第37話 ダミアン

…ダンジョンマスター就任から半年後…


…ランクエラー50層マスタールーム…


「コウスケ様ぁ!!!な、なんですか!この食べ物は!?…と、“トンカツ”にこんな進化先が隠されていたなんて!!…“トンカツ”を少量の甘辛い汁で煮ていることはわかります。サクサクの“トンカツ”を煮るなんてと思ってしまいましたが、若干のサクサク感を残すギリギリのタイミングでコカトリスクイーンの卵でとじてあり、“トンカツ”の良さを殺すことなく新しい領域にその美味しさを押し上げています。それ以上にスゴいのは、この甘辛い汁です!なんですか!この調味料は!!!魚醤に味が似ていますが、臭みがまったくありません。臭みがないのに、上品なコクと風味があり、肉料理にも抜群の相性を持っています。そして、“トンカツ”の下に敷いてある白い穀物が良い仕事をしています。“トンカツ”の引き立て役と思わせておいて、実はこの穀物が主役だった…いや、すべてがこの穀物を引き立てるために存在しているかのよう…。この一杯に、途方もない技術や労力が詰め込まれています!!!」


(ユニ、すでに“トンカツ”を食べてるんだから、カツ丼でそんなに驚かなくてもいいでしょ…)


『な、な、なんだッ…。この狐色の粉がふられた白いモチモチした食べ物は!?この狐色の粉は木の実をすりつぶしたのか…いや、木の実はすりつぶすと油分でペースト状になるはず………っということは、麦のような穀物をすりつぶしたのか………いやッ!豆だ!!豆を乾燥させてすりつぶしてやがる!でも、オイラ、こんな豆知らねぇ!上品なコクがあり、木の実のような香ばしさもある。いったいどこにこんな豆があったんだ!?それに、この白いモチモチは噛めば噛むほど甘くなる…。このモチモチは穀物か?ジュゼ王国の東に、小麦粉を水で薄めてドロドロになるまで煮詰めて作る主食があるが、あれはそこまで粘り気がねぇし、甘味もねぇ!!!これは革命だ!味の大革命だ!!!!!!』


(モンタ、この前、片栗粉で作った“なんちゃってワラビ餅”を黒蜜で食べただろう…。食べながら部屋の中をぐるぐる走るほどじゃないでしょ…。)


『コウスケぇ!!!美しく透き通ったこの酒はなんだ!!こんなに透き通った美しい酒は見たことがない!!そして、この華やかな香りは一体…果実やナッツ類が入っておるのか!?いやッ…口に含むと「旨味」「酸味」「甘み」が上手く調和されておる。これは、余計な混ぜ物を入れたのではなく、この酒の本来の味じゃ!!素材を愛し、素材の声を聞き、研き上げなければこの味には到達せまい!!これはとんでもないシロモノじゃぞ!!間違いなく神々の好みに合った豊穣の酒じゃ!!扱いにはくれぐれも注意せねばならんぞ!!』


(クロン、それ料理酒だから。勝手に冷蔵庫から持ってくるなよ。もう少ししたら、ちゃんとしたの飲ませるから…。)


「あ、うん。」


コウスケは、ダンジョンマスターとしての力を最大限発揮し、米と大豆の安定生産に成功していた。


さらに、未完成ながら醤油や味噌等の大豆製品や日本酒等の米製品の再現も着々と進んでいた。


…………


平常時のダンジョンの管理を任せているダミーコアのダミアンから報告があった。ダミーコアは「ダンジョンカタログ」からMP10万で召喚した便利アイテムで、設定をしておけば自動でダンジョンの管理をしてくれるコンピューターのようなもので、マスタールームに設置している。しかも、AIのように学習してくれるため、日々任せられることが多くなってきており、異常があると念話で報告してくれたりもする。


≪マスター。ダンジョン連合の使者と名乗る者がコンタクトをとってきましたが、どのような残虐な方法で撃退したほうがよろしいですか?≫


(ダミアンは、どんどん過激になっていくな。自我を持つことで臨機応変に対応できるのは良いことだけど、その反面、暴走するリスクもあるから、気を付けないとな。)


「ダミアン、撃退は相手が敵対行動をとってからだよ。敵対行動をとっていない場合は、あらかじめ設定しておいた作戦でお願いね。」


≪失礼しました。あまりにもマスターに対する礼儀に欠けていたため、敵対行動に準ずる行為と認識してしまいました。それでは、事前の作戦どおり、応接階層にて交渉役の眷属に対応させましょう。彼もマスターから名付けをしてもらいたくて張り切っていますので、ちょうど良いでしょう。≫


(そういう設定なのかもしれないから仕方がないけど、召喚した眷属はみんな忠誠心が高すぎて、やり過ぎてしまう傾向があるんだよな。)

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