274.旅人さん〜ルドルフside
「何故····」
突然身に起きた不測の事態に戸惑い、ボソリと呟く。
心の妹が寝込んでいる間もレイに頼んで魔法の腕を、シルに頼んで剣術の腕を磨いていた。
卒業までにA級冒険者に昇格する目標を捨てたつもりはない。
そのせいかここ1週間ほどで不安定ながらも短距離の転移ができるようになった。
昨夜部屋に戻ってきてから何となく落ち込んでいるように見えた兄上が兄としても、未来の俺の主君としても少しは喜んでくれるだろうかと部屋内での転移をお披露目しようとした。
弟として出来の良い兄に少しばかり褒めて欲しかったのは秘密だ。
が、失敗した。
転移した途端に初めて感じる魔力の流れに巻き込まれ、アリー嬢達に与えられた部屋の扉の前に転移してしまった。
何故こんな事になったのかはわからない。
ただあの魔力に干渉を受けたのではないかとは思う。
転移魔法は繊細で難しい。
ただ魔力が高ければ良いというだけではないのだ。
幸いアリー嬢の部屋の前には衛兵は配置されていない。
賓客扱いではあるものの、あの兄達と専属侍女がいる時は必要無しとして様子伺いを兼ねた定期巡回以外の拒否をこの国の国王は認めたらしい。
彼らの実力だけではない。
単なる同盟国の貴族である彼らはそれほど信用されているという事だ。
お陰で下手をすれば問題となる失敗は今すぐ自分の部屋に戻ればバレない····多分。
「!!」
が、直後に再び不測の事態に見舞われる。
一瞬ではあったが濃縮され圧倒的に存在感のある、どこか先程感じたものと似通った魔力の圧に襲われたのだ。
「アリー嬢!!」
思わず反射的に部屋へ飛び込んだ。
似通っていたとはいえ、あんな強大な魔力はこれまで感じた事がない。
それもあのレイが守護やら保護の魔法を施しているはずの溺愛する妹がいる部屋から魔力が漏れるなど、本来なら有り得ない。
だが予期せぬ人物と顔を突き合わせた。
「ヒュイルグ国王?!」
「ルドルフ王子?」
この国の王が何故いたのかはわからないが、彼もどこか慌てたように一歩踏み出した状態目が合った。
「おい、何故お前が乱入してくる」
あ、奥にバルトス殿がいたのか。
かなり不機嫌な様子を全く隠さずに乱入扱いを受ける。
俺、一応自国の王子····。
その時だ。
奥から2つの人影が現れた。
1人は燃えるような赤い長髪に不思議な色の青い目をしていた。
随分と活き活きした、生気に溢れた爽やかな印象だ。
見た瞬間、この者が兄上から聞いた青年だと理解する。
しかしその後ろからついてきた男を見て、驚いた。
「そなたが件の旅人さんとやらか?」
国王の言葉にハッとする。
まさか彼がアリー嬢の医術の師匠なのか?!
彼は黒髪に黒とも見紛う濃い茶色の目をした長身のすらりとした体型だった。
赤髪の青年が快活で爽やかな印象なら、彼は中性的で落ち着いた穏やかな印象だ。
この周辺の国にはない顔立ちで、どことなく東の諸国の者達と似ていなくはない。
ただ気になるのはこの場の俺達とは違い、冬なのにかなりの軽装でズボンに半袖の服だ。
それにしても麗しいと表現するに値する顔貌だな。
それほどに異国の者だとわかる男の顔立ちは、整っていた。
優しげな面差しだからか細身の体躯も相まって、身長さえ気にしなければ女性でも通じそうだ。
年齢は兄上やバルトス殿と同じくらいだろうか、と思いながらも落ち着いた穏やかな印象とは別に何とはなく醸し出される色香が、もう少しばかり上の年齢のようにも感じさせた。
「やあ、はじめましてって言うべきか、な?!」
穏やかそうな心地良さを感じる声が突然上ずったのは、つかつかと歩み寄ったバルトス殿が彼に抱きついたからだ。
「会いたかった!
そうか、お前がそうなんだな!」
「僕も、って、ちょっ、待って?!
さすがに僕は重いでしょ?!」
初めは自分より少しばかり背が高いバルトス殿を抱きしめ返していたが、突然抱き上げられて慌てる。
「はっはっはっ!
魔法で軽くしたから問題ない!」
「へ?!
重力操作?!
ていうか40近いおじさんが抱っこされるとか、さすがに恥ずかしいよ?!」
驚いた顔は更に幼く感じさせていたせいか、カミングアウトされたまさかの年齢に驚く。
「「40?!」」
あ、国王と被った。
はっ、そうだ、心の妹はどこだ?!
「ま、待ってくれ!
それよりバルトス殿、アリー嬢は?!
先程の魔力の圧は何なのだ?!
それにそなたとあそこの赤髪の彼は何者だ?!
しかもそなたも魔力が無いのか?!」
どさくさ紛れに謎の男達についても尋ねてみる。
「アリアチェリーナは僕と居場所を交換したから今はいないよ。
魔力の圧と不自然な魔力の流れがあったんなら、多分その影響じゃないかな。
僕達は彼女に呼ばれただけだけだから気にしないで。
僕に魔力は無いけどそんなもんだよ」
バルトス殿の代わりに黒髪の彼が答えてくれたが、その内容にまた驚く。
「居場所を交換?!
呼ばれたって、どういう事だ?!
それに魔力の無い者が何故?!
そんなもんでいいのか?!」
だが更なる疑問は国王の方へと視線を投げかけた彼によって放置される事となる。
「うーん····ねぇ、僕が説明しなきゃいけないの?
時間には制限があるんだけど、最悪中途退場しちゃうよ?」
「駄目だ。
進めてくれ」
どこか困ったような顔をした彼に国王がそれを了承した為だ。
「ルド、突然乱入してきて時間取らせないで」
「レイ!
だが····」
すると寝室らしい奥の部屋からレイが出てきた。
レイも軽装だな?!
レイに詰め寄るが、レイはそんな俺を無視して未だに抱き上げられている彼の前に歩を進めた。
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