第149話 星暦553年 黄の月10日〜11日 ちょっと趣味に偏った依頼(15)

「ウィル君、樹木霊がいるって本当かい?!?!?」

朝、テントに行ったらツァレスその他諸々に質問攻めになるかもなぁとは思っていたが・・・俺の予想は甘かった。


何と。

朝食を食べている最中に宿に押しかけてきたのだ。

興奮しまくったツァレスと、ちょっと申し訳なさそうなシェイラが。


昨晩の夕食の様子を聞かれたので二人に話していたら、何やら苦笑された。そしてシャルロが何か言いかけたところだったのだが・・・流石にこの乱入は予想していなかったのか、驚きに目を見開いたまま、シャルロの動きが止っている。


「ごめんなさいね、これでも、あのあと宿でツァレスさんに会って樹木霊の話をした時に、すぐさま直行しようとしたのを何とか止めたのよ?」

うわぁ。

下手したら、昨晩の襲撃がありえたのか。

だったら朝食を邪魔されるぐらいは・・・いや、それでも文句を言いたいぞ。

俺は朝はゆったり食べてお茶をノンビリ飲む派なんだ!


不機嫌そうな俺を見て、アレクがツァレスへの対応を買って出てくれた。

「ええ、どうやらあの遺跡で人避け結界に組み込まれていた全ての巨樹に樹木霊がいるようですね。

学会のフォラスタ文明の資料にはそのような前例は載っていませんでしたか?」


「巨樹があったという事例は幾つかあるんだが、何分我々には樹木霊なんて探知出来ないからね。

ベルダ先生も使い魔との契約は大分前に解除したとのことなので、樹木霊は分からないそうだ」

うわぁ。

ベルダ氏の所にも既に行っているのか。


だけど、現在使い魔がいないんだったら、ベルダ氏が新しく幻獣を使い魔にしたらどうかね?


精霊の加護を貰うのはあっちの気分次第でこちらからお願いして出来るもんじゃあないが、使い魔だったら根気よく呼びかければ気まぐれな幻獣がそのうち見つかるだろうに。


シャルロが蒼流を呼び出した。

「幻獣でも良いんですが、今回は僕の精霊を通して話をしてみましょうか。

多分蒼流から呼びかけた方が樹木霊さんたちが対応してくれる可能性が高くなると思うんで。

だけど、人間が興味を持つようなことは殆ど相手には認識されていないと思いますよ?」


だよねぇ。

蒼流ですら、以前のオーパスタ神殿関連の遺跡の場所を教えてくれたけどあの遺跡に暮していた人達のことはろくすっぽ答えられなかったんだから。


俺たちも樹木霊の存在が発覚した際に何本か廻って話を聞いてみようとしたが、シャルロですら暫く頑張った後に諦めたからなぁ。


◆◆◆◆


「じゃあまず、人避け結界は何のために設置されたんだい?」

ツァレスが樹と蒼流に向かって大真面目に尋ねる。

ううむ。

蒼流の呼びかけに答えて、樹木霊が現れているっぽく巨樹の幹が俺たちの傍で明るくなっているので樹木霊がそこにいるようだが、他の人間から見たら変な風景だろうなぁ。


精霊のやり取りというのは人間には聞こえない。

少なくとも、俺には関知できない。

なので退屈そうに蒼流が突っ立っているようにしか見えないのだが・・・。

流石に、『シャルロのお願い』で来ているので、多分ツァレスの言うことをちゃんと理解して、樹木霊に伝えているんだろうなぁ。


が。

蒼流も樹木霊も目に見えた変化がない。


微妙に気まずい沈黙が流れた。

どうせだったら蒼流も樹木霊に対して声を出して話しかけてくれれば良いのに。

気がきかん!


お茶でも淹れに行こうかと考え始めた頃に、やっと蒼流が口を開いた。

「憶えておらぬそうだ」


・・・そんなこったろうと思ったよ。


元々興味があったかどうかだって疑わしいし、流石に数百年も前の話だったら樹木霊にとってだって大分昔の事だろうし。


失望を隠せなかったツァレスだったが、めげなかった。

「じゃあ、ここの人々がいなくなったのは何故か、教えて貰えないか?」


またもや長い沈黙。

「人が減ったからだそうだ」


そりゃあ、遺跡になったからには人間がいなくなったんだろうけどさぁ。


何故減ったか。

子供が生まれなくなったからなのか、流行病か何かで住民が死にすぎたのか、それとも戦争か何かだったのか。

そこら辺が重要なんだけどねぇ。


樹木霊や精霊はそういう彼らにとって『細かいこと』は認識してない可能性が高い。

ツァレス達はシャルロに任せて、俺は遺跡の調査に戻ろうかなぁ・・・。


◆◆◆


結局、昨日は午前中一杯(とシャルロが優しいので午後も少し)かけて学者たちの樹木霊との話し合いの試みに協力したが、得たものはほぼ皆無だった。


『残りの日数全ての時間をかけて付き合えば、多分少しは興味深いことを聞けるかもしれませんが・・・固定化できる遺跡なり発見物の数が実質半減しますけど、どうします?』とシャルロが聞いたところ、ツァレス達も諦めたようだ。


自分が興味があることに特定して質問するから、余計『覚えていない』と言ったようなどうしようもない返事が来るんだよなぁ。


まだ、何かもっと漠然としたことを質問したほうが樹木霊の方から面白いことを語ってくれる可能性があるだろう。

が。


そこまで割り切るには学者たちの思いいれが強すぎ、そして俺たちの時間は限られている。

なのでとりあえず、今まで通りに固定化の術をかけたり、魔術がかかっている(つまりフォラスタ文明の人間が意図的に作ったものであると思われる)物を見つけるのを優先的にしていくことになった。


まあ、シャルロは優しいから、ちょくちょく自由時間にでも暇があったら付き合ってあげるんだろうけど。


俺?

清早でもある程度協力は出来るんだけどね~。

あいつは若い(精霊としては!)し人間慣れしてないから、余計質疑応答の中継ぎには向いてないんだよね~ということでそ知らぬふりを決め込んでる。


俺自身が興味があることを質問したり、話を聞けるならまだしも、学者どもの質問にいつまでも付き合う暇はない。


アレクだって、ラフェーンなら樹木霊と意思疎通できるのにそんなことは一言も言わずに、全部シャルロに押し付けてるし。


「ウィル!」

遺跡の中央テントに行ったら、シェイラが出てきて手を振った。


「おはよ」


「おはよう!

今日は北西の巨樹の確認したいの。お願いできる?」

いつの間にか、巨樹の周りを浮遊レヴィアで周る魔法陣や術がかけられた遺跡物捜索は俺とシェイラの役割になっていた。


なので毎朝俺がテントに行き、シェイラがあらかじめ他の学者連中と話し合って決めておいた巨樹周りの操作のために手をつないで出ていくことになる。


・・・なんか、みんなの目が生暖かいんだよなぁ。


まあ、俺もシェイラは気が合うと思うし。

自分が興味があることにはのめりこむ姿勢も面白いと思うから、これからも仲良くやっていくのもいいと思うけどさぁ。


毎回手をつないで動き回ることにちょっと恥ずかしさを感じるんだよねぇ。

とは言え、それなりに広い遺跡の中を巨樹まで歩いていくよりは、浮遊レヴィアで行っちまう方が速いんでちょっと微妙な気分だからって態々歩く気はないが。


「お、そちらが貧乏発掘隊に協力してくれる、奇特な魔術師君かい?」

若い男がテントからた姿を現し、声を掛けてきた。


「そう言えば、こちらはデルバン。大学院での同期だったのよ。

今度こちらの発掘隊に加わることになったの

デルバン、こちらがウィル。3人来てくれている魔術師達のうちの一人よ」

振り向いたシェイラがその男を紹介してきた。


へぇぇ。

シェイラは大学院まで行ったものの、飛び級をしまくったせいで俺とほぼ同い年だ。

このデルバンという男はあまり飛び級をしなかったのか、もう少し年上だな。


が、他の学者連中に比べれば格段に若いし、身だしなみもまともだ。


・・・あまり、学者には見えないな。

商家の息子と言われても納得しそうだ。

「初めまして。

ウィル・ダントールです」


何とはなしに、シェイラのすぐ傍に立ってこちらに握手しようと手を差し出してきた男が気に障って不愛想に答えた。


大学院での知り合いだとしても、ちょっと近くに立ちすぎじゃないのかい、あんた?


「じゃあ、後でね、デルバン!」

明るく男に声をかけたシェイラは、俺の手を握って北西の方向を指した。


「さあ、行きましょう!

昨日はなんだかんだで一日つぶれてしまったから予定がずれ込んでいるのよね。

今日はガンガンやるわよ~!」

既に安全装置も身に着けてるし、さっさと行くか。


「それじゃ」

別れに手を挙げたデルバンに軽く頭を下げ、浮遊レヴィアの術をかけてシェイラの手を握ったまま移動を始める。


・・・なんか、視線を感じるな。

でも、振り向くのも疑っているようで変だし。


あのデルバンってどんな人間なんだ?

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