201.婚約関係色々

「なんだ、ルドの本当に話したかったのはそっちかい?

学園が休みの日とはいえ、朝から私の所に来るから変だと思ってたよ。

もう父上の承認もおりて、早朝便でこちらからの書簡は送り返した」

「それでは····」

「お陰様で私の宙ぶらりんになってた婚約は本日付けで無事円満解消されたよ」


 そう、こちらからの何度目かの打診の末、やっと私とイグドゥラシャ国の王女の婚約が解消された。

1つ条件を出されちゃったけどね。


「晴れて自由の身になった感想は?」


 ルドも年頃の男子だね。

本当にいつぞやの浜辺のアリーと同じ顔だよ。


「何も変わらないよ。

元々折々の手紙くらいでしか交流してなかったからね。

約10年という婚約期間はあったけど、会ったのが数年前のほんの30分だけだから。

しかもその時にお互い意向確認して婚約を解消する方向性になったからね。

何かが変わる方が無理かな」


 途端にスン、とした顔になるところもいつぞやの浜辺のアリーと同じだね。


「そうか。

そんなものなのか」

「····そんなつまらなさそうにしなくても····。

そうそう、今回の件と交換条件でね。

イグドゥラシャ国の末の王女が急きょ留学する事になったんだ」

「····随分急だな」


 ふふ、面倒そうな顔に変わったね。

私も婚約解消の書簡と共にその件を依頼された時は同じ顔をしていたかもしれない。


「今のアドライド国はイグドゥラシャ国周辺の国々と外交も良好で交易も盛んだからね。

少し前のザルハード国じゃないけど、ずっと好戦的にやってたあちらとしては、気づけば周りが敵国だらけなんじゃないかな」

「なるほど、友好国アピールか。

我が国への交易ルートの開放も今のところ順調なようだし、このまま友好国であり続けてくれればいいのだが····」


 これまでの我が国の南の辺境領との争いや、あの誘拐事件の関与の疑わしさから考えればルドが顔をしかめる気持ちも少しわかる。

アリーが巻き込まれたせいでレイヤードから距離を取られたのも内心大きいはずだからね。

まあ最終のやらかしはうちのトップ達だけど。


「名ばかりの婚約でこちらからはここ数年何度も解消を打診してしまったからね。

それくらい我が国の外交が10年前と比べて良好だって事なんだけど。

婚姻を結んで自国から出て行く王女よりも、末の王女を留学にやってあわよくばうちの第2王子を婿にしたいのかもしれないよ?」

「え、俺?!

いや、確かにあの国がすんなり解消するとは····兄上?

何かあるのか?」


 お、気づいてくれた?

思惑もなくあの国がこちらからの要望を聞くわけないんだよ。


「これは最近仕入れた情報だけどね。

あちらの国の王太子はここ何年か体調が優れないみたいでね。

正妃を母親に持つ子供は王太子と私の元婚約者殿なんだ。

そして2人は第1、第2王位継承者だ。

今回留学するのは10年ほど前に市井で見つかった継承権を認められていない王女だよ。

前国王の御落胤という噂がある」


 継承権を持たない王女ならうちの第2王子をあてがわせるのに都合が良いだろうね。

あの国は我が国への敵対感情が強いようだし、けれど友好国という立場を覆すには我が国の諸外国との良好な関係があちら的には脅威だ。


 それにこの何年かであの国の継承権保有者で唯一の男子だった王太子が何かしらの病にかかったらしく、元婚約者の周辺環境が大きく変わりつつある。

女王擁立となるのか、このまま王太子が持ち直すのか····。

情勢としては滅多に擁立されない女王よりも男子である王太子に軍配はある。

今のところは。

我が国としては知った事じゃないけど、婚約解消に時間がかかったのもある意味仕方ないと納得はしてしまうよ。


「····随分訳ありじゃないか?」

「ま、噂だよ、噂。

年は問題児達と同じだから、頑張ってね、ルド」


 学園での留学生達への対応は第2王子であるルドに任せてある。

ある程度の国内外の情勢は頭に入れて対処してもらわないとね。


「しかも問題児がまた3人になるのか····。

いや、まだ問題児かどうかわからないよな。

まあ新学期が始まってまだそんなに経ってないし、編入生も珍しくはないし。

2学年ならまだこれからだから俺が卒業までの間フォローすれば環境には馴染むだろう」


 うん、それにしてもうちの弟はやっぱり面倒見がいいね。


「末の王女に関しては今年14才であちらの国でも未成年だった事もあって社交の場に出た事がないらしい。

どんな子なのかはわからないけど、後見人としてはそうなってくれるのを願うばかりだ。

来月にはこちらへ留学してくる」

「わかった」


 さて、ここからのルドの反応が気になるね。

どこぞの浜辺のアリーと同じ顔にならないようにしないとね。


「それとね、ルド。

ヒュイルグ国からある書簡が届いたんだ」

「ヒュイグル国?

グレインビル領と大河を挟んだあの国か?

落ち着いてたはずだが····まさかまた仕掛けてきたのか?!」

「ルドの心配は最もだけど、関係は良好だし今も継続して小さな小競り合いも起きていないよ」


 かつて何度も侵攻を仕掛け、辺境であるグレインビル領によってその度に退けられてきたのがヒュイグル国だ。


「なら、一体何が····」

「ヒュイグル国国王がアリアチェリーナ=グレインビル侯爵令嬢との婚約を打診した」

「········は?」


 あ、ルドが固まっちゃったね。


「元々ね、国王が王太子ですらない王子だった頃、そして王太子になった時の2度打診してきてたんだ。

でもその時はまだ体調があまりにも不安定だったし、成人もしていない子供だからって話そのものを無かった事にしたんだ」

「それじゃあ今回も····」

「今回は仮にも国王という立場で、アリーの成人までもう1年もないからね。

ねえ、ルド?

今何を思ってる?」


 弟の顔から表情が抜け落ち過ぎてて表情が読めないなあ。




※※※※※※※※※

お知らせ

※※※※※※※※※

これにてこの章は終わりです。

この章ではアドライド国と周辺国との関係を整理がてら話を作っていたので最後のギディアス視点のお話はもたついてしまったかもしれません。

読んでいただいてありがとうございました。

応援や評価をいただいた方にも改めて感謝します。


次の章までまた少しお時間下さい。

恐らく10日ほど?

ただ次の章で少しお話を展開させようと思っているので、自分用にまとめてあったこれまでの事を修正してまとめ記事みたいな形で投稿するかもしれません。


今後ともよろしくお願いします。

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