んでんど、んでんど

「犯人はあなたですね!」


「ええ!?」

「まさか!」

「そんな!」

「本当なの!?」


「ええ、今説明したトリックを実行できるのはあなたしかいないんですよ」


「……いや、もう一人いるだろう?」


「何?」


「……アンタだよ探偵さん! アンタが殺してそれを俺に擦り付けようとした!

証拠はある……録画しておいたのさ。この部屋に置かれたクマのぬいぐるみに仕込まれたカメラでな。さあ、鑑賞会といこうか」


「……それを観る必要はありませんよ」


「認めるんだな」


「いえ、やはり殺したのはあなたです」


「何? ははっ、この期に及んでまったく……」


「……ここにはあなたしかいないんです。私も罪悪感からあなたが作り出した想像物でしかない。

その証拠にほら、今までいた周りの人はどこです?」


「え、あ、そ、そんな……」


 部屋には死体と俺しかいなかった。探偵の姿も消えている。

 全て茶番。俺が殺し、その現実逃避に……。

 待てよ、この死体、何か……。

 と、見ていたらその死体も風に吹かれる砂のように消え始めた。

 じゃあ、これも想像物?

 でも、それじゃあ、一体俺は何に罪悪感を……。




「目が覚めましたか?」


「あれ? ここは」


「あなた!」

「パパ!」


「貴方は今まで昏睡状態だったのですよ」


「そうでしたか……」


 見れば医者は探偵にそっくりだった。

 現実が夢に影響を及ぼしていたらしい。

 看護師はギャラリーに。

 そして妻は……あの夢の中の俺に、そう、犯人にそっくりだった。

 そしてあの死体こそが俺だった……。


「先生、俺はどうして……」


「強盗よアナタ。後ろから殴られたの。本当に覚えてない? ねぇ本当に? ねぇねぇ?」


 目を見開き、執拗に確認してくる妻。この必死さ。まさか妻が俺を……。




 土を掘り、外に出る。

 そこに、ちょうどいい木があった。

 長い眠りから覚めたその蝉の幼虫は木に登り始めた。

 今見た妙な夢を誰かに話せないかと思っていたが羽化した途端、どうでも良くなった。

 ただただ交尾がしたかった。


 飛び回った末、電柱にとまり鳴き始めた。

 その鳴き声とそばの家の中の声が重なる。


「ミーンミンミンミン犯人ミーミーンあなたミーンミンですねミンミンミー!」

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