第13話:社長に就任する
「なるほど、大体事情は把握した」
ピザを頬張りながら、いつもの眠そうな目で
あれから昨日のこと今日のことをあらかた説明し終わり、これからやろうとしていることで力が必要だという話をした。
すわどうなることかと思ったがなんとか納得してもらえたようだ。
「とりあえず実際にスノウホワイトさんがそこにいる上に、コレを見せられたら全部悠真の妄想という線は消える」
コレ、と知佳が持ち上げるグラスは先程まで麦茶が入っていたのだが、スノウの力によって一瞬で凍てつかされていた。
種も仕掛けもなく、目の前でこんなことをされれば流石に信じざるを得ないだろう。
「スノウでいいわよ。あたしも知佳って呼ぶし」
スノウは意外とフランクな様子だ。
俺や
「じゃあ、スノウはさっきの悠真の話……動画とかで発信していくのは了承してるの」
「まあ……別に構わないわよ。それが一番良いって言うんなら」
嘘つけ絶対満更でもないだろ。
思っても言わないが。
スノウの扱い方は既に心得ているのだ。
「法の抜け道を使ってもいいならベストは他に幾らでもあるけど」
「それは無しの方向で頼む」
しれっと知佳は恐ろしいことを言う。
ネットに詳しいだのPCに強いだのふんわりとした言い方をしていたが、その詳しい強い度合いが普通とはかけ離れているのだ。
webサイトの設計やプログラムの開発から、ハッキングやクラッキングまで。
その気になればダンジョン管理局の機密だって盗めると豪語しているのは恐らくフカシではないのだろう。
今の所本人に法を侵すつもりはなさそうなのでとりあえずは安心しているが。
動画やなんかも依頼を受ければ作ると言っていたのを昔ちらりと聞いたので声をかけたのだ。
「確かに、スノウの容姿なら上手くプロデュースすれば一週間もあれば登録者数500万人くらいは行く」
「一週間で? 嘘だろ?」
「嘘じゃない。海外まで取り込もうと思ってるなら、とりあえず英語字幕だけ付けてもその3倍くらいは余裕」
とんでもない大言壮語だ……と笑って流すことは出来ない。
スノウは本当にそれほどまでの美少女だ。
「言っとくけど俺の英語のレベルは大したことないぞ」
ダンジョン管理局の試験に必要だったから日常会話程度ならできなくもないが、だからと言って翻訳の仕事を任される程ではない。
「知ってる。英語くらいなら私ができるから平気」
英語くらいと来ましたか。
これが厭味で言っているわけではなく、本気で思っていることなんだから凄いよな。
多分俺とは脳みその容量が3倍くらい違うのだろう。
もしかしたらもっとかも。
「3倍ってことは1500万人か……」
俺があまり現実味のない数字を呟く。
10万人とかでも相当なもんなのに、その150倍を簡単に達成することができるというのだからもう驚きしかない。
「よく分からないけどそれって凄いの?」
動画サイト事情に詳しくないスノウが首を傾げているが、日本語オンリーだとしてもド素人が一週間で登録者数500万人は凄いとかの話じゃない。
というか、普通にテレビに出ているような有名人だとしても普通に厳しい数字だと思う。
もはや事件だ。ネットニュースに上がるレベル。
俺が記者ならまず間違いなくチャンネルを運営している人にコンタクトを取ろうとするね。
知佳がスノウに答える。
「魔石なんて売らなくても収益だけで一生暮らしていける。悠真達の言う通りなら魔石の方が遥かに稼げるけど」
「へー……動画を出すだけでそんなに稼げるのね」
感心半分呆れ半分でスノウが言う。
「言っとくが、普通はそうはならないからな」
「つまりあたしが普通じゃないってことね」
ふふん、とスノウが調子に乗る。
しかし事実なのでどうにもツッコミづらい構図である。
「本当にダンジョン攻略できるの?」
知佳が調子に乗っているスノウに訊ねる。
「一日もあれば一つダンジョンを攻略できると思うわよ。悠真が並の召喚術師だったら時間もかかったでしょうけど」
「……まあ、そういうことだ。俺もスノウならそれくらいやっても正直驚かない」
それくらい圧倒的だった。
部屋ごとゴーレムを完全に凍結させていたあの光景。
思い出すだけでもぞっとしないな。
知佳はスノウと俺の話は聞いて頷いた。
「それが本当だとして、話題性も込みで考えれば動画の収益だけでも年に億は稼げる。それも桁を一つ増やしてもいいくらい」
「……お前が言うなら本当なんだろうな」
正直ちょっと話題になればいいな、くらいだったのだが。
どうやらそれでは済まないようだ。
「そうなってもいいならやるけど」
「引き受けてくれるのか?」
「構わない。断る理由もないし」
正直そんなことやるほど暇じゃない、とかって言われて断られる可能性も考えてはいたが。
普通に快諾してくれたな。
「助かる。報酬は……どうしようかな。とりあえず収益が出るか魔石が売却出来るかまでは待って欲しいけど」
「別に、適当でいい。お金には困ってない」
「そりゃ駄目だ。友人間だからと言って金の問題はちゃんとしないと」
この世は金がすべてとまでは言わない。
だがほとんどは金だ。
誰かがそう言ってた。
「全部でいいんじゃない?」
スノウが口を挟む。
「その……動画? で収益が得られるんでしょう? そのお金は全部知佳にあげればいいわ」
「あー、それでいいかもな。主目的は動画で稼ぐことじゃないし」
魔石を売ることがメインの目的だ。
動画はただの知名度と信頼を得る為のツール。
それを知佳が主導してやってくれると言うなら、収益は知佳に渡すのが道理だろう。
「本気で言ってる?」
流石に知佳が困惑したような雰囲気を出している。
知佳には色々丸投げするのだから当然だと思うが。
「流石に全部は受け取れない」
「じゃあ9割」
「それじゃ変わらない」
「んじゃ8割」
何故か逆値切りのようなものが始まり、最終的には折半という形で収まった。
「折半か……まあ、それで知佳が納得するなら良いんじゃないか。全部欲しければいつでも言ってくれ」
「納得も何も、そんな大金貰っても使いみちがない。折半でも多すぎる」
「これ以上は負からないからな」
「……それを悠真が言うのは変」
ジト目でツッコまれた。
「というか、悠真」
「なんだ?」
「動画での収益もそうだけど魔石を売ったりするのなら、会社を作った方がいい」
「……会社を作る?」
何を言っているんだろうこのちびっこは。
会社を作るて。
日々の面接にひいひい言いながら落とされていた男に何を言うか。
「冗談でもなんでもなく、本気で。経理だったり法律の問題はプロを雇えばいい。法人と個人じゃ信用度が全然違う。大きな額が動くのなら尚更」
「……そういうもんなのか?」
「そういうもん」
ちらりとスノウを見たが、「あたしが知るわけないでしょ」と一蹴された。
俺が知らないことをスノウが知るわけもないか。
……しかし知佳が言うんだったらそうなんだろう。
多分。
いや、俺もその辺りの知識が全くない訳ではないが、実際に個人事業主として稼いでいる知佳には明らかに知識でも経験でも劣るからな。
「そういうもん。という訳で会社を作る。社長は悠真。社員はスノウと私」
「えっ、俺?」
社長?
「私は当事者じゃない」
と知佳はあっさり言うし。
「あたしはそんなのやれないわよ。やるなら悠真がやって」
スノウは俺に丸投げするし。
「ということで、社長就任おめでとう」
絶対おめでとうと思ってないトーンと表情でペチペチと拍手しながら知佳は言った。
……マジで?
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