手術後

「……ア……アウァ……ウー……」


「気分はどうですか?」


「気分……ウゥウー……ああ、そうか……手術、終わったんですね……」


「ええ、手術。そうです。まだ麻酔が効いているから意識がぼやけていると思いますが、そのうちハッキリしますよ。……なんて、初めてではないから知っていますよね。と、ご家族が見えましたよ」


「あなた!」

「パパ!」


「……」


「どうしたの? わたし、手術のたびに心配で心配で……」


「……誰なんだ? 私に妻と娘はいるが……違う。違う! 違う! 知らない! 見たこともない顔だ!」


「落ち着いてください。手術の影響ですよ。すぐに、記憶はハッキリしますから」


「違うんだ先生! ま、前にも似たようなことが……そうだ、前の手術のあとも妻と娘が別人に代わっていたんだ! 一体、一体なんなんだ! 私の妻と娘はどこなんだ!」


「あなた……」

「ダメなの……?」


「さぁ、奥さん。娘さんを連れて別室へ。ご主人は記憶が混乱しておられる。今は一人にしましょう」


「はい……」

「パパ……」


 妻と娘を名乗る二人は医者に連れられ、出て行った。その寂しげな顔と背中。去り際に娘を名乗る女の子が小さく手を振っていたのが、申し訳なく、いや、いやいや。あれは他人だ。気にすることなんてない。年齢だって違う。あの女の子の方が幼い。

 しかし、なぜ。医者が言うように混乱して? 違う……まるでパラレルワールドに来たような……。もしかしたらあの二人はこの世界の私の妻と子? それか私を騙し……いや、馬鹿馬鹿しい。もっと現実的に考えるんだ。あの女性と女の子は確かに私の家族。

私を騙す意味だってない。そう、医者の言う通り、混乱している。精神的な不安のせいか何かで幻覚を見ているんだ。

 きっと手術が全て終われば元通りに……そう、元通りになるはずだ。楽しい日々。大丈夫、覚えている。妻と娘の顔……顔は……。




「あの、やっぱり駄目そうですか?」


「んー、どうにもメモリーが不調みたいなんだよねぇ。これまでの所有者との日々の記憶が混在しているみたいで、んー、購入時ちゃんとリセットできてなかったんだなぁ……ちょっとなぁ……」


「あの、どうしても前に壊れたのと同じ型のあのロボットが良いって娘が聞かなくて……」


「うーん、それで買ってから一年でしたっけ? 中古品はなぁ……しかも人間なりきりタイプ。これ今ちょっと危ないみたいな話もあるんですよねぇ」


「たった一年でも思い出がありますから……全然出回ってない中、ようやく見つけたものなんです! 何とかお願いします! また失ったら娘がかわいそうで……」


「うーん、ちょっと様子見て、また十五分後にでもやってみましょう。次うまく行かなければ、全ての記憶の完全消去も考えてくださいね」

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