162.帰宅

「それは····」


 王子が口ごもる。

反応からして本人もわかってるみたいだけど、立場を考えて板挟みみたいになってるから二の足踏んじゃうんだよね。


 でもそれは王子の個人的問題。

隣国の、それも国民感情ともなれば考慮してくれないよ?


(ゼスト····)


 3等身のヤミーが起き上がって王子の肩に飛んで頭にしがみつく。


(僕はゼストの味方だよ)


 うんうん、今の彼はここでも自国でも孤立無援だからね。

リューイさんもそれとなく王子のすぐ後ろに立ったね。

七光り君よりはマシな王族だと思うから、2人でちゃんと支えてあげてね。


「こちらとしてはでのザルハード国王族の謝罪なんて君がの1度で十分だけど?

それとも君の弟も子供だから許せと?

アドライド国グレインビル領領主の令嬢であるアリアチェリーナ=グレインビルに君達ザルハードの王族は何度無体を働けば気がすむのかな?」


 更にレイヤード義兄様が畳み掛ける。

そうなんだよね。

目の前の彼はもう成人してるんだよね。


 ザワリと義兄様の気配が鋭く変わるオプション付きだ。

あ、バルトス義兄様もだ。

殺気まではいかないけど、威圧に魔力まで少し乗せちゃってる。


 ····王子に君とか言って威圧までしちゃうなんて、不敬罪にならないよね?


 ていうかレイヤード義兄様?

僕はまだ屋台での七光り君の事を話してないよ?

本当に、いつから合流してたのかな?

2人の様子からしてバルトス義兄様も知ってるみたいだけど、いつの間に報告したのかな?


「とはいえグレインビル侯爵家としてもが目立つ事は望まない。

これまでのザルハード国王族である2人が妹にした事を思えば関わらせるわけにはいかない。

見識を深めるよりも先にやるべき事があるだろう、ザルハード国第1王子。

ここはアドライド国であって、ザルハード国ではない」


 おやおや?


 バルトス義兄様がグレインビル侯爵家嫡男としてバサッと切り捨てる。

王子は何か言おうと口を開くけど、結局何も言えずに俯いてしまった。


 けど、今までと違って何だか義兄様達の言葉に優しさがある気がするのは気のせいかな?

レイヤード義兄様もほんの少しだけ手加減してたよね?


 だって今までなら断るの一言で転移でもして無視して終わりだもの。

昨年のヤミー指輪の貸し出しとグレインビル式特訓への王子の参加で少しだけ情が湧いたとか?


 うーん····色々あやしい。


 とりあえず読心術疑惑のあるレイヤード義兄様に念を送ってみる。


「読めないからね、アリー」


 ····あやしい。


「読めないってば。

ほら、行こう」

「そうだな。

レイヤード、俺の天使が俺の腕に飛び込みたがっているぞ」


 うん、バルトス義兄様に読心術はない気がする。


「それはないよ、兄上」

「バルトス兄様、お祭りから帰る時に飛び込むね」


 立ち尽くす王子を横目に僕達兄妹は路地裏から出て通りに戻る。

ヤミーにだけまたね、と心の中で手を振っておいた。


 その後西のブースに寄ってみたけど出入口が封鎖されててウィンスさんもいなかった。

ブースの中から冷気が漂ってたんだけど、暴れてた誰かが氷でもぶちまいたか凍らせたかしたの?


 西の屋台でイカのスパイス焼きを売ってたギザ耳のペルジアさんから、お兄さん達は事情聴取で王都騎士団の詰所に出向いてるんだって教えられた。

暴れてたのは隣国からの留学生3人。

いつの間にかいなくなってた騒ぎの原因の1人でもある第3王子は南の屋台の飲食スペースで突っ立ってたらしいよ。


 もちろん3人共お城に連行されたって。


「バルトスさんがいた時は大人しくしてたらしいけど、連行する騎士達と交代でいなくなったら途端に抵抗したってさ。

俺が見たのは焦げ茶色の髪の通行人2人が来て大人しく連れてかれたあたりからだったんだ。

お供が見覚えのある狼属と黒豹属だったし、全員顔に見覚えがあった。

この国の王太子と王子がたまたま視察中だったから駆けつけたんだろう」


 ペルジアさんはバルトス義兄様達にお礼を言って連行される時の事も教えてくれる。


 ほうほう、視察中だったんだ。


「それは運が良かったですね」


 と言いつつも僕はほんの一瞬の義兄様達の麗しのお顔の変化を見逃さない。


 ま、皆僕を心配して見守ってくれてたのはわかってるけどね。


「ああ。

それより抱えられてるのは体調が悪いからか?

兄貴達も心配していた」

「ふふふ、大丈夫ですよ。

兄様達に愛されてるだけです」

「そ、そう、か。

ほら、海鮮リーパンも土産にするといい」

「ありがとう!

それじゃあウィンスさん達によろしくって伝えておいて下さい!」


 僕がイカ焼きとカレーパンをマジックバッグに入れると再び路地裏に向かう。

お願いした通り、僕はバルトス義兄様に抱き移ってお家に帰宅だよ。


「お帰り、私の可愛い天使。

バルトス、レイヤードもお帰り」

「「「ただいま戻りました」」」


 義父様が満面の笑みで僕達を迎えてくれた。

いつもならそのまま義父様の腕に移るけど、今日は夜勤なのにお仕事したバルトス義兄様に抱えていてもらう。


「バルトス、帰宅次第、至急城へ戻れとの知らせがあった。

祭りの後始末と言えばわかると聞いている」


 バルトス義兄様、言い終わらない内に義父様にガンを飛ばしちゃダメだよ。


「くそ、あのバカ共のせいだ。

だが俺には天使を寝かしつける任務がある!」

「兄上、僕が代わりに任務を遂行しておくから心おきなく戻って下さい」

「いや、これは俺の単独任務だ。

他の誰にも任せられん」


 僕にとっても魅力的な任務だけど、そろそろ僕の体力は底を尽きそう。


「バルトス義兄様、これ屋台で買ったの。

本当は皆で食べたかったけど僕の体力がもう限界だし、夜ご飯にしてくれると嬉しいな」


 お土産に買ったタコ焼き、焼き鳥、イカ焼き、リーパンと取り出してはバルトス義兄様のマジックバッグに入れていく。

もちろん抱っこされたままだよ。


 最後にぎゅっと首にしがみついて頬っぺにチュッとして義父様の腕に移る。


「行ってらっしゃい、バルトス義兄様」

「くっ、俺の天使が健気で可愛い!」


 崩れ落ちる義兄様の方が可愛いよ。


「それじゃあバルトス、気をつけて」

「はい」


 そう言うと義父様は僕を連れて執務室へ。

義兄様達は僕がお願いしてマジックバッグに入れてたお祭りの戦利品を置きに厨房に向かったんじゃないかな。


「私の可愛いアリー。

楽しかったかい?」

「うん!

お祭りでね····」


 僕は義父様に抱っこされたままソファに座ってお祭りでの出来事を話す。

そうしてるうちに、いつの間にか眠ってて、気がついたら朝だった。


 もちろん朝はレイヤード義兄様と一緒に食べたけど、疲れが出たのかな。

食欲があまり湧かなくなってて、お昼頃からは熱が高くなっちゃった。

結局体調が落ち着いたのはグレインビル領に冬の寒さが訪れ始めた頃だったのには唖然としちゃう。


 病弱でか弱い令嬢は大変だよね。

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