第169話 星暦553年 桃の月9日 旅立ち?(4)(第三者視点)
>>>サイド ハルツァ・ウォルバ
魔術院から通信機で呼び出しが入った。
来月から長期依頼が入っているので、妊娠した妻と出来るだけ時間を過ごすために家に帰っていたのだが・・・。
嫌な予感がする。
新しい家族というのは色々と出費がかさむ。そこでつい、出来心で若い魔術師の無知を利用出来るように動いたのだが・・・ばれたのだろうか?
だが、まだあれから4日だ。
最初から怪しんでいたのだったらその場で報酬に合意せずに調べてからとか言っただろう。
怪しんでいなかったのだったら、たった4日で報酬の件がおかしいと呼び出しが掛るなんてことは無いはずだ。
何か依頼について疑問があったのだろうか?
・・・それとも誰かが余計な入れ知恵をしたのか。
あの3人組のうちの誰かが精霊の加護持ちに対する正当な報酬を知っているのだったら、その場で何か言ったはずだ。
だが、シャルロ・オレファーニないしはウィル・ダントールが精霊の加護持ちとしての過去に依頼を請けたという記録は無い。
シェフィート商会にしても船を使った事業にあまり関係はないはずだ。
今回の依頼が来たときに侯爵家の3男と聞いたことも無い若手魔術師だと聞いて、もしかしたら・・・と思って念のために調べておいたのに。
どこから話が漏れた??
どちらにせよ、まだ正式な契約文書は発行されていない。
態と年末の混乱に紛れ込ませて遅れるように手配しておいたので、決定的な証拠は何も無いのだ。
若い魔術師が何らかの理由で報酬に疑問があって質問してきた程度だったら、
もしも技能報酬の話がばれたとしても『うっかり』で押し通せる・・・と思いたい。
それに単に何か確認事項があるだけかも知れないし。
もしくは追加的な連絡事項だとか。
単なる連絡事項や確認事項だったら通信機ですむという事実を考えないようにしながら、着替えて魔術院に向かった。
◆◆◆◆
何故か、特級魔術師のアイシャルヌ・ハートネットが外部依頼担当の長老であるデジレ・ヴォーンと共に部屋に居た。
「ハルツァ。よく来てくれた。
実は、今回の東大陸への新規航路開拓の案件でな。
まだ正規契約書が交付されていないので君に確認したいのだが、シャルロ君の方に精霊の加護持ちに対する報酬の話が伝わっていないようなのだ。どうなっているのか教えてくれ」
部屋入って二人の前に立った途端に、デジレが聞いていた。
魔術院の長老と、特級魔術師だ。
あちらの方が圧倒的に上位であるとは言え、椅子も勧めすらせずに詰問されるとは。
状況はかなり不味いようだ。
「おや?
通常報酬として3人に金貨30枚、今回の航海で無事航路を開拓できた場合の成功報酬に更に金貨30枚、そしてシャルロ君の技能報酬として金貨50枚となっていたはずですが・・・技能報酬の話がちゃんと伝わっていませんでしたか?」
向こうから突っ込みがなかったらこの技能報酬を素知らぬ顔をして懐に入れてしまおうと思っていたのだが、どうやらどこかからばれたらしい。
まだ、連絡ミスとして押し通せる。
今まで一度も不正などしていないのだ。一気に
必死にそう自分に言い聞かせながら、軽く驚いた風な表情を作って答える。
「ほぉう?連絡ミスだと言うのかね?
面と向かって話し合っていたというのにどうやってミスが起きうるのか、不思議なのだが」
特級魔術師のアイシャルヌ・ハートネットが口を挟んだ。
何だってここに特級魔術師が出てくるんだ??
あの3人の若手魔術師はあまり魔術院の上層部と伝手がないので、今回の案件に関しても質問があった場合は自分経由で話が上がると思っていたのに・・・。
うっかり者で研究バカの自分の上司ならば何とでも言いくるめられるから今回のコトに踏み切ったのに、一気に長老のデジレまで話が言った上に、何故か特級魔術師まで出てくるなんて想定外だ。
「精霊の加護持ちに対する技能報酬は基本的に金貨50枚ですからね。
当然知っていると思っていた為に、口に出して確認し忘れたのかも知れません。
自分としてはちゃんと一連の報酬の取り決めの際に言ったつもりだったのですが、抜けていたのでしたら後でシャルロ君に謝罪しておきます」
あのお坊ちゃんだったら『善意のうっかり』を信じてくれるだろう。
だが、残りの二人がいないところで謝罪しておく方がいいだろうな。
ちっ。
あの3人が一緒に居ない状況を確認するために、情報屋に金を払わなければならん。
「では、技能報酬のことを故意に言い忘れて自分の懐に入れようとする意図は無かったと?
特級魔術師が聞いてきた。
「アイシャルヌ殿。
何か被害があったというのならまだしも、単なるうっかりした言い忘れに
実害は無かったのだ。
今後はこういった契約の際には、きっちりと契約書を初日に纏めて行き違いが無いことを確認する様にしていこう」
冷や汗を掻きながらどういう言い回しにすれば
「まあ、転移門に詳しい魔術師は少ないからな。
それ程ハルツァをデジレ殿が信頼しているのだったら、信じるとしよう。
今後は若い魔術師達の無知を想定して、色々教える方向で彼らと交わってくれることを期待しているぞ」
ため息をつきながら特級魔術師が頷き、席を立った。
ふうぅ。
思わず、息が漏れた。
「初めての子供だったか?」
じろりとこちらを睨みながらデジレが聞いてきた。
「妻ですか?
はい、そうです」
それなりに親しくしている長老なので、今の妻と結婚した際の結婚式にも呼んだ。
中々妊娠できなくて悩んでいたのも知っている。
「子供というのは色々と物入りだからな。
それに気を取られてうっかりしていたのかもしれんが、今後は気をつけるのだな。
一度目はうっかりですんでも、二度目は意図的だと見なすぞ。
あと、書類が年末の混乱でどこかに紛れてしまったようだ。さっさと正式書類を作成させて届けておけ」
無表情に命じて、デジレが退室した。
どうやら、分かっていてかばってくれたようだ。
借りが出来たな・・・。
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