76.新作ケーキ

「アリー、俺のお願い聞いて欲しいな」

「んふふー、従兄様おにいさま、可愛い。

もう1回!」

「アリー、俺のお願い聞いて」

「んふふー、従兄様、素敵。

もう1回!」

「····アリー、もうそろそろ····いや、えっと、お願い」


 後ろの義父様をチラリと見ては慌てて続けるあざと可愛い従兄様。


「んふふー、従兄様、素晴らしいです。

もう1回!」

「アリー、お願い、もうそろそろ許して欲しいな」

「えへへー、従兄様、まだまだ。

もう1回!」

「ふぐっ、アリー、お願いだからもう許してぇ」


 あらら、さすがに1時間はやりすぎたかな。

従兄様の目尻の涙は開始30分の時と違って本物の煌めきを感じるね。


 やっぱりこの角度の従兄様ってば義母様に似てて可愛らしいんだよね。

僕は何時間でもニマニマできるし、僕をお膝に乗せた義父様も圧は凄いけど怒りは無くなってきてるからきっと楽しんでるんだよ。

義父様ってば未だに義母様一筋でとっても素敵な僕の自慢のダンディパパなんだから。


「そうですね。

そろそろレイヤード兄様も従姉様おねえさまも戻って来そうですから、仕方ありませんね」

「良かったぁ、ありがとう、アリー」

「ふわぁ、そのお顔も素敵!

やっぱり····」

「お願い許して!

ほら、まだ店でも出してない新作のケーキ!

俺のお土産!

ね、一緒に食べよう!」

「うぐっ。

新作ケーキを持ち出すなんてぇ!」


 僕は甘いお菓子が大好きなんだ!

しかもお土産のケーキはあの王都でも有名店と名高い従兄様の経営するお店の、何とまだお店でも出してない新作中の新作ですか!

仕方ないからここらへんで従兄様は許してあげようかな。


「さ、お手をどうぞ、レディ。

ちょうどタイミング良く君の素敵な侍女殿が持ってきてくれたよ。

ね、ほら、何なら俺が食べさせてあげ····たいのはやまやまだけど、そこは涙を飲んで諦めるよ。

叔父上、しません。

レディを子供扱いして食べさせたりしませんから今すぐ俺の首を捻り切りそうな目はやめて下さい、ごめんなさい」


 従兄様は僕の手を取り1度ビクリと飛び上がりそうに震えた後、義父様のお膝から隣のソファへとエスコートして、再び机を挟んだ僕の前のソファに腰かける。

義母様とよく似たお顔なんだから捻り切ったりしないのに。

従兄様ってばお茶目だよね。


 従兄様の言葉の通りニーアは2つのホールケーキとケーキ用の包丁を僕の前に、紅茶を僕達3人の前に置いてくれる。


 新作のケーキはシンプルなチーズタルトとチョコレートケーキ。

でもただのケーキじゃないんだ。


「クラシックシリーズが完成したんですね」


 そう、これは春にたくさんのフルーツが盛られたケーキが並ぶ中、一見するととっても控えめな薄ピンクと黒の見た目。

ちなみにピンクはチーズタルトだよ。


「アリーに言われた通り、チーズタルトはアリリアの実とあの粉、チョコレートケーキは同じくあの粉を使って土台を作った。

緑の粉末は生クリームと混ぜて中に使って、教えてもらったグラッサージュショコラでコーティングしてとにかく食感をなめらかにしたんだ」


 そう言いながら今度は手慣れた様子で従兄様自らまずは半分に切り分けて断面を見せてくれる。

もちろん包丁はそれぞれに添えられてたやつで、チョコレートケーキ用のは従兄様が刃に手をかざしてたから魔法で少し温めたんだと思う。


 断面を見るとタルトと薄ピンクのチーズケーキの間に薄く緑の層があるね。

チョコレートケーキにはちょうど真ん中に緑のクリーム、わかりにくいけど少し間をあけて上下に黒緑のクリームがサンドされてて見た目も中身もしっとりしたイメージを受ける。


 ニーアは従兄様が8つに切り分けたケーキを僕と従兄様の前に置く。

義父様の前にケーキがないのは義父様は甘いお菓子が苦手だから。

義父様、レイヤード義兄様、バルトス義兄様の順に甘いお菓子が苦手なんだ。


「まずは見た目だけど、どうかな?

ショーケースに並ぶ時にはシンプルな春のクラシックシリーズってコンセプトに沿ってみたんだ。

春をイメージするならと思ってチーズケーキにも少し緑の粉末を使ってみたんだけど」


 僕は自分のお皿を両手で持って今度は8等分になったケーキの断面を見ていく。

僕は感想を伝えようと口を開いた····ところでお部屋のドアがガチャリと開いた。


「お兄様、社交界デビューもしていない茶会に出た事もない子供の意見なんて参考にされるとお店が潰れてしまいますわ。

貴族の女性達は華々しいデザートが好まれますのよ」


 あ、ケーキに夢中でクラウディア従姉様の事すっかり忘れてた。

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