第14話 布教のために②
貫一はヴィヴと面会したその足で、箕のマンションへと向かっていた。
ここ一週間ほどの付き合いで箕が夜行性だということはわかっている。
「昼間にあの状態だったら、普通の依頼人はほとんど来れない気がするんだよな。お金はほとんど取らないって言ってたし、どうやって生活してるんだろう」
道すがら益体もないことを考えながら、インターホンを鳴らす。
目的は≪ADGs≫についてより詳しく教えてもらうためだ。
箕を頼りたくはなかったが、こと≪ADGs≫に関することなら、彼女に相談するのが一番早いと考えた結果であった。
加えて、決闘をチラつかせれば「面倒だ」とは言わないだろう、という打算がカンイチの中にあった。
そんなわけもあって、貫一は箕の部屋で開口一番にこう切り出した。
「このゲームってどこが面白いんですかね?」
「それはどういう意味だい? 私に喧嘩を売りたいのかな?」
しかし、言葉のチョイスを誤ったことで機嫌を損ねてしまう。
箕は『相手になる』とばかりに、虚空に向かってシャドーパンチを繰り出している。
「すいません、そういうつもりじゃなかったんです。今、布教に苦戦してて」
「布教か。確かに、前に声を掛けたという後輩女子はまだ現れてないからねぇ」
「はい。それで今は、改めて布教するための手立てを探しているんです。前はヴィヴさんにもお話を聞かせてもらいました」
「へぇ……そうなのかい。よくOKしてもらえたねぇ。あの子もああ見えて結構忙しいはずなんだけど」
「ええ……、その……ちょこっと対価を差し上げまして」
「対価ねぇ……。決闘とか? いや、それだけじゃあちょっと気前が良すぎるか」
「流石ですね! 探偵って感じです」
「よしたまえ、これは、ただあの子とはちょっと付き合いが長いだけだよ。それで本当は何を対価にしたんだい」
「それは、箕さんの……あっ!」
「ほほう? 私の……何だい?」
「箕さんの……毎日晩酌をしている話をちょこっとしゃべっちゃったかな……みたいな……」
「…………」
「箕さんの秘密を教えて欲しいと言われまして……すいませんでした」
無言になってしまった箕。彼女が発する圧を貫一は確かに感じていた。
冷や汗をかきながら、お供え物よろしく、エナドリを持ってくる。
箕は無言のまま、それを一気にあおった。
「はぁ……。全く君というやつは、馬鹿正直というか……。黙っていればいいじゃないか」
高い音を立ててエナドリの缶がテーブルに突き立てられた。
びくんとカンイチが震える。
箕は深いため息をついて顔を上げた。
「しかし、そういうところも君の美点なのかもしれないね」
「箕さん……許してくれるんですか」
「で、私に聞きたいのは決闘の面白さだったかな? ちょうどいいから向こうで教えよう。ログインしたまえ」
「マジですか!? ありがとうございます!」
どういう風の吹き回しなのか、貫一には分からなかったが、相談にも乗ってくれるらしい。
早々に自分のヘッドセットを被ってしまった箕の後を追うように、貫一は急いで≪ADGs≫へとログインした。
所変わって、≪ADGs≫内、長月探偵事務所の畳の間。
箕は実際に決闘を行いながら、話をするつもりのようだ。
「来たね。それじゃあ早速始めようか」
「ありがとうございます」
「そんなにかしこまる必要はないさ。助手クンからのたってのお願いだ。これくらいお安い御用さ」
箕は笑顔で答えた。いつも決闘を始める前に見せる、獲物を狙う肉食獣のような笑み。
「もしかして怒ってます?」
「全然、全く、これっぽちも」
依然として、箕は笑っている。
それを見て、なぜだかカンイチは背中に冷や汗をかいていた。
「ちなみにだけど、今日はスパルタで行くからね。キッチリついてきてもらうよ」
「やっぱり怒ってる……」
「何か言ったかな?」
「いいえ。言ってません!」
「……まぁいいさ。まずは講義からだ。私が思うに、決闘の面白さは四点。つまり――」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます