163.合流~ギディアスside

「やはりお前もきたのか」

「兄上こそ。

それより何故あなた方が?」

「まったくだ」


 王宮魔術師団副団長の長男で私が側近を望むグレインビル家の長男と、今年から冒険者として活動している次男が不機嫌そうにジロリと睨む。

私達って王族だったはずなんだけど、この兄弟からは尊敬の念を微塵も感じない。


 でも彼らの義妹が何かと王族絡みで被害を受けている事を思えば強くも出られないから困りものだよ。

それもグレインビル夫人が倒れた彼女の幼少期から始まり、弟のルドルフの夏のお茶会、そこのザルハード国第1王子がやらかした魔法技術大会、とどめの昨年の巻き込み誘拐事件。


 しかも巻き込み誘拐事件はこの国の王妃や三大筆頭公爵家の女性陣全員が絡んだ為に起きてしまった。

そしてそれが元で病弱な妹が生死の境をさ迷う羽目になった上に慰謝料だけで解決しようとあの宰相と国王父上が動いたとあれば、グレインビル一家は揃ってこの国を出て行く決断をたった1日でしてしまったのを誰も責められない。


 まあその慰謝料はかなり膨大な金額だったけど、そもそもグレインビル家の人間は金より自由を愛する。

多才な彼らは金ならいつでも稼げるし、彼らの義妹は間違いなく商才を発揮して商人達との縁を強固にしているのだから、金で溜飲を下げるはずがない。


 宰相はともかく、父上は親友の娘と息子の縁談で憧れの可愛い娘と侯爵の親友から親戚へのグレードアップを夢見た結果だったけど、グレインビル家の人間が絡むと残念思考になるのはどうにかならないものかな。


 確かに慰謝料という名でも王家から金を受け取れば縁ができてしまう。

そこに責任を取る為とかそれらしい理由で婚約者にできれば、彼らの天使の囲い込みもできただろう。

それが普通の貴族だったなら。

親友だと口にするならグレインビル家が普通の貴族でない事はわかってただろうし、画策しなければ侯爵に首根っこ掴んで部屋から放り出されたりもしなかっただろうに。


 父上は国王なのに、とかしばらくいじけていた。

自業自得だよ、父上。

しかし今度は宰相がやらかし、その時の彼の涼やかな坊主頭を見てグレインビル家の恐ろしさから口をつぐんだ。


 宰相は来るべき日の隣国の王女と自国の王太子の婚約解消を考えてか、もしくは未だに婚約者を決めようとしない第2王子を憂いてか、はたまた富をもたらしそうなあの子が欲しかったのか、私とルドルフ、息子のマルスイード=ルスタの釣書を義妹へ直接送りつけた。

その報復があの頭だった。

しばらく涼しいままだったけど、冬の本番には元に戻ってほっとしていたらしい。


「睨まないでよ、レイヤード。

アリーも元気になって良かったよね、ルド、シル」

「はい。

昨年はアリー嬢には申し訳ない事をしました」


 あの誘拐事件の後、シルは1度は責任を取って騎士を辞そうとした。

ところが1番の犠牲者であるアリーが熱に浮かされながら懇願したんだ。


『シル様····辞める、の?

責任を取るなら····それ、駄目。

騎士として····強くなって。

今は····耐える時』


 苦しそうな呼吸の合間の懇願。

恐らくアリーは騎士を辞めようとした事に気づいていた。


 私とバルトスは離れて気配を殺していたから、多分あの子は聞かれていた事は知らないだろう。


「バルトス殿は先日祭りの準備の際に会ったが、レイは卒業式以来だな。

昨年の一件で俺もシルもアリー嬢には責任を感じている。

5年の間の接近禁止はもちろん守るが、遠くから見守るのは許して欲しい。

今年は学園の留学生で問題児が数名いるが、よりによって今日の祭りに来ているんだ」

「申し訳ない。

ザルハード国の私の弟とその取り巻きなのだが····」

 

 もちろんルドルフは内心妹だと思ってるアリーの様子を直接見たかったのもあるだろうね。

だけど1番の理由は気のおけない友として、あの父上達の愚行以来距離を取られたレイヤードと直接話したかったのが大きいだろう。


 ちなみにバルトスもいくらか私と距離を取っている。

全く、あの2人も余計な事をしてくれたものだ。


 一応そこで申し訳なさげな様子の彼の弟王子と取り巻きの問題行動がかなりいただけないとして、ルドルフにも留学中の彼らに関する権限を与えて見張りと牽制役を任せている。

理由付けとしては悪くないはずだ。


 兄王子の彼、ゼストゥウェル=ザルハードには現状では何もせず、己を磨けと言い含めてある。

今の彼の後ろ楯はあまりにも脆い。

彼の母親は正妃で元筆頭公爵家令嬢だ。

そして精霊は見えている。

立太子に1番近い。

けれど母親の生家である公爵家の力が衰えて領地をいくらか手放し筆頭から外れてしまった上に、積極的な後ろ楯になろうとせず、正妃である母親もどこかよそよそしい。


 そしてザルハード国は教会の権威が王族と二分する。

弟王子の母親は側室で生家は養子となった侯爵家だが教会と繋がっていて教会は光の精霊王が彼を守護しているとかなり前に公言した。

そして昨年とうとう侯爵家から公爵家へと陞爵した。


『ふざけないで!

あんな中身がない大人の言いなりのカスッカスの不遜なだけの子供なんか何で守るのよ!

特にあの子供の周りの大人なんて不遜に加えて薬漬けも多いし、気持ち悪すぎよ!

そもそもあの子供も教会の奴らも精霊の靄すら見えてないし、魔属に取り憑かれてるじゃない!

あんな国の王族なんて1人でも守護したら光の精霊王である私の沽券に関わるわ!

私が見限ってクソ闇と入れ違いで出てった時から、精霊なんかほとんどいないわよ!』


 あの時の光の精霊王が吐き捨てた言葉を思い出してぞっとする。


 他国の薬漬け教会だ。

できれば放っておきたい。

爆発とかして消滅してくれない?


 魔属に取り憑かれてるって何だよ。

できれば放っておきたい。

まさかと思うけど、あっちの王族に取り憑いてないよね?


 しかしザルハード国の隣国でもあり、この国の南に隣接するあの国への牽制も必要だ。

そう、現状ではまだ私の婚約者であるあの王女のいる国、イグドゥラシャ国へのアドライド国友好国としての牽制が。

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