38.事前準備
「やっと戻ってきたね。
それで、何もされなかったかい?」
うん、義父様ってば僕が戻った途端にご機嫌で嫌味の先制攻撃だ。
そんなに長く散策はしなかったはずなんだけどな。
王子のお顔が引くついてるけど、まぁいっか。
王族だからって甘やかしてばかりじゃダメだよね。
「何も無かったですよ。
それより、父様とゼストゥウェル殿下と私だけにしていただけませんか?
もちろん護衛の方も外して下さい」
「おや、私は蚊帳の外?
3人だけなんて心配だな」
「いけませんか?」
「後で話せると思った事は話してくれるかい?」
「もちろんです」
ギディアス様はあらかじめ分かっていたはずだけど、名残惜しそうに撤収する。
そんなに混ざりたがらなくてもいいのに。
僕達をそれぞれ色んな意味で心配してるっていうのもなくはないだろうけど、それよりもあれは単なる好奇心だろうね。
かくして広いお部屋には僕達3人だけになった。
ひとまず王子には身につけた魔法石の類いを外して座っている長ソファの反対側の端に置くように言うと、やっぱり上着を脱いでいた。
あ、ギディアス様の時もそうだけど、盗聴なんかを防止する為だよ。
どうでもいいけど、このソファ4人くらいがゆったり座れそうだよね。
王子はギディアス様と違ってまだまだ発展途上な伸び代のある体型だった。
レイヤード義兄様と少し似てるね。
義父様が僕達を囲むように結界を張って防音、防視、守護の付与を行う。
「それでは、私が叶えて欲しいことを今からしていただきます」
「あぁ、かまわない」
先日のバルトス義兄様と同じように、義父様がどこからか魔法誓約書を取り出す。
「これから私が話すことを秘匿するとこの魔法誓約書に署名し、真実の名で誓った後に締結の血を注いで下さい。
もし誓約を意図のあるなしに関わらず破れば、その瞬間に心臓が止まります。
念のためお伝えしますが真実の名以外を署名すれば、その時点でわかります」
「····それだけ?」
「それだけですよ?」
「····君、私が嫌い?」
「むしろ好かれる何かがありましたか?」
「···ない」
古語が読めないとボヤいてから、署名する。
あっちの世界だったら騙されて借金背負わされるタイプなんじゃないかな。
うちの家族だったら自分が読めなければ相手に読ませて内容に誤りがない事を魔法制約でもって証明させるくらいしそうだけど。
自分の命が絡んだ誓約なのに、さっきのお庭で王子として云々言ってた割りに抜けてるよね。
「ゼストゥウェル=ドルマニガ=ザルハードの名において、アリアチェリーナ=グレインビルの秘密を命をとして守る」
うん、ちゃんと祝福名が入った正式な真名みたいだね。
彼はそう言うと義父様が手渡したナイフで左手の親指を切って誓約書に血をたらす。
すると前回同様に誓約書が淡く光る。
「誓約を受け入れます」
僕も同じくナイフで切って血をたらす。
すぐに義父様が傷を癒してくれた。
誓約書の光が消えると義父様はすぐに紙を放り投げて消した。
ふふふ、これで僕の目は守られた。
どうせバレてるかもしれないのなら、バラされないようにすれば良いだけだもんね。
僕はやっと心の平安を手に入れた。
「それで、何をすれば良い?」
王子ってば前のめりに積極的だね。
僕はまずは紅茶を一口。
「今の状況を教えて下さいますか。
何も知らず精霊見えてるだろうから手伝え、では何をすれば良いのかわかりませんよ。
あの大会で私達があの場から消えてから時系列で説明して下さい。
それから、お話を伺っても何もお手伝いできないかもしれませんよ?」
「わかっている。
どのみちもう私に打つ手はないのだ」
そうして思い詰めた顔で何があったか話し始めた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます