光を追って
停電。突然、闇に覆われ光に群がっていた虫は四散する。
ではその時、人はどうする?
立ち止まり、込み上げる不安に怯える。闇を恐れるのは本能。
尤も、現代人にとってはどうってことない。とくに図太い精神を持ち合わせた者はその歩みを止めはしないだろう。
夜道を歩いていたこの青年もそうであった。物珍しさにどこか心が浮き立っていた。
停電が起きた。それも恐らく、ここら一帯の大停電だ。もしかしたら町全体かもしれない。わからないがかなり広範囲であることは間違いないなさそうだ。
青年は辺りを見渡し、そう思った。
街灯は消え、照らすのは月と星の光だけ。それでは家路を歩くには少々心許無い。
しかし、これも貴重な体験かもしれない。そう楽観的でいられるのも悲しくも冷蔵庫の中に腐るほど物がないからだろうけど。と、青年は自嘲気味に笑った。
何にせよすぐに復旧するだろう。大方どっかの誰かが電柱に車をぶつけたとかだ。
そう思った青年が街灯を見上げた時であった。
灯りが点いた。これで解決……いや、妙だ。街灯が点いたには点いたが一箇所のみだ。予備バッテリーつきの最新式? いや、何の変哲もないタイプに見える……。
青年がそのまま見つめているとフッと光が消えた。と、思ったら今、隣の街灯が点いた。と思えばまた消え、今度は二つ離れた街灯が点いた。また消え、今度は近くに停めてあった自転車のライトが光った。まるで光が生きているようだ。
青年は光に近づいた。
すると消えて、また街灯へ。
それを追うと、別の街灯へ。
逃げている、という訳ではない。青年を招いているように光は行ったり来たり移動している。
悪戯好きの子供のような光。妖精? いや、そんな馬鹿な……いや、それはさて置いて、何か導くような感じがするのは確かだ。まさかあの光を追った先に何かお宝が……。そう、光る物と言えば……金塊とか。
そう考えた青年の足は自然と速くなる。やがて走り出し、ニヤつく顔はまるで犬のよう。本能を剥き出しにし、どこまででも追いかけるつもりでいた。
が、突然、光が消えた。
どこにいった? 見えないぞ、あ、まさか、お宝はこの辺に?
辺りを見回す青年。その目の前に突然、突き刺すような激しい光が迫った。
ああ、光だ……。
青年は満面の笑みを浮かべた。
けたたましいブレーキ音を耳にするまでは。
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