208.国王陛下と不毛な会話

「何だ?」


 部屋に入って僕と目が合った瞬間、そう言って距離を取られる。


 青みがかった黒髪をした精悍な顔と体格の彼はレモンの果肉みたいな黄色の目でこちらを窺ってきた。


「どうされました?」

「いや、笑ってるが怒ってる、つうか、むしろ殺気立ってる?

あ、口調は好きにしろよ」

「よくわかってるね」


 相変わらず君の勘は冴えているみたいだね。

お言葉に甘えて取り繕うのはやめるよ。


「え、俺あの時以外で何かしたか?」


 やめてくれないかな。

顎に手を当てて目を泳がせるの見ると、むしろ何かやらかされたのかと僕の方が疑っちゃうんだけど。


「別に?

あの時以外ではつまらない婚約の打診以外は特に何も?

ただ、専属侍女が寂しがっているようだと聞かされたからね」

「ああ、思い出し殺意か」

「そうだね」


 何でもない事のようにさらっと言うから同意してあげる。


「いや、国王捕まえて殺意とか言うなよ」


 呆れた目で見られても····。


「言ったのは君ね。

仕方ないよ。

何をどうやっても君達を許すつもりも、その必要性も感じてないんだから。

君もそれくらい聞き流す度量は持ち合わせてるでしょ。

そもそも今、君を殺してもまた面倒な事になるだけなんだし、今は、殺すうまみもないから安心して」

「酷えな。

やたら今を強調してくれんなよ。

全然安心できねえだろ。

まあな。

こっちはこれでもお前に望みを叶えて貰ったんだ。

それくらいはするけどな。

つうか面倒だから殺さないのかよ」


 自分でノリツッコミしてるけど、別に面白くはない。


「そこまで君に興味ないとも言えるね。

それで何の用?

今は不毛な会話を君としたい気分じゃないんだけど?」


 今は僕を宥める義兄様も眠ってるだろうから、消えてくれないかな。

目の前のこの存在が不愉快だ。


「まあそんなピリピリすんなって。

なあ、まだ薬を作る気にならねえ?」


 いきなり本題振る癖やめて欲しいな。


「不毛だね。

消えてくれないかな。

なるかならないかなら、一生ならない。

あの時グレインビルの邸で倒れたに残っていた薬を与えただけでも有り難いと思ってよ」


 ほんと、しつこくて不愉快。


「僕からすれば、僕の侍女を殺した責任は君や君の側近だけじゃないんだ。

そもそも彼はそれこそ、この城にいたんだから。

それでも彼の無事は確保してあげたでしょ。

別にあの時だって見捨てても良かったけど、そうしなかったんだし。

それにあの薬は君の大事な彼に与えても、根本的な解決はしない。

結局はある日突然ぽくっと逝くんだから」

「いや、言い方。

お前の国の王子を招いたのに?」


 苛々する。

恩着せがましいな。


「僕に関係あるなんてふざけた事思ってないよね?

そもそもそれは君にもこの国にも利があっての行動じゃない。

嫌なら今すぐ追い返しなよ。

外交問題になっていいならね」


 あまりにも冷たく突き放したからか、少したじろいだ。


「根本的な所をはき違えてないかな。

僕にとっての最優先事項の中に国や王族は入っていないし、君は僕の大事なものを奪った。

そんな君の大事なものが死んでも僕の良心は痛まない」

「····悪かった。

話の持って行き方を誤った。

ならどうやったらアイツは助かる?」

「助からない」


 すげなく言い切る。


「それは仮にお前の家族がそうなってもお前は助からないと諦める類いのものか?」

「そうなるだろうね」


 即答する。

けれどこの男はやっぱり諦めないんだよね。


「違うな。

お前は足掻くし、諦めない」


 まあそれは僕もか。

僕は家族に対してだけは何も諦めないと決めている。


「最終的に諦めざる終えなくなるってだけだろう?

お前ならどうやれば助かるかを考えて、助かるように行動する。

結果はその後の話だ。

その行動内容を教えてくれ」


 黄色の目は覚悟を決めている。


「····教えたら何をしてくれるのかな?

けれど君に教えたとしても助からないよ?」

「それでも教えてくれ。

アイツを喪いたくない」


『お前が医者で良かったよ。

リスクは理解した。

それでも頼む。

娘を助けてくれ』


 遠い昔の幼馴染みの姿が頭を過る。

あの時の彼も君と同じ目をしていたんだった。


 はあ、とため息が出る。


 どうしてこんなタイミングで思い出すかな。


 そしてふと思う。


 義母様を助ける為に初めて義兄様達に喃語で話しかけた時、僕はどんな目をしていたんだろうか。

少しは人間味のある目をしていたのかな。


「····3年前のアデライド国王族誘拐事件の主犯3人の裏に誰がいる?

言っておくけど、明確な答えしか受けつけない」

「いきなりそれかよ。

難題すぎねえ?」

「それくらいの難題を君は今突きつけてる。

嫌なら断ればいい」

「時間をくれ。

もう1度精査して再調査したい」


 もう1度、か。

1度つついて蛇でも出たのかな?


「1週間」

「15日」

「10日。

その代わり、今あっちの学園にいる王女の身辺調査もして」

「····ハードル上がったじゃねえか。

わかった」


 どうせ既にいくらか調査はしてるでしょ。

昔も今も君の命にナイフをあてがってるって自覚はしてるはずだ。

だからこそ死に物狂いで腹芸ができるように僕から学んだんだから。


「それで、表向きは何の用だったの?」

「ああ、晩餐の誘い。

お前の国の王子とも昼間挨拶したし、一応アデライド国との親善外交だろ?」

「····何で直接?」


 普通は誰かしら通してまずは知らせるものだよ?


「俺の愛しの化け物の顔を拝んで疲れを癒やしたかったんだよ。

お前、顔だけは美少女だろ」


 ニカッと笑う。


 素直だけど、失礼。

まあ確かに僕の顔は美少女だ。

過大評価はしないけど、過小評価もしないよ。


「確かに」

「謙遜なしかよ」


 素直に同意しただけなのに。


「着替えた方がいい?」

「いや、内々の晩餐だからそのままでいい。

雪国だからな。

実際王子がいつ到着するかはその時にならねえとわからなかっただろ?

この国がいつ雪深くなるかなんてなかなかよめねえからな。

ちゃんとした晩餐会は開くさ」

「ま、天候だけは仕方ないね」


 やはり一月後に帰国するのは無理っぽいよ、ルド様。


「兄君はお疲れみたいだし、マーサには様子見てこっちに食事を運ぶよう言っておいた」


 マーサはあの侍女さん。

彼と従弟の乳母だった人の娘さんにあたるんだ。


「そういうところは顔に似合わず気が利くよね」

「顔に似合ってて気が利くだろ」

「····」


 差し出された手を無言で取って部屋を出た。

後ろからは廊下に控えていた彼の側近もついてきてるから、彼も混ざるんだろうね。




※※※※※※※※※

あとがき

※※※※※※※※※

いつも応援や評価ありがとうございます。

本日2話目投稿です。

同時進行中だったこちらの長編小説を完結させて少し余裕ができた模様。


《完結御礼》【溺愛中】秘密だらけの俺の番は可愛いけどやることしれっとえげつない~チートな番を伴侶にするまでの奔走物語

https://kakuyomu.jp/works/16816452221132334847


なるべく毎日投稿できるように頑張ります。

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