第74話 秘密の計画

 彩花と彩葉の二人は今、静岡県の富士市にいた。

 数年前に起きたホロゥによる大規模攻撃を受け、壊滅的な被害を出して東海道エリアを放棄する駿河撤退戦によって一度は放棄されたこの町だが、その二ヶ月後、百合ヶ咲学園と学園都市甲府の甲州桃ノ木学園の合同部隊によって奪還に成功している。そのため、一度は放棄されたにも関わらず奪還が早かったため都市機能の致命的な喪失には至っておらず、東海道一帯の奪還のための前線拠点としての役割を持つ町として機能していた。

 そんな町に二人がどうしているのかというと、もちろん望からの情報を元に調べを進めるうちにこの富士市にたどり着いたからだ。

 彩花が焼きそばを啜りながら、近くにそびえる愛鷹山を睨む。


「あそこに研究所がね。そうは見えないのに」


 城ヶ崎家で見つけた資料によると、愛鷹山にもイズモ機関の研究施設があると表記があり、こうしてやって来た。

 これまでホロゥによる襲撃があったイズモ機関の施設は、何か大型の設備を備える開発ラボが併設された施設のみ。日本でその条件に合致する場所はもうこの愛鷹山ラボと、完全復旧を目指す出雲ラボの二カ所だけだった。

 世界中にもラボは多くあるが、どうしてこの愛鷹山ラボが襲われると判断したかというと、それはアイリーンが送ってきた情報を見たからだった。


「でも、ほんとアイリーンもすごいよね。一応国連の機関だってのにイズモ機関のデータベースにアクセスしちゃうんだもの」

「アサルトバカだと思っていたけど、割と全方面何でもこなせるのね」


 そう言いつつ、改めて送られてきたデータを見る。


「世界中のラボから日本に向けて巨大な金属部品が出荷されてる。しかも、出荷元は全てホロゥの襲撃を受けた施設。ホロゥの狙いは絶対にこのナニカね」

「例の【Project・Drake】と何か関係があるのかな?」

「そうでしょうね。さっ、何を企んでいるか突き止めないと」


 容器をゴミ箱に入れて二人が席を立った。

 愛鷹山に向けて移動しようと通りに出ると、背後から声が掛けられる。


「おや彩花くんに彩葉くん。富士にいるなんてどうしたんだい?」


 二人を呼ぶ声に反応して振り向いた。

 白衣を纏い、眼鏡をかけた若い男。ボサボサの長髪を雑に纏め、コンビニの袋を下げている。

 その人物を彩花も彩葉もよく知っていた。


「あ、久しぶりです!」

「珍しいね。晃偉叔父さんが太陽が出てるのに外にいるなんて」


 二人の母の弟。つまり、彩花たちにとって叔父にあたるこの男性の名は城島晃偉。イズモ機関に属する研究員だった。

 お盆や年末などたまに帰ってくる晃偉と遊ぶことが二人の幼少期の楽しみで、慣れ親しんだ仲だった。

 晃偉がコンビニの袋からちょっと高めのカップラーメンを取り出して笑う。


「このカップラーメンは向こうのコンビニにしか売ってなくてね。なに、ちょっとした前祝いさ」

「前祝い?」

「ああ。私が主任研究員として動いていたプロジェクトがもうすぐ完成なんだよ。つい先日すべてのパーツが揃ったところさ」


 晃偉が発した言葉に彩花が反応した。

 パーツが揃った、など、もしかするとと彩花の頭の中で例の計画と晃偉が繋がる。


「ねぇ叔父さん。それ、どんなプロジェクトなの?」

「あー、詳しくは話せないんだが、これが上手くいけばもうワルキューレもエインへリアルも必要なくなるんだ。人類のためと無垢な少女たちが体を改造されることもなくなり、命を散らして血に沈む少女たちはアサルトではなくペンを握り、血ではなく汗を流すようになる。本来あるべきはずの世界が戻ってくるんだよ」


 晃偉はイズモ機関の研究員だが、その考え方はイズモ機関よりも城ヶ崎家寄りだ。エインへリアルの改造手術には強い忌避感を抱いており、晃偉がたまに話す研究内容は人道的で人体実験はまったく行っていない。

 だからこそ、二人は晃偉がイズモ機関の研究員でも懐いているのだ。

 そんな晃偉が目を輝かせて話す、ワルキューレたちが戦わなくて済むようになるプロジェクト。

 一瞬だけ【Project・Drake】との繋がりが薄まるが、それでももしかするとと彩花がさらに食い込む。


「名前だけでも教えてよ。誰にも話したりしないよ」

「そう、だね。彩花くんたちだし話してもいいだろう。移動しながら詳しく話すよ」


 晃偉が車の鍵を開けて二人を招き入れる。

 彩花たちも頷き、後部座席に乗り込んだ。晃偉の運転で愛鷹山への道を走る。

 道中、信号に引っかかったタイミングで晃偉が口を開いた。


「そうそう私のプロジェクトだがね、内容は至ってシンプルさ。対ホロゥ決戦兵器の製造だよ」

「――ッ!」

「……その兵器、名前はあるの?」

「名前? もちろんあるとも。対ホロゥ決戦兵器……ドラガンゼイド。そして、このドラガンゼイドの完成が、私たちが進める【Project・Drake】の達成目標さ」


 彩花たちが息を呑んだ。

 【Project・Drake】の詳細が明らかとなり、晃偉が関わっていることが判明する。

 同時にファーヴニルとイズモ機関の関係は途切れ、あのホロゥが自然発生した個体だという可能性が非常に高まるが、まだ断定はできない。実物を見ないと判断できなかった。

 それに、そのドラガンゼイドという兵器についても気になる。

 調べたいと思い、そして向こうから招き入れてくれるのだから好都合だ。

 人類の脅威になり得ないか、しっかりと判断しようと固く誓う。

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