第135話 謎の副音声

コウスケは、ランクエラーの農園エリアで「五穀豊穣」スキルを使いながら、土竜ドラゴン達の働きぶりを眺めていた。


(物凄い勢いで畑が耕されていくな。農業に関しては、土竜ドラゴン達は本当に優秀だ。手拭いを首に巻き麦わら帽子を被っている姿は、農家のおっさんにしか見えないけどね…。)


コウスケの頭の上にいたモンタが声を張り上げる。


『モグ太郎ぉぉぉぉぉッ!迷宮甘芋盗み食いするんじゃねぇぞ~ッ!』


モグ太郎は、汗を拭きながらモンタに向かって近づいてきた。


『そんなことしねぇわッ!親分こそ、木の実盗み食いするんじゃねぇぞッ!』


『オ、オ、オ、オイラだって、そ、そ、そんなことしねぇぜぇえ…。』


(モンタ、声が裏返ってるぞ…。)


『…盗み食いはカッコわりぃぜ。』


『……。腹が減ってたんじゃいッ!!!』


『やっぱり食ったんかいッ!』


(ツッコミの間が完璧だな。…というか、あんなに嫌がっていたけど、モグ太郎という名前は受け入れたみたいだな。同じ土竜ドラゴン達にさえモグ太郎って呼ばれてるから、もう巻き返しはできないと観念したか。…モグ太郎…、切ない目でこっちを見るんじゃない。)


コウスケは、巨大なピクニックシートを広げ、次元収納からきび団子と湯飲みを取り出して、モグ太郎を含めた土竜ドラゴン達に手招きをした。


手招きをすると、作業をしていた土竜ドラゴン達は手を休め、順番にピクニックシートの上に座り始めた。


「俺のいた世界には、桃太郎っていう英雄がたった3人の配下と一緒に多人数の悪党達を懲らしめて、村を平和にしたというおとぎ話があるんだ。その話のなかで、配下を強くしたといわれる“きび団子”がこれだよ。まあ、本当に強くなる訳じゃないけど疲れが取れるから、食べてみて。」


『英雄”モグタロウ“…、”キビダンゴウ”…。』


モグ太郎は、巨大なきび団子を手に取り、まじまじと観察した後に、勢いよく口に放り込んだ。


『な、なんじゃこりゃぁぁぁぁぁぁッ!う、うめぇし、ち、力が漲ってくるぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅッ!ガツンとくる甘さはねぇけど、優しい大地の甘さがゆっくりと口一杯に広がってくる…。それに、このモチモチした口のなかを楽しませてくれる食感…。こ、これはぁぁぁぁぁぁッ!しゅ、祝福の受けた土地でしか栽培できない土竜ドラゴンのソウルフード“もちきび”が使われているぞぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉッ!しかも、“もちきび”の甘さや風味が最大限引き立つようにあえて砂糖を抑えて作られているッ!その砂糖も、きび砂糖と和三盆糖を絶妙な配合で調合されている。こ、これが配下を極限まで強化したという伝説のブーストアイテムの正体…!?ま、まさか…ッ!こ、これこそまさに、土竜ドラゴン族に伝わる”騎備団豪”ではッ?』


モンタもコウスケの頭の上から銀色のピクニックシートの上に降りて、きび団子を頬張り始めた。


『おおぉ~。オイラが見つけた”もちきび”で作った団子か。うんッ!美味いッ!このいつまでも飽きのこない素朴で自然な甘味がなんともいえねぇな。おッ!こっちの団子には迷宮甘芋が入ってるぞぉッ!おッ!こっちの団子にはあんこが入ってるぞぉぉぉッ!おッ!こっちの団子にはフルーツあんが入ってるぞぉぉぉぉぉッ!…いくらでも食べられる、食べられるぜぇぇぇッ!食べれば食べるほど、口のなかで“もちきび”の優しい風味が広がって、オイラを次のきび団子に誘導してきやがるッ!…はッ!!!これが狙いかぁぁぁぁぁぁ!?最初にガツンと誘い込むんじゃなくて、少しずつ逃げられないようにするなんて…やるじゃねぇかッ!受けて立つ、受けて立ってやるぜぇぇぇぇぇッ!おらぁッ!モグ…モグ…モグ…モグ………』


”…”芋王”様が現れる時、我が土竜ドラゴン族は今だかつて無い繁栄が約束されるだろう…”


(…副音声みたいな謎の声が流れた…。)


土竜ドラゴン達は、”きび団子”を大切そうに口に運び、ゆっくり咀嚼すると次々に平伏し始めた。


『『『『『”芋王”様ッ!』』』』』


(芋王って、なに?)

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