第136話 ブーメラン
『芋王…プッ。へぇ~、コウスケがあの伝説の”芋王”だったんだな。すげぇじゃん。…プッ…頑張れよ…“芋王”ッ!プハハハ…。』
モンタは、笑いを堪えながらコウスケの膝をバシバシ叩いた。
(…モンタ。モグ太郎達は完全にお前のことを見てるぞ。)
”…芋王 木の実のマントをまといて 銀色の野に降り立つべし…”
(…また、謎の副音声が流れた…。)
副音声を聞いたモンタは、モグ太郎達の視線と自分のマントの刺繍と銀色のピクニックシートを交互に見ると、静かに震え始めた。
『オッ、オイラが“芋王”…?じょ、冗談だよな…?』
(…ブーメラン。)
…
『ハハハハ~☆君達は本当に面白いね~☆特に、さっきの副音声は最高だったよ☆』
突然、コウスケの背後から声が聞こえた。
(一応、対話してみるか…。)
コウスケは振り返ると、目線の先にいた金髪の青年に挨拶をする。
「こんにちは。どちら様でしょうか?」
金髪の青年は、つまらなそうに口を尖らせながら挨拶を返す。
『ちぇ~☆もうちょっと驚くと思ったのにな~☆ちぃ~す☆僕は、泣く子も黙る≪精霊王≫様だよ~☆今日は、このダンジョンを貰いにやって来てきたよ~☆このダンジョンに精霊樹とか世界樹があるんでしょ?君には勿体ないからさ☆ってわけで、早くちょうだい☆」
(「超直感」反応しないということは、スキルが制限されているか、大した脅威ではないか、害意が無いか、どれかだな。)
コウスケが左手中指の指輪に魔力を流すと神社の鳥居のようなオブジェクトと桜の大樹が現れた。
…箱庭「誅魂の社」…
『なに☆なに☆な~に☆まさか、僕と戦おうっていうのかい☆やめた方がいいよ☆君じゃ僕を倒せないよ☆僕の気が変わらないうちに、ダンジョンコアごと早くちょ~だい☆』
コウスケは、表情を変えずに平坦な声で答える。
「お断りします。ってわけで、早く還ってください。」
金髪の青年は、髪をかきあげてイライラした様子でコウスケを睨み付ける。
『チッ!この状況、わかんないかな~☆僕は君に全く気づかれずにここまで侵入したんだよ~☆もう詰んでんじゃん☆状況を理解しろよなぁ☆あ~あ、だから、頭の弱いヤツと話をするのは嫌だったんだ~☆もういいや、お前嫌い、死ん…じゃ…え………ッ!?』
展開した桜の大樹から花びらが舞始めた。
桜の花びらは、ゆっくりと金髪の青年の周囲を覆い始める。
(状況を理解していないのはそっちだよ。精霊なのは間違いないみたいだけど、精霊王っていうのは眉唾だな。精霊王がこんな簡単に罠にかけられるわけないし。でも、悪意のある霊体系の侵入者を防げるようにしていかないといけないことがわかった。精霊を信頼しすぎてフリーパス状態にしてしまった…。これは、単純に勉強というか教訓になったな。)
「な、なんだよッ!この花びらはッ!?触れる度に身体が溶かされていく!?僕の身体は無敵じゃないの?なんで?どうして?うわぁぁぁッ!やめろぉぉぉッ!僕に触るんじゃないッ!このッ!このッ!このぉぉぉぉぉぉぉぉぉッ!」
金髪の青年は、花びらを振り払うように両手を振り回しながら動き回った。
(騒いでいる暇があれば現状を分析して抜け出せばいいのに…。そんな動きをすると余計に花びらにあたるよ。)
「くそぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉッ!こうなったらぁぁぁぁぁぁッ!僕の精霊王化した姿を見せてやるよぉぉぉぉぉぉぉぉぉッ!」
金髪の青年の身体が盛り上がり、肥大化し始める。
(この状況で身体が大きくなる系のパワーアップをするのか…。完全に悪手だな。でかくなるスピードに溶かされていくスピードが追い付いていないぞ…。)
コウスケが溶かされていく姿を冷静に眺めていると、首にかけているペンダントから≪闇の精霊≫スピネルが顔を出した。
『ふぁ~。さっきからうるさいわね。うんッ?…あぁぁぁぁぁぁぁぁッ!あいつはッ!ピンチの時に裏切ったクソゲス元≪精霊王≫じゃないッ!うぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉッ!あいつだけは許さないぃぃぃぃぃッ!モグ太郎ッ!大、大、大至急、お姉さま達を呼んできてちょうだいッ!クロンッ!起きなさいッ!あいつが現れたわッ!ここで、確実に潰すわよッ!』
『…うん?何事じゃ?あいつ?…うんッ?…≪精霊王≫ッ!?…貴様ぁぁぁぁぁぁッ!よくも我の前にノコノコ姿を現しおったなぁぁぁぁぁぁぁッ!世界の反逆者がぁぁぁぁぁぁッ!ユキヒラは貴様を最後まで信じておったのじゃぞぉぉぉぉぉぉぉぉぉッ!貴様は何度殺しても殺し足りんッ!コウスケッ!スピネルッ!最初から全力でいくぞぉぉぉぉぉぉぉぉぉッ!はぁぁぁぁぁぁぁぁぁッ!』
(本当に精霊王だったのか…。なんだ?この二人のテンションは…一体…。…こんなに恨まれているなんて、よっぽど大切な場面で裏切ったんだろうか…。)
コウスケは、魔力や龍闘気を練りながら、クロンを構える。
…ドラゴニックオーラ全開…
…ユニークスキル「切断」発動…
「…聖剣-クロン-完全解放…」
-決戦形態-
≪エターナル・サイクロン・キャリバー≫
クロンが大剣サイズになり、施されていた装飾が更に複雑になった。
「精霊纏装-スピネル-」
≪闇衣―グリムゾン・ダークネス―≫
コウスケは生み出した闇衣の半分をクロンに纏わせ、超巨大な漆黒の死神鎌を造り出した。
-エターナル・デスサイズ・ヘル・リーパー-
漆黒の死神鎌は、視認できるほどの圧倒的なオーラを放っていた。
『アイツをギタギタに斬り裂いてやるんだからッ!』
『コウスケッ!今回は遠慮は一切無しじゃッ!何度斬っても復元するはずじゃから、粉々になっても油断せずに斬り続けるぞッ!この時のために開発した精霊殺しの毒も使うぞッ!』
(…スゴい殺意だな。いつもよりも力が漲ってくる…。でも、もう一度言うけど、とにかくスゴい殺気だ。)
『ぜぃ…ぜぃ…。…この花びらのせいで、全然、精霊王化できないッ!この木のせいかぁぁぁぁぁぁッ!ハハ…もう…いいよ……全部吹き飛んじゃえ…。』
…精霊秘術-ペイン・ダッシャー-…
元精霊王から破壊のオーラが円形状に発生し、箱庭「誅魂の社」を飲み込んで消えた。
―パリンッ!―
中指の指輪が割れて消え去った。
(破壊されたか…。鳥居とかはアダマンタイトで造ったから自信あったのに…。)
『ぜぃ…ぜぃ…。おかしいな、あのヘンテコな空間を壊しただけで終わるなんて…。想像以上に消耗してるのかな?…クロンとスピネルも出てきたところだし、今日のところは帰ってあげるよ☆―フェアリーサークル―≪雷の精霊≫-イカヅチ-出てこいッ!』
元精霊王が右手をあげて魔法陣を展開すると、太鼓を持った鬼のような精霊が現れた。
『イカヅチ☆僕はもうウチに帰るから、コイツらを足止めしておいて☆もちろん、命を削ってでもね☆』
≪雷の精霊≫は、コウスケ達をしばらく観察すると、太鼓を鳴らして龍を型どった雷を召喚した。
『おいどんは、≪精霊王≫様に従うでごわす。悪く思わないでくだせえ。』
…精霊術-雷龍招来-…
≪雷の精霊≫が雷龍を操り、
―”元”精霊王に勢いよくぶつけた。―
『ぐぎゃぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ…
『おいどんは頭がわりぃから、自分で判断出来ねぇ。だから、今まで≪精霊王≫様に従ってきた。おかしいと思うことでも従ってきた。この生き方は、これからも変えられねぇ。だから、おいどんは“新しい”≪精霊王≫様に従うッ!”前の”≪精霊王≫様、申し訳ねぇわけねぇけど、覚悟するでごわすッ!』
(召喚してすぐ裏切られたよ…。それに、申し訳ねぇわけねぇって、申し訳ないと思ってないってことだよね。…これもある意味…ブーメランか…。)
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。