107.連行
「アリアチェリーナ嬢は私達と一緒に参りましょう」
もうヤだ。
この清楚美人何言ってんの?
僕は姿勢良く立つ清楚と童顔に挟まれて椅子に座ってるんだけど、本当に勘弁して欲しい。
何で元の席に戻ったのに、またこっち来るかな。
僕の事は気にせず戻ってよ。
「あら、それは····」
「せっかく交流を持てましたもの。
私達、まだ話し足りませんの」
伯母様の言葉を遮った童顔美人、僕は十二分に事足りてるからお構い無く。
もちろんこれまで同様、清楚美人がセディナ様、童顔美人がスリアンナ様だよ。
僕はこの美人達と扇美人がそれぞれの卓に帰った後、最後に心残りが無いよう柔らかプルプルプリンを取って来て食べたんだ。
食べ終わるのを見計らったかのようにこの2人が再びこっちの卓に来たのが事の発端なんだけど····。
「ね、よろしいでしょう。
ルドルフ王子殿下もおりますのよ」
うん、余計嫌だ。
王子を引き合いに出すならドレスや装飾品に黒か金をあしらった令嬢の誰かを誘いに行って欲しい。
いや、もうマジで、本気で、心底。
もう侯爵家の円卓は誰もいないけど、公爵令嬢の中にも何人かいるじゃん。
レイチェル様とかレイチェル様とかレイチェル様とか、もうレイチェル様にしなよ。
「ふふふ、殿下でしたら他に相応しい方がたくさんいらっしゃるのではありませんこと?」
「あら、その中でも私達が今お話ししたくて、この先滅多に会えないのがあなたですのよ」
「ほら、いらして」
その通りだけど、いらしてとか言いながら僕の腕に自分の腕絡ませて立たせないでよ、童顔美人。
「さ、行きましょう」
反対側の腕も絡んでくる。
お胸の軍配は童顔美人。
なんて言ってらんない。
僕は小柄で体重も軽いから簡単に持ち上がっちゃうけど、これって連行だよ?
「では、また狩場でお会いしましょうね」
伯母様だけじゃなく、従姉様も相席の公爵一家も気の毒そうな顔だけはむけてくれてるけど、誰も助けてくれやしない。
何か子牛が市場に運ばれてく歌が頭に流れ始めたよ。
最近乳歯が抜けそうで抜けないからステーキ食べてないなあ、食べたいなあ、なんて現実逃避してる間に卓に着いちゃった。
王子、ずっと驚いた顔してこっち見てるなら助けてくれないかな。
一応三大筆頭公爵家って王家とは大なり小なり親族関係でもあったりするよね。
ちょっと血の薄い感じの従姉弟みたいなもんだよね。
「あら、本当に連れて来ちゃったの」
「可愛らしいのね」
「よく来たね。
かしこまらなくていいよ、小さなレディ」
童顔熟女と清楚熟女と格好いい熟女の順にお出迎えしてくれる。
もちろん皆様お綺麗です。
眼福、眼福。
じゃなかった!
童顔と清楚は言わずもかな、僕の両脇令嬢のお母さん。
格好いい熟女は男兄弟しかいないリュドガミド公爵だよ。
リュドガミド公爵家は彼女が当主なんだ。
「初めまして」
「初めまして。
お名前を伺っても?」
清楚熟女が形式通りに尋ねてくる。
「アリアチェリーナ=グレインビルと申しますわ」
きちんと礼を取る。
「私達の事は知ってらして?」
「もちろんでございますわ」
「なら堅苦しい挨拶はいいね。
ほら、私の隣においで。
ケーキ食べるかな」
童顔熟女の問いかけに答えれば、格好いい熟女が自分の前に置かれたケーキをそっと横にスライドする。
挨拶して相手がそれを省くのは挨拶する価値がないっていう意思表示か、それともただ面倒で省くだけか。
どっちにしてもそのケーキ、あっちに無かったやつじゃない?!
密かに気づいてたんだよ?!
ここの卓にだけバトラーがケーキ運んでたの!
「いただきますわ」
堅苦しいの省くんだから、気安くケーキ貰ってもいいよね?!
僕はいそいそと公爵の隣に腰かけ、ケーキを堪能し始める。
「ぶふっ····」
「まあ、素敵な笑顔ね、ディナ」
「ええ。
本当にケーキが好きなのね」
今笑ったのは僕の隣になってしまった王子だよ。
もうちょっとこっそり笑えないのかな。
令嬢達なんて淑女スマイルを崩さずに王子の横2つの席にそれぞれ座ったよ。
見習いなよ。
「ゆっくり食べるといいよ」
格好いい熟女が僕の頭をそっと撫でる。
あれ、この人····。
僕は思わず熟女のお顔を凝視してしまう。
とっても優しい目を向けてくれてるね。
どこか懐かしむような感じもする。
「どうかなさって?」
不思議そうな童顔熟女の声でふと我に返る。
「初対面で頭を撫でられてびっくりさせてしまったかな」
少し申し訳無さそうなお顔で手を離す。
そっか、この人は····。
僕はそっとその手を掴んで僕の頭に戻してみる。
「少し驚いただけで、嫌じゃありませんわ、リュドガミド公爵」
「····そう」
僕は微笑んでから再びケーキと向き合う。
「何だか2人の世界に入ってしまったようでしてよ、リュドガミド公爵」
「ふふ、娘がいるとこんな感じなんだと思うとついね」
童顔熟女が話しかけると僕の頭から離れた手はもう戻って来なかった。
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