違いというか、流石にティナももうわかっているのだがお約束みたいなものだ。
魔法はイメージで色んなことができてしまうので、多分NINJAっぽいことをやろうと思えば色々できるだろうし。
流石に分身の術とかは無理そうだが。
体力測定で反復横跳びを高速でやった時はそんな感じに見えたらしいけど。
3.
夕食を食べ終えた後、流石に遅くなる前に俺が車でティナを家まで送り届けることにした。
もちろん事前にティナのご両親へ連絡は入れてある。
「うわー、かっこいい車……」
「だろ? 2億するんだぜ、2億」
「2億って……円?」
「そう」
「この家を見たときも思ったけど、本当にお金持ちだね、ユウマ……NINJAって儲かるんだ……」
「そりゃもう世を忍ぶ職業だからな。金もがっぽりよ」
自分で言っておいて世を忍ぶと何故金ががっぽりなのかはよくわからないが。
ティナが助手席に乗り、車を発進させる。
最近、色んな女の人が俺の運転する車の助手席に乗っているな。
俗に言うリア充とはこういう気分なのだろうか。
ちょっと違うような気もするが。
「日本の学校には馴染めたのか?」
「うん、色んな人が仲良くしてくれるわ。あの二人も、ちょっと独特だけどすごくいい子たちなの」
「ティナが言うならそうなんだろうな。俺も話してて……まあちょっと疲れたけど、嫌な子たちだとは思わなかったし」
良くも悪くも今どきの子って感じだったな。
いやまあ何を隠そう俺もその今どきの子ではあるのだが。
ティナが住んでいるところと、俺が住んでいるところというのはそこまで離れていない。
車で移動すれば30分もかからない場所だ。
特に今回は信号運が良かったので、20分程度で着いた。
高校生を夜遅くまで男である俺が連れ回すわけにもいかないし、早い分には好都合だ。
ティナの家の前へ車を止めると、シートベルトを外したティナが降りようとしないでこちらをじっと見てきた。
「ねえ、ユウマって今、色んな人と……その、関係を持ってるんだよね?」
「ぶっ」
真剣な表情でなんてこと聞いてきやがる!?
「だ、誰から聞いたんだ」
「知佳さんから」
「あいつ!」
何やってくれてるんだ。
敢えてその話はしなかったのに!
高校生にはまだ早いでしょう!
「ユウマが嫌じゃなかったら……」
「俺が嫌じゃなかったら?」
かなり小声だったので、気持ちティナへ耳を寄せながら聞くと――
ふっとそのまま顔をあげたティナに、キスを。
された。
マウストゥーマウスだ。
ということに気付いた頃には、既にティナの顔は離れていた。
「な……」
フリーズする俺を尻目にティナは助手席の扉を開けて外へ出る。
そして、扉を閉める寸前。
「それ、挨拶じゃないから」
もう暗いのでよくは見えないが、恐らくは耳まで赤くしているであろうティナがそう言い放った。
扉が閉められ、ティナは走って玄関まで行ってしまった。
そのまま家へ入るのかと思って見ていたら、直前で立ち止まってこちらを振り返る。
そしてこちらに向かって小さく手を振って、今度こそ扉を開けて家の中へ入っていってしまった。
俺は自分の唇に触れて、呟いた。
「…………モテ期?」
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