真夜中の鳴き声
「アーウ、アーウ!」
……忌々しい野良猫の鳴き声。発情期かなんか知らねぇがマジで耳障り。
だが、ムカつくのは窓を開けて姿を確認しようとしても、どこにいるのかわかりゃしないことだ。闇ん中に隠れるのが上手いんだあいつらは。ああ、苛立つ。そもそも猫は嫌いだ。自転車が尿臭かったことがある。あいつらがトイレにしてやがったんだ。
だから昔は見かけると決まって石を投げ……妹が泣きそうな顔で止めてたっけな。
その妹とはここ数ヶ月ろくに会話していない、それどころか避けられている。アイツはアイツで思春期か何かかな。なんたら期っていうのはその生き物の頭をおかしくするのか。
ああ、まただ。うるせぇ。近いような遠いような。いないような、そこら中にいるような。クソ猫め。
……お、いや、本当に近いな。マジか。よーし、ちょっとやってやるか……。
……いいぞ、向こうはまだ気づいてないみたいだ。アーオアーオ鳴いてやがる。裏庭のほうだ。思いっきり脅かしてやれば、うろつかなくなるだろう。蹴りでも入れられればなお良しだ。
「アーウ、オーウ」
いる、確実にいる。
「アーウ、アーウ」
「アー」
「ウニャー」
あん? 一匹じゃないのか? うちの裏庭を集会場にでもしてやがるのか。
「アァアァン、アンギャァアア……」
……いや、この声……赤ん坊?
人間の……いや、まさか。
でもこの声……。
そこの角を曲がればわかることだ。
でも足が動かない。
……あ。
妹。
何故かその姿が頭に浮かんだ。
最近はそう、俺から隠れるように……特におなかを見せないようにしてた。
……馬鹿。ただの思い込みだ。連想して決めつけてるんだ。だが……妄想と笑い飛ばすには確認するしか……。
……猫だ。
でも、やっぱり一匹じゃなかった。
何匹も。取り囲むように。
その中心にはまるで芽のように土から出た小さな手。
でも、それに生命力のようなものは感じない。蝿が飛び交っている。
猫共が鳴き出す。俺の姿を見ても逃げることもせず。
その中に混じるように、でもハッキリと聞こえた。
母猫を呼ぶ子猫のような不安に塗れた泣き声だった。
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