第73話 呪いの正体
翌日の昼休み、百合花は一人食堂を訪れていた。
百合花を呼びだした人物であるアイリーンは、これ見よがしに食券機の列の近くで唸っていた。手持ちがないのにポーズだけは立派である。
百合花は食券機の列に並び、自分の番の前で周囲の生徒に事情を話してアイリーンを招き入れた。
「いやー、ほんとにごめんね百合花ちゃん!」
「貸しですからね。今度、アサルトの調整が必要になったときに融通をきかせてもらいますから」
「もちもち! あ、私これにしていい?」
「日替わりBセット? ハンバーグ定食とかにしなくていいんですか?」
「奢ってもらうのにそんな高いもの頼めないよ! これが彩花ならハンバーグ定食にお刺身とデザートのプリンも付けたんだけどね」
図々しいのやら謙虚なのやら分からないアイリーンに苦笑いして食券を買う。
おばちゃんに券を渡してしばらくすると、日替わりBセットが運ばれてきた。今日のメニューはご飯に味噌汁、サラダにサバの味噌煮が付いて350円だ。
満面の笑みで受け取り席まで運んだアイリーンが箸を掴んで素早くサバと米を口に放り込む。
「んまぁーい! ご飯が進む~!」
「これからはきちんと食べてくださいね。倒れちゃう前に」
「分かってるけどさ~。それが中々難しい」
「難しい要素あります?」
苦笑いで百合花が返している間に、よっぽどお腹が空いていたのかアイリーンは大半を完食していた。
米一粒も残さずかき込み、味噌汁で口内を流して一息つく。
「ふぃ~。ごちそうさまでした」
「さすが早いですね」
「まぁね~。……さて、と」
気持ちを切り替えるように一呼吸挟み、アイリーンはパソコンを取り出した。
百合花もアイリーンの話に身構える。答え合わせ、というからにはリリカルバーストについてのことだろうと薄々勘づいている。
「じゃあ、単刀直入に言おうか。百合花ちゃんのそのリリカルバースト……禍神の力だよね?」
「……さすがですね。分かりますか」
本当に答えを当てられたことにやはり驚く。
アイリーンは困ったような顔をしてパソコンの画面にいくつかのデータを表示させていく。
「百合花ちゃんの戦闘データを取らせてもらったよ。アサルトに記録されてたものもね。で、これがそのリリカルパワーの波長を示すデータ」
「この大きく振れているのが暴走状態の時ですか」
「そう。……で、次にこれが禍神の――夜叉のエネルギーのデータ。照合したときはさすがの私もビックリしたわよ」
「一致率86%。ここからワルキューレ独特の波長を抜けば一致率97%、ですからね」
アイリーンがパソコンと百合花を交互に見る。
「恐らくだけど、百合花ちゃんの体内には夜叉の一部があるんじゃないかな? それがリリカルバーストを引き起こしている」
「……正解ですよ」
左の脇腹をさすりながら静かに答えた。
「琵琶湖でうっかり触手に貫通されまして。その時に触手は砕いたけど、その一部が体内に取り残されて摘出不可能だったんです。まさかこんな事態になるとは当時は思ってませんでしたが」
「なるほど。だから、一緒に戦っていた皐月ちゃんと杏華ちゃんは百合花ちゃんのリリカルバーストを知っていたんだ」
「ええ。……ところで、よく分かりましたね。夜叉との関連性について」
「薄々は夜叉との交戦時からね。それが、百合花ちゃんがリリカルバーストを使えるかもしれないって聞いて確信に近い疑問に変わった」
「夜叉戦の時に?」
そんな段階で何が分かるというのか。
そう聞きかけて、夜叉との戦いとその前を思い出して先に納得した。
「リジェネレーターですか」
「そう。禍神と同じ力を使える百合花ちゃんがリリカルバーストを使えるかもしれない。これは繋がりがあると思うでしょ」
百合花自身も納得した。
夜叉の破片によって引き起こされるのはリリカルバーストだけだと思っていたが、この正体不明の力、リジェネレーターも夜叉の破片が作用してのことだったのだと今理解する。
祝福ではなく呪いだな、と自虐気味に百合花が笑った。
パソコンを閉じ、アイリーンは不安げな瞳で百合花を見つめる。
「ねぇ百合花ちゃん。悪いことは言わない。その破片は今すぐにでも取り出した方がいい」
「無理ですよ。臓器に食い込んでいるから、摘出手術になるとワルキューレとしてはもう……」
「そうかもしれないけど! でも分かってるの!?」
いきなりのアイリーンの大声に周囲の生徒たちが何事かと振り向く。
そんな中で、百合花は動じず静かなまま返した。
「分かってますよ。危険性は」
「その力は体への負担が尋常じゃない! ……万が一、長時間続けてリリカルバーストを発動させるような事態になれば……!」
「全身の細胞が負荷に耐えきれず、自壊して死ぬ」
「そこまで分かっているなら……!」
「リリカルバーストを使わなければいいだけの話ですから」
死すらも覚悟したような異様な目にアイリーンは押し黙るしかなかった。
このまま摘出を強く勧めるのが人としては正しいことなのだろう。
だが、覚悟を決めたワルキューレに対してそれは無粋だとため息を吐いた。代わりにポケットから小型の機械を取り出して百合花の指に嵌める。
「アイリーン様? これは?」
「エネルギーの測定をする機械。百合花ちゃんの覚悟は分かったよ。なら、私も百合花ちゃんを死なせないために観測する。エネルギーが危険域に入らないようにモニタリングはさせてもらうよ」
「はい。ありがとうございます」
これでいいのか、何が正解なのかは分からない。
ただ自分のこの選択が間違いじゃないと、そう、信じることが今アイリーンにできることだった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます