第89話 ありがとうとさようなら
強烈なビーム攻撃をシールドと強い意志で踏ん張り耐え抜いている。
だが、さすがは晃偉がドラガンゼイドの主砲というだけあり、威力は既存の兵器とは比べものにならない。
防いでいる彩花の腕は一部が裂け、激しい出血が見られる。足にも負担がかかり、特に強く力んでいた箇所がひび割れる。
彩花がギリギリ作り出したわずかな生存領域の外側は人体など跡形も残らない死地。これではセントラルコアまではたどり着けない。
加えていつ彩花が押し切られても不思議ではない。ドラガンゼイドがまだ圧倒的に有利だ。
さらにユリの花が咲き乱れる。全方向から彩花を消し炭にしようと狙っているのが丸わかりの咲き方で、花弁が赤黒く発光する。
百合花と樹が破壊に動こうとするが、数が多すぎる。二人ですべての破壊は到底不可能だった。
窮地に陥る三人。
その様子を、晃偉は遠くから見ていた。俯き、心の内に広がる葛藤と必死に戦っている。
優衣と過ごした楽しかった日々が繰り返し思い出される。
初めてパパと呼んでくれた日。愛する妻と公園でお弁当を広げたお出かけ。新品のランドセルを輝く笑顔で自慢してくれたあの日。ワルキューレとして戦うとアサルトを初めて握ったあの瞬間。
すべてが忘れられない思い出。手放したくない優衣の記憶。
そして、記憶と同時に思い返される優衣からの悲痛なメッセージ。
これらを天秤に乗せ、晃偉が目尻に涙を浮かべた。
アイリーンからパソコンを借り、懐からUSBメモリを取り出して接続する。
「博士?」
「……緊急用プログラムDGS05を起動。起動パスワードは、KIBOU。システム権限者城島晃偉。認識コード02248577Ζ」
『認証されました。これより先の操作は取り消しが不可能です。本当によろしいですか?』
「……認証する……ッ! ドラガンゼイドと衛星のデータリンクをカット。シャットダウンと衛星の自爆プロトコルを開始……っ」
『承認。シャットダウンを開始します。衛星の自爆装置が作動しました』
外部からのアクセスが不可能になった際、衛星通信を介して命令を送ることができる緊急用コマンド。暴走状態でもこの回線だけは分けて作ったためにこのような事態でも起動する。
それで発動させたのは、動作の補助を行っていた衛星との接続を遮断し、その衛星を自爆させるというもの。これで、ドラガンゼイドのシステムは大幅に制限され、自動的に衛星と再接続されることはない。
この操作で、主に攻撃に関するシステムは大半がまともに動かなくなるはずだった。
その目論見通り、ユリの花が次々に消滅していく。ビーム攻撃も大幅に弱体化し、好機とみた彩花が一気に押し返した。
リリカルパワーによる斬撃がビーム発射装置を破壊する。
怯んだドラガンゼイドの足元についにたどり着いた。
駆け上がりながら、百合花と樹がアサルトをぶつける。
「「コネクト!!」」
黄金の輝きがアサルトに満ちる。
過去最大の威力を内包した百合花のアサルトに、ドラガンゼイドが機械でありながら恐怖の感情を抱く。
停止していたシステムを無理やり稼働させ、全身のマシンガンで迎撃を仕掛けてきた。
人体を破壊するには充分な威力の弾丸が次々放たれる体を、樹が先行して駆け上った。
マシンガンを次々に破壊し、百合花が走り抜けることができる道を形成する。
そして、胸部にある三つのマシンガンを見つけた。素早い斬撃で粉々に破壊し、アサルトを強く握りしめる。
エネルギーを伴う斬撃を飛ばし、空中にリリカルパワーを設置して強く踏み込み突貫した。本気でアサルトを叩きつける。
胸部装甲が砕け、中から赤い球体が出てきた。その中央からは少女のような形をした金属が生えてきている。
セントラルコアを見つけた。これを破壊すればドラガンゼイドは連鎖的に爆発を起こす。
先ほどの攻撃でアサルトを砕いた樹が落ちていく。入れ違いで百合花が胸部まで駆け上がってきた。
「っ! これは……!」
「百合花! トドメを!」
「……うんッ!」
少女のような金属を見たときに迷いが生じるが、アサルトを握る手に力を込めた。
これ以上苦しまなくていいように。安らかに眠りにつけるように。
目を閉じ、祈りを捧げて大きく見開いた。刺突の構えで鋭く突き出す。
アサルトの先端が心臓に当たる部分を貫き、その奥のセントラルコアに深々と突き刺さった。
少女型の金属を蹴らないように気をつけ、コアを蹴って反動で離脱する。
落ちていく中、百合花は目を見開いた。涙が宙に置いていかれる。
セントラルコアを破壊されたことで、ドラガンゼイドの全身に赤い光が迸った。
全身を巡る血管のように光が広がっていき、過重に耐えきれなくなった翼が崩壊した。
体の至る所で爆発が起きる。少しずつ全身が砕けていく。
そして、百合花と樹の二人が安全な場所まで避難するのを待っていたかのように。
ドラガンゼイドは、集まってきたホロゥたちを巻き込むようにして最後の大爆発を起こしたのだった。飛び散った破片が富士市に出現した渦をすべて破壊する。
本来の使命を最期になって取り戻したドラガンゼイドは、富士市のホロゥをすべて倒して爆炎の中へ消えていくのだった。
落ちていくあの瞬間、百合花は信じられないものを見ていた。
ただの金属塊だと思っていた少女型の金属。
その目が薄らと開かれ、潤いのある瞳があるように見えたのだ。口元が小さく動いていた。
「ありがとう」。
少なくとも、百合花は彼女がそう言ったように思った。
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