第76話 目覚める機龍
彩花たちの前で起動する巨大な金属のドラゴン。
イズモ機関が開発した最強の対ホロゥ決戦兵器。それが、このドラガンゼイドだ。
あらゆるホロゥを殺せるようにする。そのためだけに作りだされたこの兵器はとにかく強力な武装と高い耐久性能を誇っていた。
晃偉が両手を広げ得意げに喋っている。まるで、ドラガンゼイドを崇めているかのようだ。
「これが我々人類の希望となるのだ! このドラガンゼイドさえあれば、たとえ禍神だろうと容易く殺すことができる! もう、優衣やシグルーン、哀れなエインへリアルのような少女たちが犠牲になることはない!」
興奮状態の晃偉とは逆に、彩花と彩葉は不安を感じていた。
本当にこのようなものを制御できるのか心配だった。
「叔父さん。これ、本当に大丈夫なんだよね?」
「彩花くんの心配はごもっとも! これが大丈夫だという証拠を今から披露しよう! HL-425-4Cを解き放て!」
そのような指示が出ると、サイレンが鳴り南西の扉がゆっくりと開く。
扉が半分ほどまで開いた辺りで扉は壊される。繋がっていた特殊牢獄からは大型のライオン型ホロゥが飛びだしてきた。
ドラガンゼイドとホロゥが向き合う。
ホロゥは姿勢を低くし、威嚇の唸り声を発している。
ホロゥの背面で不自然に突風が巻き起こった。その風圧を利用してホロゥが一気に加速する。
勢いよくドラガンゼイドの足に噛みつくが、ホロゥの牙が折れるだけに終わる。
噛みつかれた瞬間、ドラガンゼイドも動いておりホロゥの両前足を掴んだ。左右に開かせ、自らは口を開く。
必死に暴れるホロゥ。
開かれたドラガンゼイドの口から赤い光が漏れ始めた。体も端々が同じように発光している。
次の瞬間、ドラガンゼイドは口から赤いエネルギービームを放射した。
あまりの光量に彩花たちが目を覆う。
口に直接注がれ、喉を貫通するようにビームの放射を受けたホロゥは一瞬で絶命した。ビームの熱量で顔が融解を始める。
ホロゥの顔がほとんど溶けた頃、ようやくビーム攻撃が停止した。
消滅していくホロゥを見下ろし、彩葉が震える。
「なにあの威力……」
「ふははははは! これがAS-24バスタードブレスキャノンの威力ですよ! この他にも中距離クラスター弾頭! 対空自律制御戦闘ドローン! 牙の代わりに高出力ドリル! 両手には超回転ノコギリを搭載し、全身に取り付けた高火力マシンガンと背面のテールドリルにより全方位どこから来ようと確実な死をくれてやることが可能になっている!」
小型から超大型まであらゆるサイズに適した装備を有するドラガンゼイドはまさに最強。
ただ、そんなドラガンゼイドにも大きな弱点は存在していた。
データの各種チェックを行っていた研究員の男性が苦い顔で告げる。
「出力53パーセントで緊急停止プログラムが働きました。エネルギー問題は課題だと思われます」
「ああ分かっている。でも、そちらも佐藤さんの班が担当するプロジェクトが上手くいけば解決です」
ドラガンゼイドは連続戦闘時間があまり長くない。
しかも、ブレスキャノンを一発撃つとエネルギー不足で緊急停止する欠点を抱えていた。これでは到底禍神には及ばない。
現在そのエネルギー問題解決のために、別の班がホロゥを動かしているエネルギーの解析を進めていた。その間に晃偉たちの班が兵器の稼働実験を行っている。
だが、彩花が聞きたかったのはそういうことではなかった。
(ホロゥのエネルギーなんか使って大丈夫なの? もし、こんなものが暴走なんかしたら……)
タイラント種ホロゥでも倒すことはできず、かといってワルキューレが戦おうにもアサルトでは歯が立たないことは容易に想像できる。
杏華が使っていた超加速荷電粒子砲なら可能性はあるかもしれないが、それでもダメージは微々たるものだろう。反撃にブレスキャノンをもらって終わりだ。
イズモ機関の技術を信じることにはするが、どうにも不安は拭えなかった。
ドラガンゼイドの目が不気味に明滅している。
そして、その輝きに引き寄せられる存在がいた。
施設に鳴り響くヘイムダルの角笛。機械音声が警告を発する。
『ホロゥ出現。エインへリアルはただちに戦闘準備を。出現予想区域は駿河湾周辺。当施設と街に被害が出る前に速やかに排除せよ』
「ホロゥ!」
「ふんっ。のこのこと出てきましたか。面白いですね」
晃偉の電話に着信がある。
通話に出た彼の顔が段々と喜びのものへ変わっていった。
「ちょうどいい! 連中まとめてドラガンゼイドの市街戦演習の餌食にしてやりましょう! 優衣、やれるか?」
『不安だけどやるよ! 任せて!』
ドラガンゼイドに謎のチューブが繋がれる。
彩花も彩葉もホロゥのエネルギー解析が終わったのだと理解した。今はその複製エネルギーが流し込まれている段階なのだと。
ドラガンゼイドがどこか恐ろしい空気を身に纏っていく。
不安を隠しきれないまま、彩花はその様子をじっと眺めることしかできなかった。
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