第56話:交渉と言う名の脅迫

1.



 ドッカリと対面のソファに座った肥えたおっさんはじろりと値踏みするように俺を眺めた。

 後ろにはお付きなのか護衛なのか、屈強なスーツの男が二人控えている。

 パッと見は丸腰だが、多分どこかに銃を隠しているんだろうな。


「で、日本人のガキが何の用だ?」


 確か柳枝やなぎさんから事前に聞いていた名前はパットンだかなんとかって名前だったか。

 自分から名乗らない辺り、知って当然と思っているのか名乗る価値もないと思っているのか。

 それとも純粋に常識がなく知能も見た目通りなのか。


 名乗られない以上こちらも名乗る義理はない。


 俺は事前にウェンディとフレアに打ち合わせしておいた通り、足を組んで背中を背もたれに預けさせ、挑発的な笑みを浮かべた。


 足を組んだりするのは海外だと普通だとも聞いたことがあるが、流石にここまでする人はあまりいないだろう。

 尊大とも言える態度にパットンは露骨に眉根を寄せた。


 そもそもこいつが部屋に入ってきた時点で俺は立ち上がらなかったので、そこでも気分を害しているのだろうが。

 アメリカでのマナーは一応一通り調べているが、あえてそれを無視している形だ。


 別にこのおっさんに気持ちよく交渉して貰うつもりなど全くないのでそれで構わないのだが。


「交渉に来たのさ。きっとアメリカの利益になるぜ」


 ピクリとパットンが眉を上げた。

 俺との話し合いを事前にどう聞いていたのかまではわからないが、多少は話を聞く気になったか?


「国の利益などどうでもいい。私にとって有益かどうかだ」


 あんた政治家だろ。

 もっと国のことを憂うようなフリくらいはしろよ。


「そうなるかどうかはあんた次第だな」

「話せ。聞くだけ聞いてやる」


 あくまで上から目線で話すパットンに後ろでフレアが殺気を漲らせているが、ウェンディの牽制している様子も同時に伝わってくるのでとりあえずは大丈夫だろう。

 多分。


の有効活用についてだ」


 パットンが少し目を見開く。


「有効活用?」


 やはり魔力のことは知ってはいるか。

 探索者ではないが、それを使う立場にいる人間だ。

 当然だな。


「あんたは魔力についての理解が足りない。いや、あんただけではなく、人類全体の話だが」

「なんだと?」


 露骨に機嫌を悪くするパットン。

 自分がバカにされるのは我慢ならないようだ。

 そしてここからはダンジョン管理局――つまり柳枝さん達の中での魔力の認識を聞いた上での話になる。


「魔力とはダンジョンへの習熟度を示すもの。最初から多く持つ者はそれだけ早くダンジョンへの適性を示すし、逆に少ない者や全く持っていない者は幾ら訓練を積んでも優秀な探索者にはなれない。そして極端に多い魔力を持つ者は身体能力にも影響が出る。だからアメリカでは魔力の多い者を特別に鍛えている」

「そんなことは知っている。私を誰だと思っている」


 知らんよ。

 柳枝さんから名前を聞くまでは存在すら知らなかったんだから。


「魔力ってのはそれだけじゃない。こともできるのさ」


 そして、ここから先はダンジョン管理局、柳枝さんも知らなかった――つまり世界中で誰も知らない事実。

 人差し指の上に火の玉を作り出しながら、俺は言った。


「知らなかっただろう?」

「くだらん手品だな」


 ふん、と鼻を鳴らしてパットンは一蹴した。

 ……ま、俺はスノウの存在を知っていたから魔法が使えると初めて聞いた時も特に驚かなかったが、普通はこういう反応になるだろう。


「裏の二人に身体検査でもさせればいい。手品じゃないことがわかる」

「…………」


 俺の自信満々な様子に興味を抱いたのか、無言でパットンは顎をしゃくった。

 スーツの男たちが俺へ近づいてきて、特に許可も取らずに体をまさぐられる。

 これが美女だったら良かったのに。


 しばらく不愉快な感覚を味わった後、スーツの男たちは無言でパットンに向かって首を振った。

 そりゃそうだ。

 種も仕掛けもないのだから。

 まあ種はあると言えばあるが。

 魔力という名のな。


「……そんなはずはない。後ろの女共が何か細工をしているのかもしれん。私が直々に調べてやろう」


 好色そうな笑みを浮かべながらそんなふざけたことを言うパットン。

 後ろでフレアとウェンディの魔力が一時的に高まるのを戦々恐々とした気分で感じながら、俺は自分で手を下すことにした。


「その必要はない。あんたはこれが本物だとすぐにわかるからな」


 指先に込める魔力を多くして、火の玉を半径1メートル程に巨大化させる。

 そしてそれをパットンに向けて突きつけた。


「なっ……! 貴様、何をする!」


 今パットンは相当な熱気を感じていることだろう。

 部屋の温度が上昇していく。


「これだけの熱量をたかだか細工で出せると思うか?」

「――分かった、分かったからこれを消せ!」


 苦しそうに喚くパットン。

 少し溜飲も下がったのでふっ、と火の玉を消してやる。

 次にウェンディ達に手を出そうとしたら小さいやつをかましてやろう。


「これが魔法だ」

「……貴様がスキルホルダーで、そのスキルで今の火の玉を出していたのではないという証拠はどこにある」


 俺を睨みつけるパットン。

 なるほど、確かにそれもそうだ。

 魔法として魔力を行使できる人間はいないが、スキルホルダーがスキルを使用する時は魔力を消費する。

 それは俺が召喚を使う時もそうなので分かっていたことだ。


「フレア」

「はい、お兄さま」

 

 俺の合図で、先程俺が作り出した火の玉よりも遥かに大きなものを作り出して、何も言ってないのに勝手にそれをパットンに突きつけるフレア。

 そしてすぐにその火の玉は消失した。


 ほんの一瞬だったが、その一瞬で前髪が焼けて縮れている。


 ぽかん、とした間抜け面を晒していたパットンが我に返って喚く。


「き、き、貴様!!」

「誰でも出来るという証拠を見せただけさ」


 いい気味である。

 骨の髄まで焼き尽くされなくて良かったと思ってほしいものだ。

 いくら本契約前とは言え、精霊のそれと俺の魔法では規模も威力も違う。


 ウェンディも止めなかった辺り相当パットンのことは頭に来ていたのだろう。

 流石に殺しにかかっていたら止めてはいたと思うが。

 これくらいなら許容範囲だ。


「信じてくれたか?」

「……交渉と言ったな。何がほしい。金か?」


 流石に本物の無能という訳ではないようだ。

 今ので十分魔法の有用性は伝わったらしい。

 まあ、もしこの情報を持ち帰って有用性を証明できればパットンの地位は一気に上がるだろうからな。


「ティナ・ナナ・ノバックという少女の身柄を引き渡せ」


 その名を聞いてパットンは首を傾げた。


「……? 誰だそれは」


 なに?

 知らないはずはない。

 確かに柳枝さんからこの男がティナへ命令を下している筋のトップだと聞いている。


 ティナの能力の重要性から言っても十分把握していて然るべきだろう。


「……<気配感知>の少女かと」


 ぼそりと後ろに立っていた男が耳打ちした。

 常人には聞こえない音量だっただろうが、俺にはばっちり聞こえている。


 そしてそれでようやくパットンは思い当たったようで、


「<気配感知>か。との交換だと? アレがどれだけ有益なか分かって言っているのか?」


 ……モノ扱いか。

 なるほど、そうか。

 全てを投げ捨ててこのおっさんを思い切り殴ってやりたくなったが、色んな方面に迷惑をかけることになるのでぐっと我慢する。

 薄々わかってはいたが、やはりこの男に慈悲をかける必要はなさそうだな。


「ロサンゼルスの例のダンジョンが日本のINVISIBLEによって攻略され、つい先日まで<気配感知>で生存者を捜索していた。結果、20名以上の生き残りがいた。これを上手く扱えば私の評価はこれまでより更に上る。それを手放せと言うのか」


 そう。

 現在のティナの功績は計り知れない。

 そしてその身柄を預かっているこの男もまた、このまま行けば出世するだろう。

 だがそうは問屋がおろさない。

 確かにティナによって救われた命はあるだろう。


 だがそれはティナ自身を蔑ろにしていい理由にはならない。

 何故ならあいつはこの男に命令されなくとも自主的に人を救うからだ。


 あんたは不要なんだよ、パットン。


「それに貴様の言う魔法も本当に誰でも使えるものかどうかわからん」

「あんた、INVISIBLEについてどこまで知っている?」

「……我々の中でも重要度の高い極秘情報だ。正体は一部の者しか知らん」


 つまりこいつは未菜さんのことを知らない訳だ。

 ならハッたりもきくな。


「INVISIBLEも魔法を使えるぞ。幾らが強いと言っても魔法の力なしでの攻略は不可能だ」

「…………」


 彼と言ったのはブラフだ。

 訂正してこないということは、やはり本当に知らないんだな。

 こいつ、大物ぶっているが案外小物なのかもしれん。


 俺の発言の真偽を確かめる為だろう。

 パットンの舐め回すような視線が俺の体に刺さる。

 正直言ってかなり気色悪い。


「信じる根拠がないな」


 ま、そう来るよな。

 実際嘘だし。

 未菜さんは魔法を使えない。

 今の所魔法を使える人間は俺、知佳、綾乃、ティナ――そして柳枝さんだけだ。


「本当かどうかはダンジョン管理局に問い合わせれば済む話だろう」


 俺の自信満々な態度にパットンも思うところがあるのか、こう切り出してきた。


「……それも含め、最低でも審議にかけて慎重に判断しなければ――」

「ここで決めろ」


 だが。

 猶予は与えない。

 トン、と俺たちの間にあるテーブルを指で指す。

 

「今、ここでだ」

「……なんだと?」

「でなければこの話はなかったことになる」

「ふん――やはり先程のはトリックだったか。後でじっくり精査されれば嘘だとバレる。だからこの場で押し切ろうとしているのだろう。そんな小細工が通用すると思ったか。しょせんはガキと女の浅知恵だな」

「断るなら、アメリカは日本に大きくリードされることになるぞ」

「なに?」

「言っただろう、INVISIBLEは既に魔法を使えると。つまりダンジョン管理局は魔法の情報を握っている。世界一でありたいアメリカ様が、たかだか民間企業に遅れを取ってしまうことになるな?」


 パットンの目が据わった。

 どうやら今の今まで俺達を舐めていたのが、少し考えを改めたらしい。


「揺さぶりか」

「可能性の話さ。だがもしこの話を蹴るならば、日本に遅れを取る原因を作ったあんたは非難を浴びることになるな」

「人身売買じみた提案をしてきておいて人を脅すか」

「人攫いから少女を取り戻そうとしているだけだ――こっちは力ずくでもいいんだぞ」


 ピリッとした空気が流れ、後ろの男たちが拳銃を同時に構える。

 ……が。


 一瞬にしてその拳銃が片方は細切れに、もう片方はまるで超高温で炙られたかのように溶け出す。

 あんなピンポイントで魔法を使うのは俺には無理だ。

 いや、厳密には魔法じゃないんだっけ。

 まあそれをこいつらに伝える必要はないだろう。


「なるべく喧嘩はしたくない。揉め事になるのは互いに得策じゃない――だろ?」


 魔法を見せても尚、後ろに控えているのが女性だということ。

 俺のことをガキだと侮っていたということで自分達が有利だと思っていたのだろう。

 いざとなれば暴力で脅せばなんとでもなる。

 そんな考えが透けて見えていた。


 しかし実際のパワーバランスはこうだ。

 本契約していないフレアでさえ、アメリカにいるどの探索者よりも遥かに力量は上。

 本契約済みのウェンディに至ってはもはや比べ物にすらならない。


「バカな……」

「ありえない!」


 後ろで控えていた二人がそれぞれ細切れになった拳銃と溶解した拳銃を投げ捨てて取り乱している。

 魔力はそれ程でもないが、そもそも魔力によって身体能力が向上するのはごく一部の才能に溢れた者だ。


「その二人は優れたボディガードのようだが、魔法の力はこの通りだ。どうする、ミスター。まだ選択権はあんたに残ってるぞ。提案を飲み、ティナ・ナナ・ノバックを開放するか。それともこのまま失墜するか」

「あ、アレで何をするつもりだ……!」


 パットンは腰を抜かしているようだ。

 先程までの余裕の態度を崩し、俺達から逃げたくても逃げられない。

 そんな状況に追い込まれ余裕をなくしている。


「俺からは何も強制しない。彼女のやりたいようにやらせるさ」

「アレを利用して金儲けしようとしているのだろう!!」

「あいにく、金に関しては間に合ってるんだ。多分あんたより持ってるぞ」


 アメリカの政治家がどれくらい稼いでるかは知らないけど。


「もう一度言うが、今、ここで決めろ。誰に相談することも許さない。何が起きても全てあんたの責任になるってことだ」

「私に何の恨みがある……!!」

「ただ交渉してるだけさ」

「くっ……ぐ……!」


 パットンは悔しそうに呻いた後、覚悟を決めたのか目を閉じて静かに言った。


「……<気配感知>はお前達に譲る。だから魔法の情報を我々に教えろ。今すぐ、ここでだ」

「何勘違いしてるんだ、おっさん」

「なんだと!!」

「俺たちはあんたらに魔法があるという話を教えに来ただけだ。実際、魔法を使いたいんだったらダンジョン管理局に直接問い合わせてくれ」

「貴様、そんな話が通ると――」


 言葉が続かなかったのは、俺が手を乗せていたテーブルがしていたからだろう。


「もしあんたがここでティナ・ナナ・ノバックを引き渡さないと言うのなら、ダンジョン管理局へどれだけ問い合わせても情報は手に入らないし――いい加減に頭に来ている俺がどう動くかも保証はしない」


 こいつは―― 

 こいつは最後までティナをモノ扱いしている。

 

「何者なんだ、お前達は!! 私を誰だと思っている!!」

「答える義理はないが――特別に教えてやるよ。日本から遥々やってきた、お人好しのNINJAさ」



2.



「しかしお兄さま、本当に魔法のことを教えてしまって良かったのですか?」


 帰り道。

 ティナの身柄を今日中に引き渡すということを確約させ、俺達的には大勝利ということで結局交渉は終わった。

 ちなみにそれが確定してすぐに別働隊のスノウへ連絡を入れたので今はスノウ達が迎えに行っているはずだ。


 魔法がもたらす恩恵とティナという一人の少女をアメリカに縛り付けておく恩恵。

 双方を天秤にかけた結果というわけだ。


 俺からすれば魔法の存在なんかよりティナの方がよっぽど大事な存在なのだが。

 それに――


「どのみちあのおっさんは失墜するしな」

「……何故でしょう?」


 フレアがここが自分の定位置だと言わんばかりに腕に抱きつきながら聞いてくる。

 普通に道を歩いているので、周りの視線が若干痛いのだが。

 認識阻害の魔法をかけているから容姿で目立つことはなくとも、町中でイチャイチャしている男女がいたらそりゃ別の意味で目を引く。


「現状、未菜さんがダンジョンを攻略したということになっている上に、魔法も教えて貰わなければならないという事まで加われば明確に上下関係ができる。最初のうちはなんとか自分たちで魔法を使えないかと色々画策はするだろうけど、まあ無理だろうしな」


 魔法がある、という情報だけで使えるようになるならばとっくのとうに誰かが偶然魔法を発見していてもいいはずだ。

 スノウが知佳や綾乃、そして俺にやったように直接魔力の存在を体内で感じさせるような裏技でも使わない限り、凡人が魔法を使うのはほぼ不可能だ。


 それこそ、柳枝さんのように長年最前線で戦っていて魔力の扱いに長けている上に、魔法というものの存在を疑うことなく受け入れられるような人がいない限りは。


 それに……多分だがパットンは本人が思っているよりあっさり切り捨てられるだろう。

 探索者に関わる役職についている割にINVISIBLE――未菜さんについての情報は全くと言っていい程持っていなかった。

 恐らくは元々あまり信頼されていなかったか、あの性格で疎まれていたかのどちらか。

 俺がやらなくてもいずれ誰かに蹴落とされていたのではないか。


「日本で実際に魔法を使えるようなる人物が出てくれば魔法の情報が嘘でないということはわかりますし、その時点でアメリカに魔法を使える人間がいなければアメリカはダンジョン管理局へ頭を下げることになる、ということですか」


 ウェンディが引き継いで説明してくれた。


「後はダンジョン管理局が有利な条件を提示してくれれば、普段の恩も返せるしあのおっさんにも意趣返しができるしで一石二鳥ってことだな」


 魔法の存在を聞き出したという功績はあるが。

 結果として日本への遅れを取ったという事実。

 日本への借りを作ってしまうという事実。

 ティナ・ナナ・ノバックという人材を自身の目先の利益の為に独断で手放したという事実。

 

 それらを総合して考えればマイナス評価にならざるを得ないだろう。

 何より最後の独断というのが一番痛い。

 なにせどれだけ偉くても政治家だからな。


 独断専行が許される立場ではないのだ。本来ならば。


 要するに断ろうが断るまいがあのおっさんには痛い目を見て貰うことになっていたのだ。

 その事実に気付くのはもう少し後になるだろうが。

 魔法はすぐに使えるもの――相手はそう思い込んでいるだろうからな。

 敢えてその辺りには言及しなかったし、侮っていたが簡単に魔法を使っていたのだ。


「しかしもし断られていたらどうするつもりだったんですか? 焼き尽くせと言われればそうしていましたけど」

「流石にそんな命令は出さないけど……もし断られていたら実用性を見せて再説得だったな」

「実用性ですか?」

「早い話、その辺のダンジョンを2、3個攻略してきてこれが魔法の力だ! って更に上の人間に突きつける予定だった。あのおっさんがティナへ命令を下していた諸悪の根源だし、だからこそあいつに責任を負わせたかったからその手は最終手段だったけど」


 流石に実用性を見せつければ、審議を挟んでも勝算は十分あった。

 その場で決めさせたのはあのおっさんに責任を負わせる為だ。

 それより上の人間に見せるのなら即決させる必要はない。

 ティナの身柄を確保する、という点ではほとんど確信に近いものがあったが、ティナに無理をさせていた奴らに一泡吹かせるという点で見ればそこまでの確実性はなかった。


 結果上手くいってホっとした。


 最後の方は段々俺の方が我慢できなくなってきてしまってほとんど脅迫みたいなものだったが。


「マスターのキザな英語が得体の知れない相手だという印象を抱かせていたというのもあるでしょうね」


 ウェンディがそう分析するが、俺としてはキザに喋っていたつもりはない。

 ちゃんとした英語を覚える必要がありそうだな……

 フレアも英語大体は理解してるっぽいし。

 少なくとも俺とパットンの会話は正しく聞き取れていたようだ。


「大丈夫です、お兄さま!」


 ぐっと腕を胸に押し付けながら(絶対わざとやってる)フレアは俺を励ました。


「どんなお兄さまでも素敵ですから!」


 フォローになっているようでなっていない言葉を受け、俺はがっくりと肩を落とすのだった。

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