129.兄として~sideルドルフ
「女性の当主というのは珍しいけれど確かにこれまでもいらっしゃいました。
ですが三大筆頭公爵家ともなれば話は変わります。
なのにあの方は他にも候補者がいたにも関わらず公爵位を継がれた。
全ての意味で実力が無ければ恐らく他の二家が潰しにかかったのではないでしょうか。
三大筆頭公爵家とは権力が偏らないように各家々がパワーバランスを重きに置く一族方。
自分達の家より弱くさせてしまう当主であれば決してお認めにならないでしょう。
後は····秘密?」
確かに言っている事は的を射ているが、まさか俺がたまたま知ってしまったあの事に気づいているのか?
本来なら
「····そうか。
アリー、君は俺にとって友人であるレイヤードの大事な妹だ。
それに君の事を妹のように想っている。
だからあえて忠告しておくが、貴族の中でも人属以外の血筋である事を隠匿している家もある」
そう言いながら俺は小さくて華奢な肩にそれぞれの手を添えて目線を合わせる。
今気づいたが、小さく震えているし、布越しに伝わる体温も高い。
ケープはやはり君が身につけるべきじゃないのか。
「それに関しては詮索しない事が暗黙のルールだ。
その上でどういった血筋の者かは王となる者以外には秘匿される。
つまり王から王太子にしか正確には教えられない。
決して深追いしたり、相手が誰であっても、それが家族であっても口に出してはいけない。
場合によっては他家から暗殺を仕向けられる事だってある。
例え何に気づいても、何を知っても決して口外しないと約束してくれ」
とにかく真摯に言葉を紡ぐ。
特に三大筆頭公爵家の面々は危険なんだ。
いくらあの悪魔や酷い時は魔王と称されるグレインビル一族であっても手にあまるだろう。
「わかりました。
アリアチェリーナ=グレインビルは名づけられたこの名に誓って自分からは一切口外しないと誓います」
恐らく産まれて暫くして捨てられたアリーには祝福名がないんだろう。
祝福名は産まれたその時につけられる。
俺ならウォースがそれに当たる。
こんなところでそれに思い至るとは思わなかった。
「すまない。
ありがとう」
「いえ、私の方こそ守ろうとしてくれて嬉しいです」
柔らかい微笑みにつられてほっとする。
何となく片方の手を肩から小さな頭に置いて撫でる。
さらさらな髪だな。
「では、そろそろケープを羽織って扉の近くで座るか寝転ぶかしてて下さい。
鍵が開いたら私が開けた人を引きつけます。
そのまま出て、まずはあんまり気にしなさそうなそこらへんの隅の方で彼らがいなくなるまで座って待って下さい。
いなくなったら足音をなるべく立てないようにして脱出して下さいね」
「待て。
それだと君達が····」
ひとしきり撫でて満足した頃、アリーが既に俺の了承を得ているかのように促してきた。
俺に見捨てろと言ってるのか?!
しかもそれは囮になるという事だぞ!
できる筈がないだろう!!
「あのひょろ長さんのおかげですぐに殺される事は無いはずです。
それよりもできるだけ早く助けを呼んでくれる方がシル様の生存率が上がります。
消毒に万全は期しましたが不衛生な環境なのは間違いないんです。
早く治癒魔法をかけないと感染症を起こす可能性だってあります」
「それなら君が····」
シルはそれでも獣人だ。
回復力は人属とは比べものにならない。
「私は自分で言うのもあれですけど、正直もう体力的に限界です。
時間と共に熱ももっと上がると思うので、むしろいつ倒れて意識がなくなるかもわかりません」
もちろんそれはわかっているが····。
「シル様も同じですし、今は動かすわけにもいきません。
下手したらこの洞窟の出入口を探して動き回る事になりますが、私達にそんな体力はありませんから」
「それはそうだが····」
ここでごねても仕方ないのはもちろん理解している。
だが男としても兄としても納得しきれないのだ。
「ルド様、今はルド様だけが頼みなんです。
とにかく助けを呼んで欲しいんです」
「····わかった」
くっ、俺の両手を冷たく冷えた手が包んで上目遣いで懇願してくるとか、妹は魔性の女の素養でもあるのか?!
レイだけ兄なんてやっぱりずるいだろう!
そうして根負けした私は扉にほど近い隅の方で目立たないように寝転がった。
あの後アリーが魘されて泣き出したりした時は余程駆け寄ろうと思った。
今までどんな時もにこにこと笑っていて、体の弱さなど気にしていないと思っていたのだ。
あんな風に悔しがるなんて思ってもみなかったし、シルが慰めていたのを離れた場所から見るのがこんなに胸を痛ませるなどと····。
やはりアリーを妹のように大事に想う気持ちが大きく芽生えているようだ。
もう俺の妹でいいと思う。
でも兄様と言ってシルにすり寄った時はレイに嫉妬した。
嫁にいく時はこの兄様が個人資産でとびっきり高級な嫁入り道具を揃えてやると密かな対抗意識を燃やして目を閉じたらいつの間にか眠っていたようだ。
「起きな!
あのクソ王子はどこに行った?!」
ガン、という音とあの耳障りな大声で目を覚ますまで。
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