第47話 読み

 8ターン目。


 ユウは弾丸とワイルドカードの効果による軽減不能ダメージで攻め立てる。

 その間に、カンイチは斧を振りかぶって一撃、防御ができない相手にダメージを与える。

 結果として、8ターン目は互いに同程度のライフを削り合う展開となった。


 形勢こそ動かなかったが、ユウとカンイチの決闘は佳境へと差し掛かりつつあった。

 カンイチは斧を両手に構えて自然体に立ち、相手を見つめている。

対するユウは、二挺の銃を手に、不思議な力で宙に浮かび瘴気を放つ匣を保持している。その瞳は明確な敵意に歪み、相手を睨みつけていた。

ここまで有利に決闘を進めてきたユウだったが、先の7ターン目で残りライフ量を逆転され、8ターン目でも、それを維持されている。平静ではいられないのも、ある意味当然なのかもしれなかった。


 9ターン目。


 決闘では、準備フェイズの間に、このターン使用する予定のカードをセットする。

この時点では、相手が何枚のカードをセットしたのか、セットしたカードが何なのかを知ることはできない。戦闘前フェイズに互いが何枚のカードをどの場所にセットしたのかが明らかになる、ただしセットされたカードが何なのかは分からない。そして戦闘フェイズに初めて、セットしたカードが開示され、実際に技を振るうことになる。


つまり、準備フェイズの間に、相手の行動を知る方法は存在しない。原則的には。

 しかし、情報の確度を一段階落とし、推測することはできる。“読み”と呼ばれる技法だ。

 カンイチは大会の決勝で戦った熟練の鎌使いリカを思い出す。

 鎌使いは相手をよく観察していた。そこに読みのヒントが隠されているからだ。

 今、カンイチもユウを観察していた。

窺い知ることができたのは、焦り、ある種の開き直り、そして、傲り。

そこから導き出されるのは、罠の気配だ。

 ここまでの決闘で、ある程度相手の手の内は分かっている。

 ちびっ子が罠を張ったというのなら、その仕掛けを推測することも可能なはずだ。

 カンイチはしばし悩んだ末に、カードを一枚だけセットした。


『オープン』

『デュエル!』


 ユウがセットしていたカードは3枚。

同じ枚数をセットしていたターンも多かったが、今回は少し様子が違う。

これまでは1~3拍目にセットされていたカードたちが、今回は1,2、4と一拍空けて配置されていた。

カンイチはすぐにその配置の意図を察知した。防御だ。

ユウは大量の手札を使用して手数で攻めるタイプ。強力な反面、攻撃と防御を同じタイミングで行うことはできないため、守りが手薄になる。ここまではそこを突かれて劣勢になっていた。

ならば、相手が攻撃をしてきそうな場所でだけ、防御を選択しておけばいい。


 1拍目、ユウの銃撃が襲う。1点のダメージ。

 2拍目、ユウは再度銃撃、対するカンイチは斧を構えて、力を溜め始める。その様子を見て、ユウの口角が上がった。

 そして、3拍目。やはりユウは防御を選択していた。

 しかし、カンイチは斧を構えて、力を溜めたまま。攻撃は飛んでこない。

 呆気にとられるユウを尻目に、決闘は4拍目へ移る。

 ユウはセットしたカードの定めの通りに道具カードを展開、銃のオプションパーツを換装し、ワイルドカード≪オモチャ匣(パンドラボックス)≫が誘発。あふれ出した瘴気流がカンイチへと伸びていく。

 一方のカンイチは、対戦相手に向かって走り出し、溜めていた力を開放した。

 瘴気がダメージを与えるが、それくらいでは止まらない。

 一拍分後ろへずらされたために、防御は意味をなさなかった。

 二拍分の間溜めた力が強力なインパクトとなって、ユウを打ち砕く。

ごっそりとライフを削り取り、ユウのデッキは残りほんの僅か。

 攻撃のタイミングを読み切れなかったユウと、防御のタイミングを読み切ったカンイチ。その差がこの一撃に現れていた。


「なんで、なんでっ!」


 ユウは地団太を踏んだ。

 形勢は大きくカンイチ有利に傾いた。もはや勝勢と言っても過言ではないくらいに。


「負けてるのに、どうしてこんなに楽しいんだよ!」


 ユウの口から出たのは態度とは裏腹な言葉。

 いや、これが本当の意味での悔しさなのかもしれない。


「それは、お互いに負けたくないって思っているから楽しいんだよ。……お兄ちゃんも最近知ったんだ」


 決闘は二人の会話を待ってはくれない。

 無機質な機械音声が、次のターンの開始を告げる。


 10ターン目。

 ターン開始時のドローで、ユウのデッキ、つまり残りライフは残り一枚。

次のターンを迎えた瞬間に敗北が決定してしまう。

つまり、これが正真正銘のラストターン。


 ユウは手札全てをセットした。

 すべてのダメージが通れば、あるいはカンイチを打ち破ることができるかもしれない物量だ。

 しかし、それはユウの勝利を意味するものではなかった。


『オープン』

『デュエル!』


 銃弾をその身で受けながら、カンイチは斧を構える。

この決闘の最中に、幾度となく見せた姿勢。

 すべての攻撃を受けることができないならば、その前に相手を仕留めてしまえばいい。

 カンイチは力を溜め、防御の余裕を失ったユウを両断した。

 過剰なダメージの反動で、ユウは決闘領域の外へと吹き飛んでいく。

 その横顔はどこか満足げに見えた。

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