4−2
目覚めると、見慣れた天井が広がっている。
わたしは自分のベッドに寝ている。
朝。
夢を見ていたのだろうか。また変な夢を。
バルコニーへ出る。
いつもと変わらない光景。静かな町並み。空を覆う硝子。その向こうを飛んでいく鳥。
鳥。
〈蛇〉と名乗った、黒い鳥。艶やかな羽も、穏やかな声も、まるで見てきたように記憶の中に残っている。
あれは、夢?
彼は、幻?
名前を呼ばれる。振り向くと、母性担当保護者が部屋の戸口に立っている。わたしを朝食に呼びに来たのだ。わたしは頷き、彼女に従い階下へ降りる。
食卓ではすでに父性担当保護者が朝食を摂っている。彼は、わたしがなかなか降りてこないのを寝坊だと思って笑う。わたしは敢えて抗弁しない。すると母性担当保護者が、バルコニーで何をしていたのかと問うてくる。鳥を見ていたのだとわたしは答える。
開け放った窓の外からは、鳥のさえずりが聞こえてくる。その中で、食器の触れ合う音が響いている。歌に合わせて楽器を鳴らしているような気分になる。
昨日と同じ。
その前と、そのまた前とも。
全ての過去との区別がつかない、いつも通りの風景。
けど、何かがおかしい。
これまでとは、何かが違う。同じような日常を積み重ねてきた、これまでとは。
わたしは保護者たちに訊ねる。
どうして空は硝子で覆われているのか、と。
二人は顔を見合わせる。いつもと同じ反応。小声で何か言い合い、こちらを向いて父性担当保護者が話し出す。
大昔の人間が犯した過ちから身を守るためだ、と彼は言う。これは罰であり、同時に加護でもあるから、疑ってはいけない。
疑ってなどいないと、わたしは首を振る。ただ、硝子の向こうを鳥が飛んでいるのが気になっただけだ、と。
我々にはあれが〈空〉なのだと父性担当保護者は言う。人には人の〈空〉があり、鳥には鳥の〈空〉がある。それを受け入れなくてはいけない。
二人は早くこの話題を切り上げたいと思っている。禁忌に触れるからだ。彼らは一刻も早く、そこから立ち去ろうとする。わたしは、むしろ奥深くへ分け入りたい気持ちでいっぱいになっている。どこかおかしいのだろうか。
歌はどうか、と母性担当保護者が訊ねてくる。それで、空の話題は一掃されてしまう。
昨日と同じように。
いや違う。今、わたしの目の前に広がる光景は寸分違わず〈昨日と同じ〉なのだ。
それを立証するものは何もない。わたしの勘違いとも言えなくない。だけどわたしには確信がある。揺るぎない、自信を持ってそうだと述べられる確信が。
昨日が繰り返されている。
歌はまだできていない、とわたしは言う。それから息を呑み、恐る恐る二人に訊ねる。
小説家の〈送り〉の儀式は、いつ行われるのだろうか、と。
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