298.慢心と彼女なりの警告〜ギディアスside
『この世界には力なき者が触れるべきではない理がいくつか存在する。
身の程をちゃんと弁えておくべきだよ?
ああ、僕に畏怖する現状に驚いてる?
君は自分を見誤ったみたいだ。
今の自分に、地位に、胡座をかかずにもっと強く、賢くなりなよ。
僕に近づくにはまだまだ足りない。
でないとこれから先は····食われてしまうよ?』
あの時のアリーの圧倒的な存在感と湧き起こる畏怖を思い出すだけで未だに冷や汗が流れそうになる。
アリーの言う通り、身の程を知らずに化け物を刺激したみたいだ。
確かに自分を見誤っていた。
王太子でありながらA級冒険者となったくらいには魔法を扱え、いずれは賢王と呼ばれる父のような王になると言われる自分に胡座をかいていた。
「上には上がいて、所詮はその程度なのに」
思わず自嘲する。
いつの間にか今に満足していた。
ほんの10年前まで貧困と内乱でぼろぼろだったヒュイルグ国とは違って、平和なアドライド国。
その平和な国の
そんな現状にどこか満足している慢心。
「そりゃ、友になんてしてくれないよね」
バルトスは現状になんて満足していない。
そんな彼が今の私を
もちろん私は友だと思い続けるけどね。
そして····。
『君はある程度には
僕の言葉で愚かな同胞
君が気づいた事に気づいたら、果たしてあの卑怯な同胞は放置するのかな?
選ぶのはどちらだろう。
ねえ?
愚かな坊や?』
確かこの言葉のあたりで不意に孤王という言葉を思い出したんだっけ。
不自然な記憶の忘却と喚起。
あの本にかけられた緻密な闇属性の魔法と、浮き出た····恐らくは文字。
アリーの言葉の同胞に同胞達。
もしアリーが孤王か古王だとすれば、同胞もまた孤王か古王になるのかな?
でもあの絵本の文字はもう何百年も昔に一夜にして滅んだとされる帝国の文字で、私を含めて読めるのはこの国でも一握りだ。
そんな昔の古王が今も生きているとは考えづらいけど····。
アリーは本当に人属かな?
魔力はないけど、魔眼と精霊眼を持っている。
精霊眼なんて御伽噺くらいでしか聞いた事のない、どんな力を持つのかも未解明な代物だ。
もし魔人属なら····いや、それはないか。
魔力0なのは確かだし、グレインビル領で見つかった時は赤子だった。
それに鑑定しても結果は魔力0の人属だった。
今も体は小さいし、なかなか女性らしい成長まではしていないけど、人属の成長の仕方だ。
だとしたら、その末裔とか?
少なくともあの子の知能や腹芸は下手したら父王を凌ぐと思うんだよね。
うーん····まあその線が妥当なのかな?
でも見つかった時は赤子だったのは間違いないし、グレインビル侯爵が報告していないだけで、何かしらの
それから、確かその前には私を同胞の血縁者と言った。
私の血縁者····最も濃い者なら両親と弟。
遠縁になるなら筆頭公爵家。
それに隠したがる歪みとは何だろう?
けれどあの子の言葉を信じるなら、不用意に調べようとすれば無事では済まないかもしれないんだよね?
食われる、か。
もちろん言葉そのままの意味ではないだろうけど、そもそもどういう意図を持って私に伝えたのかが全く読めない。
とはいえあの時の私への悪感情だけで今まで隠していたはずの、あの強烈な本性を顕にするかな?
既に腹芸は父王を凌ぐかもしれないと感じている、あのアリアチェリーナ=グレインビルが?
もちろん彼女を見誤っていたのは間違いない。
きっと私が推し量れないレベルの狡猾さと苛烈さを持っている。
そんな彼女が一時の感情で無意味な発言をするなんて····あり得ないよね。
でもやっぱり情はあると思うんだ。
だって
彼女を見誤ったとしても、バルトスを見誤ってはいないと思うんだ。
そうすると少なからず見える部分があるんだよ、アリー。
まず、私は自分と血の繋がりのある者達を疑うべきなんじゃない。
疑わなければ
「手厳しいなあ」
誰もいないのをいい事にぼやいてみる。
もっと上を目指さないとバルトスの友にはしてもらえなさそうだ。
今の私ではまだ足りない。
何かしらを失わないようにするには。
自意識過剰でも何でもなく、私は
だから、危機感を持たずに彼女の言うところの歪みや同胞に気づいてしまう可能性があったんだと思う。
それも危機管理しきれないまま、無防備に。
けれどただ危険だと知らせるだけでは回避できないから、警告の意味で本性を出して私自身の慢心と実力不足を自覚させた。
私自身が強くあろうと望むように。
ルドルフはレイヤードもアリーもレイヤードがもっと強くなる事を望んでいたと言っていた。
魔王でも目指すのか、て言ってたけどね。
バルトスもそうだ。
現状維持しようだなんて考えてもいない。
戦闘力だけなら団長のネビルをとっくに凌駕しているのに。
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