探知
「先生、どうか、どうかお願いします……」
俺は聞こえないよう、ため息をついた。
消え入りそうな母親の声。その母が頭を下げ、差し出す厚みのある封筒を、俺はその手から奪い取ってやりたかった。
が、できるはずもなく、目で追うだけ。超能力者と名乗るその女は黙って封筒を受け取り、深みのある袖の中に入れた。
母は姉が失踪してから日に日におかしくなっていった。俺が嫉妬するほどの溺愛ぶりだったから仕方ない。まあ、俺が小学生の時の話だが。
今は高校生。専門学生の姉もそれが疎ましくなり、どっかの男のところへ行ったのではないかと俺は母に言ったが「ありえない」と顔を真っ赤にして声を荒げた。
……いや、俺はそう思いたかったのかもしれない。
一切連絡が取れず目撃情報もない。雲行きは怪しくなるばかりだ。警察の動きも鈍い。探偵も空振り。とうとう自称超能力者の登場というわけだ。
正直、きつい状況だ。姉は失踪。父親はとうの昔に亡くなり、母は目の前で詐欺師にカモられている。金はもういい。どうにか金輪際関わらないようできないものか。どうせ曖昧なこと言って、たかるだけたかるんだろう。
と、その自称超能力者は姉の櫛に絡みついていた髪の毛を一本、自分の指に巻きつけ、目を閉じた。
「……地図を」
母がバタバタと地図を広げる。
超能力者はそれにサインペンで丸をつけ始めた。
ペンのキャップを閉じる小気味のいい音。それと同時に母が地図をふんだくった。
そして、希望に満ちた顔をして家を飛び出した。
置き去りになった俺と自称超能力者。母がいなくなり、急に部屋の湿度が下がったように感じる。自分の家なのに無音なのが居心地が悪い。が、いい機会だ。俺はちゃんと見てたんだ。どうせ適当につけてたんだろう。
「……あー、いくつか丸をつけてましたけど、そのどれかに必ず姉はいるんですよねぇ?」
「全てにです」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます